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『ここは今から倫理です。』『その女、ジルバ』など、“安眠”ドラマが土曜日に渋滞中!

リアルサウンド

21/2/20(土) 8:00

 土曜の夜はドラマが多すぎる。

 『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』(テレビ朝日系)だけは23時開始なのでかぶっていないが、そのあと23時30分からよるドラ『ここは今から倫理です。』(NHK総合)と『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』(テレビ朝日系)があり、23時40分から『その女、ジルバ』(東海テレビ・フジテレビ系)が始まる。

 どうしてこんなに渋滞しているのか。視聴率ではドラマの価値が測れないとはいえ、やっぱり視聴率は気になるもので、こんなに各局ドラマかぶりしなくてもいいではないかと思ってしまう毎週土曜日の夜。全録レコーダーがあれば全部録画できるし、配信などを駆使すればすべて観ることは可能。だが、せっかく家にいるならリアルタイムで観たいのがテレビドラマ。録画や配信で止めたり巻き戻したり早送りしたりできるゆるい状態ではなく、今、この瞬間、真剣に観るという感覚で臨みたい見応えのあるドラマばかりだから悩んでしまうのだ。

 30分~40分の短めなドラマで、週末、気楽に観られるからこそ、じっくり観たいという、いささか矛盾しているけれど、各局、良作を繰り出してきていて、土曜の23時30分台はドラマ好きにとってはパラダイスである。一作一作、その魅力を解説してみたい。

『ここは今から倫理です。』

 読書が好きな人なら『ここは今から倫理です。』がおすすめ。ほか、学園ものや、フレッシュな俳優が好きな人にも。

 雨瀬シオリの漫画の実写化。倫理教師・高柳(山田裕貴)は、生徒たちが抱える問題を解決するため、マックス・シェーラー、キルケゴール、ソクラテス、ハンナ・アーレント……など哲学者たちの言葉を贈る。男友達の欲望を断りきれない女子生徒の問題、シングルマザーである母と男子生徒の問題、男性教師と女子生徒の問題……と何かとデリケートな問題の数々に向き合うとき高柳は、熱い精神性や身体的な衝動ではなく、あくまで怜悧に手を差し伸べる。知識があれば避けられる問題が、ないばかりに衝動や感覚で誤った道を選択してしまう者たちがいる。せっかく学ぶために学校に通っているのだから、大人になってしまう前の可能性の大きなときに、教養を身に着け、知性で困難を言語化することで乗り越えていくことの大切さを問うドラマは、世の中がどんどん簡単になっている今、観るべき作品である。

 山田裕貴演じる先生が自身もまだ迷っていて哲学者の至言に救いを求めているように見えるところも興味深い。教師が必ずしも絶対なのではなく、生徒たちと一緒に悩み苦しみながら歩いていく姿を見ることで、生きるとは何か、善と悪とは何か、あらゆるものごとに対してなぜ?と常に問いを突きつけていくことの大切さが伝わってくる。

 また、難しいことを抜きにして、学園もので楽しみなのは、生徒役を演じる俳優たちのフレッシュさ。傷つき悩み揺れ動く少年少女のなかから推しをみつけるのも楽しい。

『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』

 業界裏話が好きな人なら『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』がおすすめ。ホームドラマやコメディが好きな人も。

 朝ドラ『まんぷく』(NHK総合)や大河ドラマ『龍馬伝』(NHK総合)などを手掛ける人気脚本家・福田靖の半自伝的ドラマで、生田斗真演じる脚本家・吉丸圭佑があるとき突然、ゴールデンタイムの連ドラのチーフライターに抜擢される。テレビ局のプロデューサー(北村有起哉)や演出家(小池徹平)、主演俳優(岡田将生)などの意見に振り回されながら、綱渡りのようなギリギリな状況に苦しんでいるとき、不気味なスキンヘッドの男(浜野謙太)が現れ、圭佑をさらに迷わせる。この謎の男、浜野の怪演が伴い、不気味で楽しい。

 ちゃらっとしていて人気俳優の言いなりの事なかれ主義なプロデューサーだとか、好き勝手なことばかり言う俳優など、芸能界に実際ありそうで、こんなにも無理難題を言われ、変更に次ぐ変更のなか、短い時間で脚本を書かないといけないなら、ドラマの内容がグダグダになっても仕方ないような気さえしてくる。プロデューサーがただちゃらいだけでなく、隠していた矜持を語るところは感動的。圭祐が書いた荒唐無稽なヴァンパイアものの劇中ドラマも別途独立して作ってほしいくらいだ。

