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いきものがかり水野良樹の うた/ことばラボ

w/堀込高樹(KIRINJI) 前篇

隔週連載

第41回

21/2/22(月)

例えば鈴木雅之、例えば畠山美由紀。そうした誰もが認める実力派ボーカリストの最新作に、このふたりのソングライターは楽曲を提供している。よい歌い手が“この人の曲を歌ってみたい“と思う、あるいはよい歌い手のスタッフが“この人の曲を歌わせたい”と思うソングライターであることの証左であるように思えるが、同時にふたりに共通する“職業作家”的資質を伝える事実でもあるだろう。さて、彼らのソングライティングの作法に共通点はあるのか。まずは水野が堀込の作り方を聞くところから、対談ははじまった。

水野 堀込さんの作品を聴かせていただくと、歌詞がサウンドのなかで機能している部分があるんですけれども、それは決して無機質なものではなくて、そこで世界観が立ち上がってくるところもあるし、もっと言えば“詞先なのかな?”と思えるくらい歌詞が曲から独立して成立するような素晴らしさがあるなと思わせられてしまうんですが……。

堀込 ありがとうございます。

水野 そもそも、歌詞をどういうふうに書きはじめていかれるのかなというところから聞かせてください。それは、簡単に言ってしまえば、曲先なのか?詞先なのか?とか、サウンドを作っていくなかでそれに合わせて言葉を選んでいくのか?ということなんですが、いかがですか。

堀込 まず、基本的には曲が先です。それとは別に、歌詞についていつもメモみたいなものは作っていて、それは本当にちょっとしたこと、どうでもいいようなことを記していくんです。あるいは、響きがおもしろい言葉とか。そういうものがたまっていきますよね。で、曲ができたときに、“この曲にそぐう内容って何かな?”と考えながら、そのストックの中から取り出してくることもあれば、イチから考えることもあります。それから、気に入った単語やセンテンスがあると、“これを生かす曲調って、どんなものがあるかな?”と考えたりすることもありますが、それはごくたまにあることで……。

水野 そこで言う「気に入る」というのは、どういうポイントですか。「音の響きがおもしろいな」とか「イメージが広がりやすいな」とか、そういうところでピックアップするんですか。

堀込 うーん……、「見えてるけど、みんな気づいてないな」みたいなことかな。例えばトランプで「神経衰弱」をやってて、“これとあれが合うのを俺は知ってるけど、みんな気づいてないんだね。じゃあ、これはもらいますよ”みたいな(笑)。そういうイメージですね。

水野 J-POPの歌詞については、「翼、広げすぎ」みたいなことをよく言われますけど(笑)、そういうJ-POPにありがちな言葉じゃないもの、他の人は歌詞にしなさそうな言葉を堀込さんは歌詞にしてるなと思うことがけっこうあって、例えば「雑務」なんて言葉もそうだと思うんです。

堀込 なるほど。

水野 それに、この対談でもよく話題になったんですが、例えば今、“携帯”という言葉を使うか?という問題があると思うんです。堀込さんは、そういう時代感が出てしまうような言葉をビビッドに使いながら、でも時代感を感じさせないなあと思うんですよ。それは、どういう意識で使われているんですか。

堀込 それは……、気にするのがめんどくさくなったというか(笑)。

水野 (笑)。

堀込 携帯について言えば、今は電話とは言わないじゃないですか。電話というもの自体は昔からあって、歌詞に出てきたこともあるけれども、今、歌詞に電話というものを盛り込もうと思ったときに“電話”という言葉を使ったら、「これ、昭和の歌?」みたいな話になっちゃうでしょ。

水野 そうですね。

堀込 だから“携帯”と言うしかない。わざわざ、“携帯電話”とは言わないし(笑)。そこを躊躇していると歌詞が書けなくなってしまうから気にしない、と。同じような話で、最近はコンビニという言葉もわりとよく歌詞に出てきますけど、僕が最初に歌詞にコンビニという言葉が出てきて“あっ!”と思ったのは、SPITZの♪愛はコンビニでも買えるけれど♪(「運命の人」)だったと思うんです。“えっ!?コンビニって使うんだ、SPITZは”って。それまでは、自分たちのすごく身近にあるから、そこでいろんな物語が生まれたり、いろんな思いが発生したりするんだけれども、なかなか持ち込みにくい言葉だったんですよ、“コンビニ”というのは。でもSPITZが歌ってるし、“コンビニ”は解禁だなって(笑)。そのときに思いましたよね。

