Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

Yogee New Waves、盟友Suchmosとの対バンだからこそ見えた等身大で誠実な姿

リアルサウンド

19/12/12(木) 18:00

 Yogee New Wavesが不定期で開催している自主企画『Dreamin’ Night』の6回目が新作『to the MOON e.p.』のリリース日である12月4日に東京・新木場STUDIO COASTにて開催された。ゲストで出演した盟友Suchmosは、2015年10月に東京・新代田FEVERで開催された同イベントの第2回にnever young beachとともに出演しており、この約4年間におけるシーンでの進化や成熟、各々強くなった存在感を実感する機会にもなった。また肌感覚で言えば、同志ともブラザーとも言えそうな関係にある2バンドが、音楽的には真逆――大まかに言えばSuchmosは深くヘヴィなサイケデリックロック、Yogee New Waves(以下、Yogee)は幸福感あふれるロックンロールという、自分たちの等身大を表現することに何の違和感もないどころか、そこにこそ本気の対バンの意味があるのでは? と思える信頼感が漲っていた。

(関連:ペトロールズのカバーアルバムが物語る、長岡亮介が達成した「ギターロック」からの逸脱

 万場のオーディエンスの期待と視線が集まるステージは暗幕に覆われており、ただでさえ期待値の高い対バンに脈拍が上がる。暗転と同時に暗幕が開き、すでにメンバーが位置についている状態に、さらに前方へオーディエンスが詰めかける。オープニングナンバーは「In The Zoo」。YONCE(Vo)に加え、KCEE(Dj)もギターを持ち、ヘヴィなサイケデリアを醸すイントロダクションは音源よりかなり長く、BPMもさらに落としているような印象だ。そんな中で聴こえる〈夢も希望も無いのかい? 救ってよロックミュージック 誰ひとり信じなくても俺とお前だけは叫ぼう〉という歌詞が、SuchmosからYogeeに向けられているように感じられ、ジャンルは違うがマインドの部分でつながる両者の姿勢を炙り出したように感じた。さらに9月の横浜スタジアムワンマンライブで初披露された新曲「藍情」も丹念に選び抜かれたサウンドで表現。「TOBACCO」のイントロのリズムに乗せて〈ナーバスになったらちょっとシガーでも吸って〉とアドリブを繰り出すと大きな歓声が起き、Yogeeのファンが大半な中、Suchmosの曲やスタイルが共有されていることが証明された。「Yogee、リリースおめでとう。今日、呼んでくれてありがとう」とさらっと感謝を口にしただけで、それ以上の意味合いはお馴染みのビートからの「MINT」に託された印象だった。終盤は、1曲で物語を構築するようなブルージーな大曲「Hit Me,Thunder」が驚異的な6人の集中力で届けられ、ラストは大幅にアレンジを更新した「Life Easy」で締めくくった。

 Suchmosで集中力を注いだオーディエンスはそれでもタフというか、両バンドへの愛があふれており、Yogeeのステージを今か今かと待ちわびている。相変わらず身動きできないほど万場のフロアが再び暗転すると、開いた暗幕の向こうには都市のビル群を模したセットと非常灯をイメージさせる赤いライトが点灯し、「Yogee New Waves」のネオン管が点くと大きな拍手と歓声が上がる。ライブサウンドを拡張するお馴染みのサポートメンバー、松井泉(Per)、高野勲(Key)を加えた編成。初っ端からテンションを上げ、「Megumi no Amen」でスタート。竹村郁哉(Gt)の輝度の高いギターがまさに恵の雨の如くフロアを潤すと、明るい官能的なムードが自然と立ち上がる。フロアのリアクションもナチュラルに熱く、ミラーボールの光が星のように降り注ぐ「Summer」で現実の季節感をすっかり忘れてしまった。そして最初のブロックで新曲「to the moon」を披露。角舘健悟(Gt/Vo)の小気味良いカッティング、リフレインする〈to the moon〉がどこか後期のフィッシュマンズを想起させる浮遊感や自由度を感じるナンバーだ。

 “島3部作”『PARAISO』、『WAVES』、『BLUEHARLEM』を経て、次は〈月にでも行こうか〉と歌う今の角舘。後半のMCで話していたけれど彼にとって音楽、ロックンロールは退屈な日常から抜け出す、ニヒリスト体質の彼だからこそ必要とするロマンの匂いがついてくる。月に行けるかどうかは問題じゃない。インタビューで読んだが、夢や目標が現実的すぎるバンドが多いことに違和感を抱く彼らしい。

 中国ツアーで言葉の壁を感じたからなのか、東京でのライブにリラックスしている様子が伝わる。「今日はハッピーです。集まっていただいて」と、メンバーに笑顔が増えるとオーディエンスもより解放されて、「夜はこれからですから!」という角舘の言葉から滑り込むように鉄板ナンバー「Climax Night」と「HOW DO YOU FEEL?」が鳴らされる。特に「HOW DO YOU FEEL?」での粕谷哲司(Dr)と上野恒星(Ba)のタイトでしなやかなリズムと、さらにフロアを跳ねさせるパーカッション。親密さを伝えるこの曲が本質を携えたまま広がっていく頼もしさを体感した。

 中盤に角舘が話したSuchmosとの縁に連なる「結局、シティポップってなんだったんだろう」というMCが2019年12月のこの日の対バンを一つ象徴していた。彼いわく、Yogeeは山手線内生まれで、東京の退屈や息苦しさから抜け出すための音楽をやっていて、それがニヒリスト的感性のシティポップと呼べるけれども、茅ヶ崎のそれこそ「Life Easy」な感性のSuchmosはシティポップじゃないと、自説を披露。“シティポップ”というもはやカリカチュア化した言説を皮肉っているようでもあり、そういう部分でもこの日のYogeeは冴えているし等身大だった。

 終盤もライブの定番ナンバーが立て続けに演奏され、「Bluemin’ Days」では〈花束をあげよう Suchmosに!〉と歌詞を変えたりして、楽しさを素直に表す。フロアも曲に乗せて自由に手が挙がり、一緒に歌っている人もいた。Yogeeの世界観を愛する人たち、そしてよりカジュアルに曲を好んでいる人たちのオープンなパワーがフロアの隅々まで広がっていたのが印象的だ。本編ラストの「Ride on Wave」では角舘が何度もパーカッションソロを要求し、オーディエンスもさらに熱を帯びていくのがわかった。ここまでバンドとオーディエンスが感情を爆発させるYogeeのライブを個人的には初めて見た気がする。相互にリミッターが外される理由がこの日の対バンというシチュエーションや、お互いに東京でのライブが久しぶりだったことも起因しているのかもしれない。Yogeeのアンコール、「Good Bye」はもはや普遍的なロックンロールの輝きに満ちていた。

 いつだってステージの上で嘘はつけないと思うが、この対バンだからこそ結果的にここまでお互い誠実なライブを見せることになったのだと感じた。Yogee New WavesもSuchmosも単にステージアップしたというより、人としての度量の深まりを感じずにいられなかった。この素晴らしい夜は、しばらく記憶から消えないだろう。(石角友香)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む