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八郎が最後にノートに綴った切ない言葉 『スカーレット』夢は叶っても一緒にいられない残酷さ

リアルサウンド

20/2/7(金) 12:30

 喜美子(戸田恵梨香)が穴窯に成功し夢を叶えて7年後。『スカーレット』(NHK総合)第107話では、八郎(松下洸平)のその後が明らかになった。

 遅くまで仕事を続ける喜美子に差し入れを持って行った武志(伊藤健太郎)は、陶芸を教わることに。絵の上手さといい、作陶をそつなくこなしてしまうところを見ると、美術の素養は十二分にあるのだろう。

 川原家は経済的にも余裕ができ、武志は望めば自身の好きな道を選び取ることができる。15歳で大阪へ行くしかなかった喜美子とは大違いである。自分が自由に選ぶことができなかったからこそ、子どもに好きな道を選ばせてやりたいというのは親として当然の愛だ。

 喜美子に「陶芸家になりたい?」と聞かれるも、「なりたい言うてなれるもんやないやろ」と返す武志。幼いながらも、7年前に両親が陶芸という道の上で違えてしまったことは、強く意識にあるようだ。武志は幼少期に出て行ってしまった父親をどのように思っていたか喜美子に明かす。

 武志は「お母ちゃんは陶芸家としてやりたいことをやって成功した代わりに、大事なもんを失った。大事なもんを失ったんや。そこまでして陶芸やっていけるか分からん」と母に語りかける。息子から親へ残酷な言葉。だが、息子・武志にとっての真実である。

 八郎は喜美子が穴窯を成功させた作品を見て、涙を流し去っていった。夫婦ノートに残された「すごいな すごいな すごいな 喜美子」の文字。夫として、そして同じ陶芸家として、さらには妻の決断を信じてやれなかった自分を省みて放った、三度の賞賛の言葉である。陶芸家という同じ道を志し、愛もあり、一方は夢を叶えた夫婦。何一つ失っちゃいないはずなのに、2人が一緒にいないという現実を、たった2行のノートで表している。

 そして結婚初期に2人で綴った未来予想図。そこに書かれている昭和40年の出来事で叶ったのは、「喜美子が陶芸家」ということのみである。ボタンのかけ違いの残酷さと、創作者としてのジレンマをノートを介して視聴者に突きつける静謐な演出だった。

 その後の八郎は京都を出て愛媛へ。2年後に行われた喜美子の展覧会の際の帳簿には、「十代田八郎」の文字。2人が創作家である限り、その道は交わることはもうないのだろうか。そして、そんな両親の姿を目の当たりにして過ごしている武志は、どんな自分の進むべき道を選び取るのだろうか。

(文=安田周平)

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