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バロック界の巨匠鈴木雅明が語る『第九』の魅力

ぴあ

20/12/26(土) 12:00

ベートーヴェン生誕250年記念 バッハ・コレギウム・ジャパン《第九》

2020年も最終盤に差し掛かり、本来であればクラシック界は『第九』シーズン真っ盛りのはずだったが、コロナ禍の今年は様子が違う。

例年であれば12月だけで150を超える数の『第九』公演が今年は激減。クラシックファンにとっては物足りない年末だ。そんな中で、世界最高のバッハ演奏団体として名を馳せる「バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)」が『第九』を手掛けるとなれば、これは気になる(12月27日東京オペラシティコンサートホール 14:00 / 18:00)。

BCJの創設者にして音楽監督鈴木雅明氏に、その思いを聞いてみた。

●近年ベートーヴェンの取り組みが増えていますね。

ベートーヴェンの音楽には子供の頃からずっと触れてきましたので、決して遠い存在ではありません。BCJとして最近、バッハの『ロ短調ミサ』とモーツァルトの『ハ短調ミサ』、そしてベートーヴェンの『ミサ・ソレムニス』を演奏する流れがありました。この3曲の共通点は、「ミサ」という公的なテキストに個人的な事情と個人的な感情を込め、頼まれもしないのに作曲したという特殊性です。バッハの場合、頼まれもしないのに作曲した声楽曲は他にありません。この『ロ短調ミサ』は、何のために誰のために書いたのか、はたまた演奏したのかすらもわからない不思議な曲です。同じようにモーツァルトとベートーヴェンのミサ曲もすべて個人的な思いの反映で出来ているところに面白さを感じるのです。というわけでベートーヴェンの『ミサ・ソレムニス』は昔からやってみたかった作品でした。そしてこの曲は『第九』とほぼ同じ頃に考えられ、作曲された作品なのです。そうなると『第九』も避けては通れません。2019年1月に東京オペラシティで演奏し、録音も行ったことがとても面白かったのです。これは何回やってもいいなと思うようになりました。そういったわけで、『ミサ・ソレムニス』と『第九』のペアはとても興味深いのです。『第九』を書く直前に『ミサ・ソレムニス』が出来上がり、やっと自分の好きな『第九』に専念したとも言われています。その意味では、『ミサ・ソレムニス』は神のために、『第九』は人間のために作ったように感じられます。

●『第九』の面白さとは

いろいろあるのですが、『第九』の前の『交響曲第8番』は10年も前にできあがり、ベートーヴェンはそこから長い時間をかけて次の作品を考えていた気がします。なにか違うものをという思いから合唱を入れ、形式的にもとても特殊です。第4楽章は特に変わっていますね。長い間温めてきた構想を基に一気に書き上げた気がします。独唱が入り合唱が入って、クライマックスに向かう緊張感の増幅が本当に見事です。さかのぼってみると、『運命』と『田園』の初演の最後に披露した『合唱幻想曲』の時点で、合唱をオーケストラに重ねるという実験がすでに行われていた。その頃から『第九』のための構想が出来ていたのではないかと思います。

●2019年1月公演での手応えは

素晴らしかったですね。古楽器でやることによって、透明感のあるドラマティックな構成や、予期しないモチーフが次々に出てくるところがよく分かります。この曲を最初に聞いた人はびっくりしたと思いますよ。第4楽章のトルコマーチで始まる出だしの部分は間違ってるんじゃないかと思ったのではないでしょうか(笑)。何が起こるのだろうと思っていると、歓喜のモチーフがバリエーションのようにでてきます。至るところにストーリーがあって、その後のフーガでさらに興奮していくのです。そして突然合唱が始まるわけです。3楽章も素晴らしく美しいですね。2楽章はスケルツォでわかりやすい。第1楽章はこれが本当にソナタ形式なのかといった感じでとりとめがないにもかかわらず、緊張感がずっと持続していくのです。とても良くできた見事な曲だと思います。

●バッハ演奏との違いは

全く違う頭で取り組まないとだめですね。ベートーヴェンの音楽はずっと人間的で、個人的に語りかけてくるような音楽です。一方バッハの方は、個人的な感情というのとはちょっと違う。バッハはニュートンのように、我々の目には見えない自然界の美しい法則を耳に聞こえるようにしてくれたのです。まさにバッハがニュートンのような人だと言われる由縁です。ところがベートーヴェンは決してニュートン的ではない。もっと人間臭くて、人生の苦しみをどうやって昇華していくかといった葛藤が常にあったのです。それが音楽に現れています。「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた1802年頃には、耳も聞こえなくなり失恋もして本当につらい時期だったわけです。でもその後に『オリーブ山上のキリスト』や交響曲第3番『英雄』を書いて復活するわけです。更に耳が聞こえなくなって苦しい思いはあったのだろうけれど、それを音楽で乗り越えていく力を感じます。無骨ながら人付き合いもうまくやっていたのでしょう。音楽からもそのあたりのたくましさが感じられます。

●今回の『第九』公演実施に当たり、ソーシャルディスタンス等での工夫や苦労は。

もちろん、ステージ上の距離や客席との距離もガイドラインに則っています。こればかりは自分たちで判断できないので辛い部分もありますが、今回の会場(東京オペラシティコンサートホール)は幸いにしてステージが大きいので対応もしやすいですね。さらには我々BCJの小規模な編成についてはそれほど大きな問題ではありません。とても『第九』を演奏するオーケストラとは思えない規模です。合唱団も30人ぐらいしかいませんので、普通のシンフォニーオーケストラでは考えられない小ささだと思います。ということは大音量は出ません。古楽器の響きなので巨大な響きを期待されて来られてもちょっと困ります。ただし、編成が小さいからと言って音が小さいわけではありません。特に音圧は編成の大きさには関係ありません。普段の『第九』とは少し違う価値を聞き取ってもらえればと思います。

コロナの時代だからこそ、『第九』を聴いて元気をだしてほしいという気持ちももちろんあるという。しかし、本質的には、ベートーヴェンが個人に語りかけてくる音楽の強さや力を感じ取ってもらえることが嬉しいと語られた。未曾有のコロナ禍において、改めて音楽の力を感じる瞬間が目前だ。

●ベートーヴェン生誕250年記念 バッハ・コレギウム・ジャパン《第九》

公演日時:2020年12月27日(日) 14:00 / 18:00
会場: 東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル
出演:
鈴木雅明(指揮)
鈴木優人(オルガン)*
森 麻季(ソプラノ)
林 美智子(アルト)
櫻田 亮(テノール)
加耒 徹(バス)
バッハ・コレギウム・ジャパン(合唱&管弦楽)

曲目:
J.S.バッハ:パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582(オルガン独奏)*
ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 op.125《合唱付き》
*休憩はございません。

公演詳細:https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=14279

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