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Alexandra Savior、Emily Yacina……個性豊かで魅力的な女性シンガーの歌声を味わえる5枚

リアルサウンド

20/1/19(日) 8:00

・アレクサンドラ・セイヴィアー『The Archer』
・ケイト・デイヴィス『Trophy』
・エミリー・ヤシーナ『Remember the Silver』
・アナ・フランゴ・エレトリコ『Little Eletric Chicken Hear』
・The Innocence Mission『See You Tomorrow』

アレクサンドラ・セイヴィアー『The Archer』

アレクサンドラ・セイヴィアー『The Archer』

 アレクサンドラ・セイヴィアーはポートランド出身のシンガーソングライター。17歳の時、YouTubeに歌う映像をあげたところ、コートニ・ラブが絶賛して注目を集めて卒業後にコロムビアと契約。1stアルバム『Belladonna of Sadness』のプロデュースをアレックス・ターナーが手掛けるなど恵まれたデビューを飾った。そんな彼女の新作『The Archer』は、インディーレーベル<30th Century Records>に移籍してのリリース。前作はレーベルと方向性が折り合わず、アルバムをリリースされるまでに紆余曲折あったらしく、それが移籍の理由だったのだろう。本作では、前作で垣間見せた50~60年代のジャズやポップスを思わせるノスタルジックでノワールな世界が全開。その映像的なサウンドが、バニラの香りが漂うような甘美な歌声を引き立てていて、その妖しい雰囲気はデヴィッド・リンチの映画にも通じるところも。ちなみにタイトル曲はクリスマスに恋人にプレゼントした曲だとか。羨ましい。

Alexandra Savior – The Archer

ケイト・デイヴィス『Trophy』

ケイト・デイヴィス『Trophy』

 アレクサンドラ・セイヴィアーと同じくポートランド出身のケイト・デイヴィスは、子供の頃からクラシックを学び、NYの音楽学校で学んだ才女。ジャズのカバーアルバムをリリースして注目を集め、ジャズの名門レーベル<Concord>と契約を交わしたものの、結局、アルバムは発表されなかった。心機一転、インディーからリリースした初のオリジナルアルバムが『Trophy』だ。アルバム制作中、ケイトは憧れていたシンガーソングライター、シャロン・ヴァン・エッテンと仲良くなり、彼女の新作『Remind Me Tomorrow』で1曲共作しているが、本作ではシャロンに通じるオルタナティヴなフォークロックを聴かせる。エレキギターを激しく掻き鳴らす一方で、端正なアレンジや音作りにジャズ/クラシックを学んだキャリアが反映されている。そして、独特の節回しで歌い上げるキュートで凛とした歌声の表現力もなかなかのもの。確かにジャズレーベルから出すのは難しい音だけど、インディーポップ好きにはジャストな1枚。

Kate Davis – Trophy (Official Video)

エミリー・ヤシーナ『Remember the Silver』

エミリー・ヤシーナ『Remember the Silver』

 フェラデルフィア出身で現在はNYを拠点にしているエミリー・ヤシーナ。これまで彼女は(サンディ) アレックス・Gのアルバムにボーカルで参加して密かに注目を集めていた。そんななかでリリースされる新作『Remember the Silver』は彼女にとって2作目のアルバムだが、アレックス・G効果で注目度もアップ。エミリーもアレックス・Gと同じように宅録型のシンガーソングライターだが、プロダクションは丁寧に作り上げられてアレンジも行き届いている。そのうえで、ほんのりとサイケデリックな空気が漂っているのはアレックス・Gと通じるところ。多重録音したハーモニーと甘いメロディーでドリーミーなムードを醸し出しながらも、ダンサブルなビートが曲に躍動感を生み出してポップに聴かせる。そして、淡々としながらも柔らかな歌声は浮遊感があって気持ち良く、気がついたら何度もリピートしてしまう不思議な魅力があるアルバムだ。

Emily Yacina- Gleaming (Official Video)

アナ・フランゴ・エレトリコ『Little Eletric Chicken Hear』

アナ・フランゴ・エレトリコ『Little Eletric Chicken Hear』

 リオを拠点に活動するアナ・フランゴ・エレトリコ。2018年に配信のみでリリースしたデビューアルバムでは、Caetano Veloso Bandのドラマー、マルセロ・カラードやチアゴ・ナシーフを共同プロデュースに迎えていたが、2作目となる新作は、チコ・ベルナルデスやセッサなどを新世代アーティストを輩出するサンパウロのレーベル<Selo RISCO>からのリリース。サンバやボサノバなどブラジル音楽を土台にしながらも、ガレージロックが炸裂したかと思ったら、ジャジーなホーンにシンセが飛び交ったり、メロウなR&Bだったり、曲作りやアレンジは自由奔放。そこに漂うサイケデリックな感覚にトロピカリズモの遺伝子を感じさせて、自分の好きなアイテムで飾り付けた部屋のようにポップでガーリーな小宇宙を生み出している。そんななか、ちょっと鼻にかかった今にも泣き出しそうな歌声もチャーミング。ブラジルの新世代を感じさせる頼もしい才能の持ち主だ。

Chocolate

The Innocence Mission『See You Tomorrow』

The Innocence Mission『See You Tomorrow』

 最後はベテランを。昨年、バンド結成30年を迎えたペンシルベニア出身のThe Innocence Mission。今回のアルバムもいつも通り、ドンとカレンのペリス夫妻の自宅でレコーディングされた。ドンがギターを弾き、カレンが歌い、時々ベースのマイク・ビッツが入るというスタイルも変わらない。完成されたスタイルだけど、そこから生まれる音楽は今生まれたばかりのように瑞々しい。ドンとカレンがドラムや鍵盤の音を重ねることがあっても、音の余白や奥行きを大切にしていて、聖歌のように美しく、子守唄のように優しいカレンの歌声が静かに響き渡る。久し振りに30年前のデビューアルバムを聴いてみたら、その歌声はほとんど変わっていなかった。汚れることがないイノセンスさは健在だ。日本盤には、スフィアン・スティーヴンスが「完璧な曲」と絶賛した「The Lakes of Canada」のセルフカバーを収録。そろそろ日本に来て欲しい。

the innocence mission – On Your Side (Official Video)
RealSound_ReleaceCuration@YasuoMurao

■村尾泰郎
音楽/映画ライター。ロックと映画を中心に、雑誌、ウェブ、ライナーノーツなどに幅広く執筆。『シング・ストリート 未来へのうた』『君の名前で僕を呼んで』『グリーンブック』など映画のパンフレットにも数多く寄稿する。監修/執筆を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)がある。

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