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平辻哲也 発信する!映画館 ~シネコン・SNSの時代に~

コロナ禍からいち早く営業再開した、日本最古級の映画館・長野相生座・ロキシーの女性支配人の思い

隔週連載

第37回

20/5/24(日)

長野市にある「長野相生座・ロキシー」は日本最古級の映画館だ。1892年、現在の地に芝居小屋「千歳座」として建てられ、1897年に「活動写真」を初上映した。建物は築128年、映画館としても123年の歴史を誇る。コロナ禍では18日間の臨時休業を強いられたが、5月9日から営業を再開した。歴史ある映画館を守る女性支配人の今の思いとは……。

相生座は長野電鉄 「権堂駅」から徒歩約3分、 JR長野駅から徒歩約15分。商店街「権堂アーケード通り」(旧相生町通り)の一角にある。3年前の12月に訪れた際には、雪化粧した街に「相生座」のピンクのネオンサインが灯り、幻想的だった。茶色の増設部分の向こうには竣工当時のアーチの屋根がチラリとのぞいている。

建物は1892(明治25)年、竣工。建築年が明らかになっている日本最古級の映画館には1911年竣工の高田世界館があるが、相生座はさらに古い。1897年には活動写真を初上映し、1919(大正8)年4月には「相生座」と改称し、活動写真の営業を開始。1972年から松竹系劇場として営業していたが、2006(平成18)年3月からは地元・長野映画興業(株)が直映館として運営を続けている。

特徴的な劇場窓口(長野相生座・ロキシー提供)

「プレッシャーもありますね。その歴史を傷つけないように守っていきたいと思っています。建物は古い分、ボイラーや電気系統などの故障も多いのが悩み。老朽化した煙突も取り壊したいと思っているのですが、こちらもすごくお金がかかると聞いています」。こう話すのは、長野市で生まれ、育ち、少女期は角川映画や東映作品に親しんだという支配人の田上真里さん。長野東映劇場(2006年8月閉館)などを経て、07年に長野映画興業(株)に入社し、09年から支配人を務めている。

スクリーンは相生座(176席、2階席あり)、ロキシー1(264席、2階席あり)、ロキシー2(72席)の3つ。1日7本前後、上映スケジュールは週替りで更新し、ミニシアター系の作品を中心に年間200本を上映し、長野のミニシアター文化を支えている。かつては系列だったことからSMT(松竹マルチプレックスシアターズ)とも興行提携を結んでいるが、上映作の多くは田上さんらによるチョイス。ドキュメンタリー特集など独自編成も数多く行ってきた。

これまでの印象的なヒット作は『おくりびと』(2008)、『エヴァンゲリヲン新劇場版』(2009)、『ぼけますから、よろしくお願いします。』(2018)、4カ月興行となった『パラサイト 半地下の家族』だという。実にバラエティーあふれるラインナップだが、「アニメの聖地にしたいという思いもあって、『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』(2010)を上映したこともあったんですよ。実際のところ、ミニシアター作品だけでは地方では難しい面もありまして、ヒット作が年に数本あれば、やっていかれるのですがね」と笑う。

ロキシー2

今回のコロナ禍ではどんな影響があったのか? 「商店街の飲食店でコロナの感染者が出た影響もあって、長野県の休業要請が出る前の4月20日から自主休業に踏み切りました。休館前も徐々にお客様が減ってきて、中には0人の回もありました。5月9日から座席の間隔を空けたり、手指消毒を徹底するなどのコロナ対策をして営業を再開しましたが、客足は完全には戻っていません。首都圏の緊急事態宣言が解除されないと厳しいかもしれませんね」と田上さん。

ロキシー1で行われた高畑勲監督と久石譲氏のスペシャルトークショーの様子(2017年7月、長野相生座・ロキシー提供)

相生座は深田晃司監督らが中心になった「ミニシアター・エイド基金」や、オンライン上で新作を公開しながらも、その収益を配給会社と上映予定館で分配する「仮設の映画館」に参加。ミニシアター・エイド基金では約300万円が分配される見込みだ。「大きな反響で、とても感謝しています。固定費はまかなえるんじゃないかと思います。ありがたいことに個別にも『相生座を支援したい』との声をいただきましたので、その声に甘えて、ホームページでは遠方からも入会できるプレミアム会員の募集(5月31日締め切り)もさせていただきました」(田上さん)。

休館を経て、「映画の灯を守りたい」という思いをさらに強くした。「営利目的の会社ですから、正直、クラウドファンディングなどでお金を頂いていいのか、という思いもあったんです。でも、みなさんの声を聞き、映画は文化の面を持っているんだ、ということを改めて感じました。今後は常にコロナ対策を徹底していることをお伝えしながら、常連のみなさんには、今まで通り、楽しんでもらえる作品選びをしていきたいと思います。コロナと共存していかなければいけない中、舞台あいさつもリモートにするなど柔軟な対応をしていくつもりです」。明治、大正、昭和、平成、令和と4つの時代を生き延びた映画館がコロナに負けるわけがない。

映画館データ

長野相生座・ロキシー


住所:長野市権堂町2255
電話:026-232-3016
公式サイト:長野相生座・ロキシー

プロフィール

平辻哲也(ひらつじ・てつや)

1968年、東京生まれ、千葉育ち。映画ジャーナリスト。法政大学卒業後、報知新聞社に入社。映画記者として活躍、10年以上芸能デスクをつとめ、2015年に退社。以降はフリーで活動。趣味はサッカー観戦と自転車。

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