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みうらじゅんの映画チラシ放談

『ぐらんぶる』 『海底47m 古代マヤの死の迷宮』

月2回連載

第43回

── 今回はこの『ぐらんぶる』からですね。

みうら これはチラシを見る限り、若い男子のヌードがたくさん出てくる映画ですよね? このところ老いるショックの一環で、若い人の裸だったら女の人じゃなくても構わないんじゃないかと思うような域に達してきましてね(笑)。ま、それは自分の身体にはまったく興味が持てなくなってからですけどね。

若くはないですけど、前にリリー・フランキーさんが出ていた『ぐるりのこと』って映画があったじゃないですか。あれでリリーさんのケツが大写しになったんですよね。風呂のシーンで、わりとケツ舐めみたいなローアングルで。もう、つきあいも長いですし、よく知ってる人のケツなんだけど、やっぱドキッとしたもんです。ときめきまでは覚えてませんがね(笑)。

── 新しい扉が開いた感じですか?

みうら いや、開いちゃいませんが、ちょっとステージが上がった感じはしますね。心がだんだんおじさんじゃなくておばさん化しているのかもしれないですけど(笑)。もう自分の中では“若い人の裸は男女問わずイイ!”という結論が出たわけです。

男のものであっても乳には違いないわけで、このチラシに写ってるおっぱいはおっぱいなわけですよ。巨乳か貧乳かの差はあれど。そこのさじ加減がどうでもよくなってきているというか。だから、このチラシはつい見入ってしまいますね。

チラシだと上手く足で股間は見えないようにしてありますけど、彼らは全裸ですよね? ということは、『バタアシ金魚』じゃないってことですよね?

── 確かに、ダイビングをやっている設定のようですが、全裸になる必要はないですよね。

みうら なるほど。『ぐらんぶる』って『グラン・ブルー』のパロディなんですね。あれはフリーダイビングの映画でしたよね。酸素ボンベみたいなものは何もつけずに素潜りする。その“何もつけず”にっていうところだけを曲解して、全裸になったとか?(笑)

── ジャンルは“全力脱衣系青春グラフィティ”。原作は“あまりの脱ぎっぷりから絶対に映画化不可能と言われてきた”と書かれてます。

みうら 『けっこう仮面』的なものでしょうか? 局部はどう処理してるか気になりますね、当然。その処理が見どころってことにもなりますね。このチラシではかなり小さい泡で消してますけど。

── 『オースティン・パワーズ』では、あの手この手で物を配置して隠してましたよね?

みうら 処理映画でいえば、昔の外国のポルノ映画は、まぐわった部分とか性器を花瓶とかなぜかタンスなどで後処理してあったもんです(笑)。これもきっと隠しの技の面白さがあるんだと思います。「ええ? こんなもので隠せるの?」っていう。このCG時代に“映画化不可能”にどう挑戦したのか、観たいですね。 

その昔、WAHAHA本舗が素っ裸に見える肉襦袢を着て芝居をして、性器とかもものすごくリアルに描いてあって問題になってましたけどね(笑)。僕はもう、この人たちが撮影時、本当に全裸だったのかも気になってきました。

今でも“前貼り”が存在してるのかよく分からないんですけど、アレはやはり剥がすときは痛いって、僕が原作の『やりにげ』ってビデオ映画に主演してくれた水道橋博士から聞いたことがあります(笑)。このイケメンたちがそういう痛みを感じていたかどうかも食いつきたくなるポイントでしょうね。このふたりはどんな方たちなんですか?

── 『獣電戦隊キョウリュウジャー』のキョウリュウレッドだった竜星涼と、『仮面ライダービルド』の犬飼貴丈ですね。

みうら なるほど。どちらも元はコスチュームの人ですね。しかもマスクまで被っていた。その反動から請けた仕事なんでしょうか。あの変態仮面だってパンツは被ってましたからね。アキラ100%以上であることも間違いない。おぼんも蝶ネクタイもチラシにはありませんから。

これでバイクでも乗ろうものなら、もう大変ですよ。ライダー的な要素を匂わすシーンは出てくるんじゃないですか? ヌードライダーが出てきたら、ファンも大喜びするでしょう。これは観たい、ものすごく観たくなってきました。コロナでつらい思いをした後に、間違いなくスカッとさせてくれると思います。スカッと脱いでくれてるわけですから!

