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『名探偵コナン 紺青の拳』はキャラクターの関係性が焦点に シリーズ初の女性監督がもたらした偉業

リアルサウンド

20/4/17(金) 12:00

 ゴールデンウィーク興行でも主役といっていいほどの注目を集めるのが劇場版『名探偵コナン』シリーズだ。ファミリー層を中心とした多くのファンに、年に1度のお祭りとして愛され続け、日本の映画界を語る上では欠かせないほどのビックタイトルになっている。今回は第23作品目『名探偵コナン 紺青の拳』がTV放送されるにあたり、近年の劇場版シリーズを振り返り、『名探偵コナン 紺青の拳』の魅力に迫っていきたい。

参考:『名探偵コナン 純黒の悪夢』がシリーズの転換点となった理由 “2つの要因”から紐解く

 劇場版『名探偵コナン』シリーズは、近年大きな注目を集めてきた作品の1つだ。15作目の『名探偵コナン 沈黙の15分』以降、興行収入を右肩あがりに伸ばしていき、2018年の『名探偵コナン ゼロの執行人』からは90億円も突破するなどの大ヒットシリーズとなっている。その立役者の1人が『名探偵コナン 沈黙の15分』から、21作目の『名探偵コナン から紅の恋歌』まで監督を務めた静野孔文だ。静野はスクリーン映えする派手なアクションを多く取り入れることにより、エンターテインメント性を高めていき、興行収入を伸ばすことに成功した。

 7年間監督を務めた静野孔文が退いたのち、コナンシリーズはどのような変化を迎えるのか注目された。立川譲監督を迎えた22作目『名探偵コナン ゼロの執行人』は、派手なアクションは継承しつつも、公安など警察権力の力関係などを描いた、ミステリー色が強い作品となっていた。そして23作目の『名探偵コナン 紺青の拳』は、シリーズ初の女性監督であり、30代と若手の永岡智佳が起用された。

 永岡監督は『名探偵コナン から紅の恋歌』でも助監督を務め、後半の平次がバイクに乗ってアクションを繰り広げるシーンの演出を担当していたと『アニメスタイル インタビューズ01』(メディアパルムック)で明かしている。その経験を活かした本作は、怪盗キッドや京極真の持ち味を発揮した、豊富なアクションがありながらも、キャラクターの関係性をしっかりと捉えたラブコメ・ミステリーの要素も兼ね備えた、万人に受け入れられる作品となっている。

 劇場版『コナン』シリーズの特徴の1つが、時には原作にも影響を与えるキャラクター同士の関係の描き方だ。時には原作の本筋である、黒の組織の重要な秘密に迫る内容などが、大きな話題を呼ぶ。これは原作者の青山剛昌が、積極的にシナリオの打ち合わせから絵コンテのチェック、原画を書き下ろすなど、劇場版作品に毎年深く関わることによって、原作と関連した物語を作ることが可能になっている。『名探偵コナン 紺青の拳』では、京極の秘密がわかるラブコメパートなどのアイディアを出している。

 永岡監督はそのアイディアを活かしながらも、キャラクターの関係性を魅力的に映像として描いた。公開日は本作よりも後になるものの、2019年に公開された『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』も監督しており、キャラクター同士の掛け合いや、音楽の使い方によって、多くのファンに向けた演出を行っていたのが印象的だ。

 本作でも印象に強く残る演出が特徴的だった。例えば、怪盗キッドが傷つきながらも、協力関係にあるコナンと原作でも有名なマジシャンと探偵の例え話をし、月光の元に立ち上がるシーンでは、背後に輝く月光が観客の視線を集める。この月光は、後半のシンガポールの街に豪華客船が衝突するシーンの伏線にもなっている。ここではドビュッシーの「月の光」が流れるのだが、月光は怪盗キッドを象徴するモチーフの1つであり、この曲と共に犯人との対決の場に向かうことで、一度は攻撃されたキッドが反撃に出る姿を描き出している。また、あえて緩やかな印象のクラシック音楽を使うことで、この後に起こる大きな事件や、アクションなどの山場に向けたタメの演出となっている。

 また、今作はシンガポールが事件の舞台となるが、『コナン』の劇場版作品としては初の海外を舞台にした作品だ。時には幻想的な雰囲気も漂い非日常感も伝わり、1年に1度のお祭りである劇場版作品にふさわしい体験を観客を提供する。そして、シンガポールの映像の美しさもさることながら、驚いたのは英語のセリフの多さだ。多くのファミリー層に向けたアニメ作品では、海外や異世界を舞台としても、セリフは日本語のままの作品も多い。国が変わってもなぜ日本語が通じているのか? という疑問が発生しても、アニメだから、という理由でそのまま流してしまいがちではあるが、今作は英語は英語、日本語は日本語と分けられている。この試みによって、非日常的な雰囲気が増しているように感じられた。

 その結果もあるのか、本作の海外での高い人気も注目したい。特に中国では30億円以上の興行収入を記録するなど、世界でも高い人気を発揮している。『映画ドラえもん』シリーズなどの、毎年公開されるおなじみのキャラクターの映画作品は中国などの世界でも高い人気をほこり、安定した興行収入を記録している。『コナン』も同じようにキャラクターとしての知名度だけでなく、作品のブランド力も確立され、多くのファミリー層を中心としたファンを魅了しているのだろう。

 今年こそは日本興行収入100億円突破を! と高い期待が集まっていた『名探偵コナン 緋色の弾丸』は、新型コロナウイルスの感染拡大により公開が延期された。こちらも永岡監督作品であるだけに、キャラクターの魅力を最大限に引き出した作品になっているのではないだろうか。この騒ぎが収束し、劇場が再開された時、コナンシリーズは1年に1度のお祭りを改めて観客に提示し、平穏な日々の象徴として、多くの人に愛され続けるだろう。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。

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