水野 (笑)。周りのアーティストの作品や耳にする音楽に影響されて、自分の使う言葉が変わってくるということはけっこうあることですか。

堀込 今パッと浮かんだのが“コンビニ”だったんですが、たぶん他にも無意識のうちに影響を受けていることはあると思います。ただ怖いのは、足が早い言葉ってありますよね。例えばアプリケーションの名前とか。僕も「「あの娘は誰?」とか言わせたい」という曲でインスタという言葉を使ってしまいましたけど、一時すごく流行ったものの今は誰も使っていないアプリって、あるじゃないですか。だから、しばらくして“あれ、使わなくてよかった”みたいなことが起こりうると思うんですよね。

水野 これは僕の感想になりますが、そういう“今ビビッドだ”と感じる言葉が使われていてもKIRINJIのサウンドの中だとフラットな印象に聴こえる感じがするんですよ。そこには、レトロというか、今の言語感覚とはちょっと違うような言葉も混ざってるから独特の世界観が成立しているように思うんですが、そこのところは意識されているんですか。

堀込 そういうふうに、古いものと新しいものが混ざっているのは、ただ単に僕がおじさんだからだと思いますよ(笑)。つまり、昔から知ってる言葉と新しく知った言葉をいろいろ使ってるというだけのような気がしますね。

── ビビッドな言葉を使うと“今”感というか生々しい感じは出るかもしれないけれど、堀込さんが言われたアプリの話のようにあっさり古びてしまう危険性があると思うんですが、と言って“今”感を避けようとするとそもそも古臭い印象の歌詞になってしまうということがあると思うんです。

堀込 確かに、そうですね。

── その“今”感とレトロの言葉のバランスというか塩梅が絶妙なので、水野さんがおっしゃるようにKIRINJIの言葉は古びてしまう感じがしないんじゃないでしょうか。

堀込 その話の答えになるかどうかわからないですけど、キリンジの音楽というのはエバーグリーンみたいな形容で言われたりしたんですよね。それはたぶん、“今どき感”みたいな要素がなかったからそういう言われ方をしたんだろうなと思うんです。褒め言葉として言ってくれたところもあるのかもしれないけれども、同時にパッとしない感じだということでもあると思うんですよ(笑)。趣味性が高い、と言えばいいのかなあ。つまり、今という時代に向き合っていないな、と……。

水野 うーん…、どうなんでしょう?

堀込 そういうふうに僕は感じて、でも僕自身はもちろん今を生きているのに、そういうレトロ的な視点で言葉を紡いだり音楽を作るというのはあまりよくないんじゃないかなということを、活動を続けていくなかで思うようになり、結果、今どきの言葉は使わないとか賞味期限が短いと思えるものは取り入れないというようなことにこだわるのはやめようと考えたタイミングがどこかであったんだと思います。

取材・文=兼田達矢 写真=映美 ヘアメイク=長谷川亮介(水野良樹)

次回は3月8日公開予定です。

プロフィール

水野良樹(いきものがかり、HIROBA)

1982年生まれ。神奈川県出身。
1999年に吉岡聖恵、山下穂尊といきものがかりを結成。
2006年に「SAKURA」でメジャーデビュー。
作詞作曲を担当した代表曲に「ありがとう」「YELL」「じょいふる」「風が吹いている」など。
グループの活動に並行して、ソングライターとして国内外を問わず様々なアーティストに楽曲提供。
またテレビ、ラジオの出演だけでなく、雑誌、新聞、webなどでも連載多数。
2019年に実験的プロジェクト「HIROBA」を立ち上げ。
2/24、33枚⽬のシングル「BAKU」、3/31、9枚⽬となるニューアルバム『WHO?』をリリース予定。

堀込高樹(KIRINJI)

1996年、実弟の堀込泰行と「キリンジ」を結成。1997年のインディーズデビューを経て、翌年メジャーデビュー。
2013年の堀込泰行脱退以後、新メンバー5人を迎えたバンド編成「KIRINJI」として再始動。
8年間の活動を経て、2021年からは堀込高樹のソロプロジェクト「KIRINJI」として活動中。
自身の作品のほか、他のアーティストなどへの楽曲提供、劇伴音楽、テーマ曲制作等、幅広い分野で活躍している。

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