 圭佑が自宅で作業しているので、ベストセラー作家の妻(吉瀬美智子)、娘(山田杏奈)と息子(潤浩)の4人家族というホームドラマとしても見ることができる。

『その女、ジルバ』

 ヒューマンドラマが好きな人、前向きになりたい人には『その女、ジルバ』がおすすめ。名優の巧い芝居を楽しみたい人にも。

 40代を超えた女性たちが助け合いながら生きていく、有間しのぶによる漫画の実写化は今期、最高との声も上がっている。40歳になって、結婚相手に逃げられたうえ、職場では左遷とふんだりけったりの主人公・笛吹新(池脇千鶴)が、昼は物流センター、夜は50~80歳までの女性ばかりの熟女BARで働き始めたことで人生に光が差し始める。

 BARで働く、高齢ながら生命力にあふれる先輩たちに刺激され、生きる力を獲得していく新。草笛光子、中尾ミエ、草村礼子、中田喜子、久本雅美演じる、人生の先輩女性たちの艶やかさとパワフルさに、最初はしょぼくれていた新が影響されてどんどんきれいになっていく様を見ているとこちらも元気になる。

 江口のりこ演じる物流センターの同僚たちとの関係性もいい。このドラマの登場人物たちにはマウントという行為がない。穏やかに、日々の生活を大事に、一歩一歩、堅実に生きている。夜になれば、キラキラな世界のなかで着飾って、歌って、踊って……とひとときの解放感を味わう。諦めや卑屈さからではなく、ちゃんと自分と向き合い肯定していくことで、自分のみならず他者を受け入れ助け合っていけるようになるという人生の真理が提示される。

 「ひとを恨まないと心のなかが軽くなる」という第6話の新のセリフはまさにその象徴のようだ。BARの初代ママ・ジルバのとびきり素敵な笑顔の写真が池脇千鶴の二役で、新はいつかきっとジルバのようになるのだろう。

 まったくジャンルの違う3本の土曜のドラマに共通点があるとすると、夜に心が落ち着き、安眠できるドラマであること。『ここは今から倫理です。』は思考が整理できてすっきりし、『書けないッ!? 』は笑って気分が楽になり、『その女、ジルバ』は優しい気持ちになる。だからこそ、ドラマかぶり、もったいない。とはいえ、良質なドラマが混戦するほど作られていることは喜ばしい。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■放送情報
よるドラ『ここは今から倫理です。』
NHK総合にて、毎週土曜23:30~放送【全8回】
出演:山田裕貴、茅島みずき、池田優斗、渡邉蒼、池田朱那、川野快晴、浦上晟周、吉柳咲良、板垣李光人、犬飼直紀、杉田雷麟、中田青渚、田村健太郎、梅舟惟永、異儀田夏葉、藤松祥子、川島潤哉、三上市朗、陽月華、山科圭太、木村花代、古屋隆太、成河
脚本:高羽彩
原作:雨瀬シオリ『ここは今から倫理です。』
制作統括:尾崎裕和、管原浩
音楽:梅林太郎
演出:渡辺哲也、小野見知、大野陽平
写真提供=NHK

『書けないッ!? ~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』
テレビ朝日系にて、毎週土曜23:30~0:00放送
出演:生田斗真、吉瀬美智子、菊池風磨(Sexy Zone)、小野武彦、梅沢昌代、山田杏奈、潤浩(ユンホ)、北村有起哉、小池徹平、長井短、浜野謙太、岡田将生
脚本:福田靖
演出:豊島圭介、YUKISAITO
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
チーフプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日)
プロデューサー:服部宣之(テレビ朝日)、尾花典子(ジェイ・ストーム)、宮内貴子(角川大映スタジオ)
制作:テレビ朝日、ジェイ・ストーム
制作協力:角川大映スタジオ
(c)テレビ朝日

『その女、ジルバ』
東海テレビ・フジテレビ系にて、毎週土曜23:40~24:35放送
出演:池脇千鶴、江口のりこ、真飛聖、山崎樹範、中尾ミエ、久本雅美、草村礼子、中田喜子、品川徹、草笛光子
企画:市野直親(東海テレビ)
原作:『その女、 ジルバ』(有間しのぶ、 小学館『ビッグコミックス』刊)
脚本:吉田紀子
音楽:吉川慶、HAL
監督:村上牧人、根本和政、室井岳人
プロデューサー:遠山圭介(東海テレビ)、松本圭右 (東海テレビ)、雫石瑞穂(テレパック)、 黒沢淳(テレパック)
制作:東海テレビ、テレパック
(c)東海テレビ
公式サイト:https://www.tokai-tv.com/jitterbug/

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