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パスピエは常に刺激的な進化を続ける 10周年記念公演『EYE』特別編成ライブに感じたバンドの未来

リアルサウンド

20/2/21(金) 19:00

 パスピエが2020年2月16日、東京・昭和女子大学人見記念講堂で結成10周年記念公演『十周年特別記念公演 “EYE”(読み:いわい)』を行った。

パスピエ

 2009年に成田ハネダ(Key)を中心に結成されたパスピエ。東京藝術大学でクラシックを学んでいた成田が、ロックフェスを観に行った際にバンドの魅力に気づき、“自身のルーツである印象派の音楽(ドビュッシー、ラヴェルなど)とポップミュージックを融合させる”というコンセプトを立て、メンバーを集め始めたのが、このバンドの成り立ち……というエピソードは筆者も何度も書いてきたが、この10年の間にパスピエは、音楽性と活動スタイルの両面で大きく変化し、いまもなお新鮮で刺激的な進化を続けている。“十周年特別記念公演”と銘打ったこの日のライブでも4人は、キャリアを振り返るのではなく、現在進行型のパスピエサウンドを奔放に表現してみせた。

大胡田なつき

 この日のライブは メンバー4人(成田、大胡田なつき/Vo、三澤勝洸/Gt、露崎義邦/Ba)に加え、サポートドラマーの佐藤謙介、さらにバイオリニストの室屋光一郎を中心とするストリングスカルテット、打楽器奏者の斎藤祥子による特別編成。成田の生ピアノから始まる「あかつき」(現在の4人体制となって最初の配信シングル)、変拍子/ポリリズムを取り入れた「ハレとケ」など、冒頭からバンド、ストリングス、パーカッションを融合させた演奏が続く。弦のアレンジは成田が担当。原曲にストリングスを重ねただけではなく、リズム、メロディ、ハーモニーと有機的に絡み合うアレンジは見事としか言いようがない。高度な音楽理論を備えている彼にとっては当たり前の仕事なのかもしれないが、これほど質の高いストリングスアレンジができるバンドマンは、本当に稀だ(ほかにいま思い出せるのは、King Gnuの常田大希だけです)。

 この後も、パスピエが持つ幅広い音楽性、そして、メンバー個々の高いプレイヤビリティを体感できる楽曲が続いた。

 このバンドのベーシックなスタイル(の一つ)である80’sニューウェイブを経由した「ネオンと虎」、三澤の美しいライトハンド奏法によるメロディを中心に構成された「DISTANCE」、憂いを帯びたボーカルとクラシカルな弦の響きが呼応し合う「瞑想」。音楽性の高さとは何か? という基準は人によって違うかもしれないが、理論に裏打ちされたアレンジ、メンバーの演奏能力を含め、パスピエの音楽の質の高さは疑いようがないと改めて感じた。

 「チャイナタウン」も印象に残った。2011年の1stアルバム『わたし開花したわ』に収録された「チャイナタウン」は、初期の代表曲でありライブアンセムでもあるのだが、この日は大胆なリアレンジが施されていたのだ。ややテンポを落とし、ドラム、ベース、鍵盤が鋭利なフレーズをぶつけ合うようなアンサンブルは、現行のオルタナR&Bのテイストを感じせる先鋭的なものだった。ファンがもっとも聴きたいであろう楽曲にアレンジを加える姿勢もまた、現状維持を良しとせず、常に斬新なチャレンジを続けているパスピエの魅力だ。

 さらに「つくり囃子」ではブレイクビーツユニット・HIFANAが登場。サンプラー、CDJスクラッチなどで即興的に繰り出されるビートとバンドサウンドが一つになり、超レアなセッションにつながる。露崎のファンクネス強めのベースとHIFANAの生々しいビートが絡み合うシーンは秀逸だった。HIFANAをゲストに招いたのは、以前から彼らの音楽をリスペクトしていたという大胡田のアイデア。この自由度の高さもパスピエらしい。

 終盤で披露された「正しいままではいられない」も、この日のライブのポイントだったと思う。新体制になって最初にリリースされたミニアルバム『OTONARIさん』(2017年)に収録されたこの曲の歌詞は、大胡田、成田の共作。この歌詞には、新たな制作スタイルを模索していた時期の心境がリアルに描かれている。当時のリリースインタビュー(パスピエ、新体制で再確認した“音楽を第一にする”創作スタンス 「楽曲を拠り所にしたい」)で2人は、

「音楽って、正しいことが正解だとは限らないと思うんですよ。僕らもいままでとは違うやり方で一歩目を踏み出したわけだし、その決意を込めた曲でアルバムを締めくくりたかったので」(成田)

「(「正しいままではいられない」の歌詞は)自分だけの言葉ではないし、背負うものも大きかったですね。好き勝手に歌えないわけではないけど、自分ひとりで書いた歌詞を歌うときとは、また違った心持ちがありました」「年を重ねることで、発する言葉に自然と重みが出て来ることもあるだろうし」(大胡田)

 と語っていた。新体制以降のパスピエは、歌詞の表現も大きく広がった。それを担っているのはもちろん、ほとんどの歌詞を手がけている大胡田。バンドの現状、自分の意志を歌詞に反映させることで、リスナーとの結びつきを強めてきたパスピエ。その成果は、この日のライブの一体感が証明していたと思う。

