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池上彰の 映画で世界がわかる!

『私たちの青春、台湾』―台湾、香港、中国をめぐる若者たちの奮闘

毎月連載

第29回

台湾と香港と大陸の中国。ここに住む人たちは中国人なのか。大陸の人たちは、「自分たちは中国人だ」と言うでしょう。でも、最近の香港の若者たちは、「自分たちは中国人ではない、香港人だ」と言うでしょう。

では、台湾の人たちは? 「自分は台湾人だ」と言う人もいれば、「自分は中国人だ」と言う人もいるのです。

この映画は、そんな3つの地をめぐる若者たちの活動と葛藤を描いています。

台湾といえば、中国大陸で発生した新型コロナウイルス対策にいち早く取り組み、成果を上げたことが報じられています。日本のようなマスク不足にも陥らずに危機を乗り越えることができた台湾。2014年の「ひまわり運動」をきっかけに、現在の台湾へと発展することになったのです。

台湾の民主化運動を指導し、立法院(日本の国会に該当)に突入して占拠するという「ひまわり運動」で英雄となった陳為廷と、中国大陸から台湾の大学に留学し、学生自治会の会長に立候補するという意表を突いた行動に出た蔡博芸。ふたりの行動を追いながら、台湾や香港の置かれた現状を描きます。

蔡博芸(左)と陳為廷(右)

2014年、当時の台湾は、中国との関係を深めようとする国民党が政権を掌握し、中国との経済関係を一段と強化する「サービス貿易協定」の締結を立法院が批准しようとしていました。

これに対し、「このままでは経済的に中国に飲み込まれてしまう」と危機感を抱いた若者たちは、批准反対を要求して立法院に突入。長期間占拠します。このとき支援する市民たちが若者たちにひまわりの花を差し入れたことから、この運動は「ひまわり運動」と呼ばれました。

当時の台湾の立法院は、若者たちの要求を受け入れ、「サービス貿易協定」の批准を諦めました。画期的なことでした。これ以降、台湾は大陸から離れて独自の道を進むべきだと主張する民進党の勢力が伸び、遂には蔡英文総統を誕生させるのです。

この台湾の運動に励まされたのが、香港の若者たち。2014年、「雨傘運動」を展開します。これは、香港の行政長官を普通選挙で選べるようにしようという運動でした。若者たちのデモに対し、警察が放水で応じたため、若者たちは雨傘で放水を食い止めようとしたことから、こう呼ばれました。

しかし、香港は台湾ではありませんでした。「一国二制度」の下、香港の自治は限定的で、中国共産党の方針には逆らえません。運動は尻すぼみとなります。

さらに2020年には中国が「国家安全維持法」を制定して、香港の民主化運動の弾圧に乗り出します。香港は、もはや以前のように「東洋の真珠」と呼ばれる輝きを失ってしまいました。

この映画で描かれる台湾の若者たちの純粋さ。民主主義を求めて立法院に突入したのはいいものの、その後の運動方針をめぐって対立。民主主義の難しさに悩む姿は、1970年前後の日本の学生運動を髣髴とさせます。

民主化運動どころではないまさかの展開に

ここまでは、予想通りの映画の展開だったのですが、陳為廷が立法院議員(国会議員)の補欠選挙に立候補したところから、話は思わぬ方向に進みます。スキャンダルが持ち上がり、民主化運動どころではなくなります。

これに一番慌てたのが、この映画の監督です。何を描けばいいのか、どのような構成にすれば立て直せるのか、苦悩が始まります。ヒーローとヒロインに想定していたふたりが、それぞれ挫折してしまうからです。それが、そのままドキュメンタリーとして進行します。

フー・ユー監督

その結果、等身大の若者たちのありのままの姿を描くことになりました。映画としては失敗したはずが、かえって深みのあるものへと昇華したのです。

掲載写真:『私たちの青春、台湾』
(C)7th Day Film All rights reserved

『私たちの青春、台湾』

10月31日(土)よりポレポレ東中野他全国順次公開
配給:太秦
監督:フー・ユー
出演:チェン・ウェイティン/ツァイ・ボーイー

プロフィール

池上 彰(いけがみ・あきら)

1950年長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターをへて、2005年に退職。以後、フリーランスのジャーナリストとして各種メディアで活躍するほか、東京工業大学などの大学教授を歴任。著書は『伝える力』『世界を変えた10冊の本』など多数。

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