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『流浪の月』『少年と犬』『半沢直樹』……文芸書の年間ランキングから考える「逃げる場所」としての小説

リアルサウンド

20/12/30(水) 11:00

年間ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(12月1日トーハン調べ)

1位 『流浪の月』凪良ゆう 東京創元社
2位 『少年と犬』馳星周 文藝春秋
3位 『半沢直樹 アルルカンと道化師』池井戸潤 講談社
4位 『クスノキの番人』東野圭吾 実業之日本社
5位 『一人称単数』村上春樹 文藝春秋
6位 『オーバーロード(14) 滅国の魔女』丸山くがね KADOKAWA
7位 『ライオンのおやつ』小川 糸 ポプラ社
8位 『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼 講談社
9位 『熱源』川越宗一 文藝春秋
10位 『転生したらスライムだった件(16・17)』伏瀬 マイクロマガジン社

 トーハンの文芸書ランキング、今年の年間1位に輝いたのは4月に発表された本屋大賞に選ばれた『流浪の月』(凪良ゆう)。総合ランキングでは文芸書唯一のトップ10入りという快挙である。本屋大賞受賞後第1作となる『滅びの前のシャングリラ』も発売前重版で10万部突破したことで話題を呼んでいたが、南沢奈央、酒井若菜、三村マサカズといった読書好きで知られる芸能人からも注目する声があがっており、もともとBL分野で活躍していた著者にとって、読者層に大きな広がりを見せた飛躍の年だったといえるだろう。

 舞台中止の知らせを受けたコロナ禍で『流浪の月』を読んだという南沢奈央さんは、自身の書評コラムで「読んでいるあいだ、舞台中止のショックを一瞬忘れていた。そもそもわたしが現実から逃げるようにして本を開いたから、余計に世界に没入していたのかもしれない」「逃げる場所を求めてもいいのだ」と語っている。外出自粛の影響で書店に足を運ぶ人も増えたという2020年。総合ランキングでは『鬼滅の刃』や「あつまれどうぶつのもり」の関連書籍が見られるように、逃げ場所として何が最適かは人それぞれ。小説である必要はもちろん、ない。

 だが、『流浪の月』で描かれるかつて誘拐事件の加害者と被害者だった2人の男女が、世間からどれほど「普通じゃない」とそしられようとも、できるかぎりで周囲を傷つけないよう繊細に心を配りながら、「こういうふうにしか生きられない」と自分たちのありようを貫こうとするその姿は、小説でしか描くことのできない救いのひとつであると思う。世間の目、自分の信念、大切な人の幸せ。秤にかければかけるほど正解の見えない苦しさの深まっていく今年、本作を読んだことで心を壊さずに済んだ、という人も大勢いるに違いない。

 2位の直木賞受賞作『少年と犬』(馳星周)は、東日本大震災から半年後を舞台に、ある犬が6人の飼い主のもとを渡り歩いていく姿を描いたもの。不条理な現実を前に絶望を抱えた人たちが、ほんのわずかな光をたよりに再生していく物語に、今年はとくにうたれる人が多かったのかもしれない。

 とはいえ、暗い時世だからこそ現実を忘れ、ただただエンタメ・フィクションの世界に没頭したい、と本を手にとる人も少なくない。今年の夏、待望のシーズン2が放送されたドラマ『半沢直樹』、原作シリーズの最新作が3位ランクインしたように、映像化された作品の“強さ”は文庫ランキングに色濃く反映されている。

年間ベストセラー【文庫本ランキング】(12月1日トーハン調べ)

1位 『マスカレード・ナイト』東野圭吾 集英社
2位 『AX アックス』伊坂幸太郎 KADOKAWA
3位 『ペスト』カミュ/宮崎嶺雄 訳 新潮社
4位 『素敵な日本人』東野圭吾 光文社
5位 『ホワイトラビット』伊坂幸太郎 新潮社
6位 『大河の一滴』五木寛之 幻冬舎
7位 『屍人荘の殺人』今村昌弘 東京創元社
8位 『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ 文藝春秋
9位 『この世の春(上・中・下)』宮部みゆき 新潮社
10位 『糸』林民夫 幻冬舎
11位 『罪の声』塩田武士 講談社
12位 『青くて痛くて脆い』住野よる KADOKAWA
13位 『あきない世傳 金と銀(8)瀑布篇・(9)淵泉篇』髙田郁 角川春樹事務所
14位 『危険なビーナス』東野圭吾 講談社
15位 『悪寒』伊岡瞬 集英社
16位 『わたしの幸せな結婚(1・2・3)』顎木あくみ KADOKAWA
17位 『恋のゴンドラ』東野圭吾 実業之日本社
18位 『あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続』宮部みゆき KADOKAWA
19位 『桜のような僕の恋人』宇山佳佑 集英社
20位 『ソードアート・オンライン(23)』川原礫/abecイラスト KADOKAWA

 文庫の年間ランキング、3位に『ペスト』がランクインした理由はいわずもがな、なので割愛する。1位は、2021年9月に映画化が決定している『マスカレード・ナイト』(東野圭吾)。だがこれは映像化が決まったから、というよりも昨年木村拓哉&長澤まさみ主演で画化された『マスカレード・ホテル』の続編であることも大きいだろう。2020年上半期の文庫ランキングで1位を獲得した『AX』(伊坂幸太郎)を抜いてのランクインとなった。

 ほかにも、今年6月に映画のBlu-ray&DVDが発売されたばかりの『屍人荘の殺人』(今村昌弘)。10位に中島みゆきの名曲をもとに菅田将暉&小松菜奈主演で8月に映画化された『糸』(林民夫)。11位の『罪の声』(塩田武士)は小栗旬&星野源主演というだけでなく、今年話題沸騰したドラマ『MIU404』の野木亜紀子が脚本を手掛けて映画化されたことでも注目を浴びている。12位の『青くて痛くて脆い』(住野よる)も映画化、14位『危険なビーナス』(東野圭吾)もドラマ化された作品である。

 そんななか、映像化されていないにもかかわらず2位と5位にランクインした伊坂幸太郎作品の人気はさすがである。累計265万部を突破した同作は、『グラスホッパー』『マリアビートル』に続く殺し屋シリーズ最新作。「最強の殺し屋は恐妻家」というキャッチコピーだけで、前シリーズを知らずとも手にとりたくなってしまう。

 実際、伊坂作品は、シリーズものであっても、どこから読んでも楽しめるつくりになっているのがほとんどだ。登場人物が少しずつ折り重なり、ファンは「これはあのときの!」と気づくことができるが、その楽しみは順序が逆になっても変わらない。

 ちなみに5位の『ホワイトラビット』も、奇妙なたてこもり事件を描いた単発ミステリーだが、伊坂作品ではおなじみの泥棒が登場する。「知っていればなおさら楽しい」だけで「知らなくても十二分におもしろい」のが伊坂作品の魅力だろう。

 その魅力は全世界共通で伝わるものなのか。『マリアビートル』を原案にデヴィッド・リーチ監督がハリウッドでの実写映画化を進めていることが今年、発表された。映画版のタイトルは新幹線を意味する『Bullet Train』(予定)。キャスティングの発表も待ち遠しく、来年は文芸もそれ以外でも明るいニュースに満ちる世の中であることを期待したい。

■立花もも
 1984年、愛知県生まれ。ライター。ダ・ヴィンチ編集部勤務を経て、フリーランスに。文芸・エンタメを中心に執筆。橘もも名義で小説執筆も行い、現在「リアルサウンドブック」にて『婚活迷子、お助けします。』連載中。

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