 本編の最後は、最新アルバム『more humor』のリード曲「ONE」。最新鋭のR&B、ダンスミュージックの要素を反映させたこの曲は、「いまの私たちにとって、すごく大事な曲」(大胡田)というコメント通り、現時点におけるパスピエの方向性を示すナンバーだ。この曲には、ストリングス、パーカッション、HIFANAも参加。ポップス、ブラックミュージック、ダンスミュージック、クラシックなどが混ざり合う多様なサウンドは、まさに圧巻だった。

 またアンコールでは、2月5日に配信リリースされた新曲「まだら」を初めて披露。「人間模様って、どういうものだろう? と考えて、このタイトルにしました」(大胡田)というこの曲は、人力トラップ的なアプローチを施した楽曲。この先の方向性を予感させる新曲を演奏したことも、この日のライブの大きな意義だろう。

 パスピエのオフィシャルサイト、 SNSには“20200505”の数字が発表されている。10周年記念ライブで、未来の自分たちの姿を示すようなステージを繰り広げたパスピエ。今後の動向にも大いに期待したい。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

プレイリスト「パスピエ 十周年特別記念公演“EYE”

【セットリスト】
◆2020/02/16(日)パスピエ 十周年特別記念公演“EYE”
会場:昭和女子大学 人見記念講堂 
OPEN 17:00 / START 18:00

01.あかつき
02.始まりはいつも
03.ハレとケ
04.永すぎた春
05.トリップ
06.ネオンと虎
07.DISTANCE
08.瞑想
09.あの青と青と青
10.resonance
11.チャイナタウン
12.マッカメッカ
13.グラフィティー
14.MATATABISTEP
15.つくり囃子
16.シネマ
17.正しいままではいられない
18.真夜中のランデブー
19.ONE

<アンコール>
20.まだら
21.トロイメライ

22.贅沢ないいわけ

【Member】
パスピエ
大胡田なつき(Vo)
成田ハネダ (Key)
三澤勝洸(Gt)
露崎義邦(Ba)

佐藤謙介(Support Dr)

HIFANA
KEIZOmachine!
ジューシー

室屋光一郎(1st. Violin)
柳原有弥(2nd. Violin)
島岡智子(Viola)
水野由紀(Cello)

斎藤祥子(Per.)

■リリース情報
「まだら」 (NEHAN RECORDS)
MBS ドラマ特区「ホームルーム」 エンディング主題歌
各配信サイトにて配信中

■ドラマ情報
MBS ドラマ特区「ホームルーム」 
MBS 2020年1月23日から毎週木曜深夜0:59~
テレビ神奈川 2020年1月23日から毎週木曜よる11:00~
チバテレ 2020年1月24日から毎週金曜深夜0:00~
テレ玉 2020年1月29日から毎週水曜よる11:30~
※放送日時は変更の可能性があります
[出演]山田裕貴/秋田汐梨/富田望生/横田真悠/前野朋哉/
山下リオ/大幡しえり/若林拓也
[原作]千代『ホームルーム』(講談社「コミックDAYS」連載中)
[スタッフ]監督:小林勇貴  脚本:継田淳  
制作:ロボット  製作:「ホームルーム」製作委員会・MBS
(C)「ホームルーム」製作委員会・MBS (C)千代/講談社
「ホームルーム」オフィシャルHP 

【パスピエ・プロフィール】
2009年に成田ハネダ(key)を中心に結成。バンド名はフランスの音楽家ドビュッシーの楽曲が由来。卓越した音楽理論とテクニック、70s~00sまであらゆる時代の音楽を同時に咀嚼するポップセンス、ボーカルの大胡田なつきによるMusic Videoやアートワークが話題に。11年に1st ミニアルバム「わたし開花したわ」でデビュー。その後、数々の大型ロックフェスにも出演、対バン形式の自主イベント“印象”シリーズや全国でのワンマンツアーを行い好評を博す。15年末には単独で日本武道館公演を行い成功を収める。16年12月にCDデビュー5周年を記念して初のホールツアーを東名阪で開催。17年1月に4th フルアルバム「&DNA」を発売。春には過去最大規模の全国ツアー、パスピエ TOUR 2017 “DANDANANDDNA”を開催。その後、17年から18年にかけて「OTONARIさん」、「ネオンと虎」の2枚のミニアルバムを発売。18年10月には、初の野音ライブ企画、パスピエ野音ワンマンライブ “印象H”を東京/日比谷野外大音楽堂と、大阪/服部緑地野外音楽堂で開催し成功を収める。昨年は結成10周年を迎え、5月には5th Full Album「more humor」をリリースし、全国ツアー「パスピエ TOUR 2019 more You more」を完遂。2020 年 2 月に十周年特別記念公演“ EYE ”を 開催。また、2月5日にはユニバーサルミュージックとタッグを組み自主レーベル “NEHAN RECORDS”を立ち上げ「まだら」を配信リリースした。

パスピエ 結成10周年記念特設オフィシャルサイト 
パスピエ オフィシャルHP
公式Twitter : @passepied_info
公式 Instagram:@passepied.info

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