── 次のチラシもダイビング繋がりですね。

みうら ですね。このチラシは「当然、観るんだろ?」ってサメがこっちに口を開いて言ってますね。

── このコーナーでのサメ映画は、巨大ザメが出てくる『MEG ザ・モンスター』以来ですね。

みうら 『MEG』はあんまり評価は良くなかったみたいですけど、そもそもサメが出てる映画に良い悪いはないでしょ(笑)。この映画はたぶん「サメだけの映画じゃないよ」って言いたくて“古代マヤの死の迷宮”って設定にしてますけど、でもやっぱりサメ映画ですよね。わざわざ劇場に足を運ぶ人は気づいてますから。邦題は『サメ映画』でよくないですか?(笑)

── サメの映画がみんな『サメ映画』になると、これがいったい何作目になるんだか全然分からないですよ(笑)。

みうら ですかね(笑)。それに配給が老舗のギャガなんですね。昔はこういう映画専門の会社だったと思ってましたけど、その後、この路線はアルバトロスに移行したじゃないですか。だから老舗ギャガとサメの組み合わせを見ると、ああ、初心を忘れてないなってホッとしますね(笑)。

── この映画、映画館で予告編がかかりまくってたんですよ。コロナのせいで大作が軒並み延期になったからだと思うんですけど。

みうら そうでしょう。サメにとっちゃ関係ないことですもんね(笑)。

── 今さら気がつきましたけど、チラシの裏に“第2弾”って書いてます。どうやら、これは『海底47m』シリーズですね。

みうら ホントだ! って、ねぇ、『海底2万マイル』っていうのは昔ありましたけど、僕『海底47m』の前作は知らないです……。“あれから3年”って、案外最近じゃないですか?

── この説明書きによると、スケール、アクション、ロケーション、そしてなによりスリルと恐怖が進化を遂げたそうです。

みうら 1発目ってもしかしてビデオスルーですか?

── ギャガが2017年8月11日に劇場公開していますね。

みうら 失礼しました! それは知らなかった。

── 前作は“檻の中からサメを見るはずが、檻が海底に落っこちて大ピンチ!”みたいな筋書きだったようです。

みうら つまり前作も今回も“ダイビングは危険だ”って言いたいわけですよね。でも本当に第2弾なんでしょうか? 邦題だけでムリヤリシリーズにした可能性はないですか?

── 原題は前作が『47 Meters Down』、第2弾は『47 Meters Down: Uncaged』なので正式なシリーズですね。監督も同じで、ヨハネス・ロバーツという人です。

みうら つまり『ヨハネス・ロバーツの海底47mⅡ』って呼ぶのがより正確ってことですね。他にはどんな映画を撮っておられるんですか?

── 『ロードキル』『サニタリウム』『ストレージ24』『アザーサイド 死者の扉』……。

みうら すいません! なにひとつ知らないです(笑)。

── ジャンルはスーパーナチュラルホラー、サイエンスフィクションホラーみたいなのが多いですね。『アザーサイド 死者の扉』は日本ではデジタル配信のみでリリースされてます。そして次回作は『バイオハザード』のリブートみたいです。

みうら おお! スゴイじゃないですか!

── シネマカリテのカリコレで『ストレンジャーズ 地獄からの訪問者』っていう監督作も上映されたことがあるようです。

みうら それって、チャールズ・ブロンソンとチャック・ノリスを合体させた邦題ですよね(笑)。でも活躍してますね。こうやってヨハネスさんの存在に気づく機会を与えてもらっただけでも、このチラシには意味がありましたね。ありがたいです。僕は決してこういうジャンルのマニアではないんですけど、でも怠けてました。反省します。

“4人のJKがケイブ(洞窟)ダイビング”するってチラシには書いてありますけど、どうなんですか? 女子高生をJKとするなら、『PとJK』みたいに『SとJK』にすれば良かったんじゃないかな。シャークもサメも頭文字は“S”でいけますからね。

── “生還率0%”っていう文言も、勢い任せな感じがします。

みうら “生存率0%”って、ネタバレかウソかどっちかに間違いないですよね(笑)。でも、暑い夏には涼しげでいいチラシだと思います。それにヨハネス・ロバーツさんの名前は、この機会に覚えておいた方が懸命ってことですよね? 知っている人たちにしてみれば、なにを今さらってことでしょうけれども。きっと彼らは“ヨハロバ”とか縮めて呼んでるんでしょうね(笑)。

── ファンは「『バイオハザード』でメジャーに魂を売った」とか言ってそうですよね。

みうら ジェームズ・キャメロン監督が『タイタニック』撮ったときみたいにね。『殺人魚フライング・キラー』の人じゃなくなったみたいな寂しさはあるでしょう。そんな人たちに早く追いつくためにも、ヨハロバの映画は観たいと思います!

取材・文:村山章
(C)井上堅二・吉岡公威/講談社 (C)2020映画「ぐらんぶる」製作委員会
(C)THE FYZZ FACILITY FILM 11 LTD

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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