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大友克洋監督やレディー・ガガも アカデミー賞会員新規招待者から見る、映画界多様化の流れ

リアルサウンド

19/9/14(土) 10:00

 べネチア国際映画祭が閉幕し、現在はトロント国際映画祭が開催されている真っ只中ということもあって、着々と映画界全体が来年行われる第92回アカデミー賞へ向き始めている。トロントといえば昨年の『グリーンブック』をはじめ、過去11年で10作品をアカデミー賞作品賞候補へ送り出した観客賞の結果に注目が集まるのはもちろんのこと、多くの有力作が北米圏でのプレミア上映を迎える映画祭としても知られている。

参考:動画はこちらから

 また北米興行もサマーシーズンが終わり、これから賞レースに向けた有力作が相次いで公開されるオータムシーズンが始まる。9月最初の週末を大ヒットスタートで飾った『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』がホラー映画というジャンルの壁を取り払って賞レース参入できるのか、というのも気になるところだが(ワーナーは『ジョーカー』に本腰を入れてくることだろう)、今後『アド・アストラ』や人気ドラマの映画版『Downton Abbey』、レニー・ゼルウィガーの復活が話題の『Judy』など、毎週のように賞レース入りを目論んだ作品が公開されることで、大作がひしめき合うサマーシーズンとは異なる活気が生まれることだろう。

 本項では、そうした賞レース本格化を前に、アカデミー賞のゆくえを直接的に決める“アカデミー会員”について触れていきたい。このアカデミー会員というのは「映画芸術科学アカデミー」の会員のことであり、アカデミー賞を選考する権利を有した映画人たちのことだ。会員はそれぞれの分野に分けられており、例えば主演男優賞のような演技部門は俳優の分科に属する会員の投票によってノミネートが決定。そして各部門のスペシャリストたちによってノミネートが出揃ったのち、受賞者を決める投票はすべての会員が行うのである(その年の顔となる作品賞に関しては、ノミネート段階から全会員に投票権が与えられている)。

 この会員になれる資格を持つのは、基本的にアメリカの映画界に携わってきた人物。もしくは過去にアカデミー賞などの主要賞にノミネートや受賞を果たした人物ばかり。ところが近年は、大きな変革を遂げようとしている。というのも、2016年の第88回、『スポットライト 世紀のスクープ』が作品賞を受賞した年のこと。演技部門のノミニーが全員白人であったことや、監督賞候補者が全員男性であったことから批判が噴出。公平性を保つ目的で、アカデミー会員の見直しが行われることとなったのである。そのため翌年から、これまでにない人数の新規会員を招待。昨年は過去最多の928人が招待され、その中には日本の新海誠監督や細田守監督の名前も含まれていた。

 そして先日、2019年度の新規招待者として842人が招待されたことが発表され、その全員の顔ぶれが公表された。日本人では大友克洋監督や押井守監督。さらにはスタジオ地図の斎藤優一郎プロデューサーら10名。アニメ作品のクリエイターが目立つのは、それだけ日本のアニメ作品が世界に通用している何よりの証といえよう。たしかに、他の部門を見渡してみても候補入りする作品の多くが英語圏の実写作品ばかり。非英語圏の作品がハリウッドの作品と互角に渡り合うことができるのは、これまでの歴史を振り返っても、ほとんど長編アニメーション賞だけと言ってもいいような現状なのだ。すでに多様性を重んじている部門から、徐々に他の部門へもその意識が波及していくこと、それがアカデミー賞変革に必要な第一歩というわけだろう。

 他に招待された顔ぶれを見てみると、昨年長編アニメーション賞を受賞したフィル・ロード&クリストファー・ミラー監督は監督とアニメ、両方の分科で招待され、また『アリー/スター誕生』でヒロインを演じたレディー・ガガも俳優と音楽の両方で招待されている。こうしたケースの場合、本人がどちらかを選択することになるとのことだ。監督の分科で目立つのは、マッテオ・ガローネやセルゲイ・ドヴォルツヴォイといった国際長編映画賞(旧外国語映画賞)にエントリーした経験がある海外の監督たちの名前。そして、『ピーターラビット』のような賞レースとは縁遠いイメージの娯楽映画を手がけるウィル・グラックのような監督の名前があることだろう。また、女優と監督の両方で活躍するメラニー・ロランが、監督の分科でのみ招待されていることも見逃せない部分ではないだろうか。

 さらに俳優の分科の新規招待者を見ていると、意外な名前が数多く入っている。『グレート・ビューティー/追憶のローマ』で主演を務めたトニ・セルヴィッロや、『愛、アムール』などで知られる大御所俳優ジャン=ルイ・トランティニャン。他にもジャンカルロ・ジャンニーニやピーター・ミュラン、クレア・ブルームといったヨーロッパのベテラン俳優たちに、アンドレア・ライズブローやアレクサンダー・スカルスガルドのような中堅俳優たち。いかにこれまでが人種や性別だけでなく、ハリウッド至上主義にも偏っていたということがわかるほどだ。

 今回の842人を国別で見ると全58カ国。そのうち女性の割合は半数を占め、有色人種は29%。今回招待された人々が全員受諾すると、改革をはじめた際に掲げた女性や有色人種の会員数を倍にするという公約のうち、有色人種の割合は目標に達することになりそうだ。また全体の会員数も、2016年の段階で6000人ほどだったのが、ついに10000人の大台に突入することにもなる(具体的な数字は公表されていない)。世界各国の映画人が同じフィールドの上で、互いを称え合う。この変革が完了すれば、映画の聖地ハリウッドの映画賞だから“映画界最高の栄誉”と言われていただけのかつてのアカデミー賞から、本当の意味での“映画界最高の栄誉”となるのではないだろうか。 (文=久保田和馬)

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