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鬼龍院翔、単独公演で示した“歌”への思い バラード曲やMUCCカバー披露した『ひとりよがり6』

リアルサウンド

18/12/27(木) 17:00

 12月7日、パシフィコ横浜 国立大ホールにて『鬼龍院翔 単独公演「ひとりよがり6」』ツアーの神奈川公演が行われた。

(関連:『鬼龍院翔 単独公演「ひとりよがり6」』ライブ写真

 『ひとりよがり』とは、2011年から不定期に行われているゴールデンボンバーのVo-karu、鬼龍院翔のソロ公演。普段はアップテンポのナンバーを中心に行われるゴールデンボンバーのライブだが、『ひとりよがり』はバラード中心。なぜなら「普段のライブではバラードを歌おうとすると他のメンバーがやることなくて歌えないから、バラードを歌って成仏させる場所(※当日のMCより)」というスタンスとのことで、当然ステージには鬼龍院ひとりきり。そして観客は常に着席して鑑賞するという、振り付けやヘドバン満載の通常ライブとは正反対といえる内容だ。

 先日リリースされたアルバム『個人資産』は、大竹しのぶや氣志團ら、他アーティストに提供した楽曲をセルフカバーしたもの。コンポーザーとしての能力も多方面から買われている鬼龍院の曲の世界をじっくりと楽しむことができる公演となっている。

 3年ぶりの開催となる『ひとりよがり』、平日ながら会場はソールドアウト。ブレイク当初は“一発屋”と呼ばれたり、バンド側も自虐していた部分もあったが、こうしてしっかりと熱心なファンを引き寄せ続けている。

 開演時刻になると、ジャケットを身にまとった鬼龍院がゆっくりとステージに登場。ミラーボールが場内を照らしていく中、ライブは「Reue」でスタート。軽くリズムをとりながら「腐男子」へ続いていく。

 MCでは『ひとりよがり』のタイトルの意味について「こじつけだけど」と前置きしながら、「ここには5000人いるけれど、ひとりぼっちになったつもりで歌いますので、曲中だけは僕と同じように、お互いにひとりぼっちになって音楽の世界に深く浸っていただければ」と説明する鬼龍院。

 「皆さんの体験に歌詞のすべてが当てはまるわけではありませんが、もしかしたら一行くらいだけ、皆さまの思い出に一瞬、かするところがあるかもしれない。そんな一節があったときは、“ああ……あんなことあったな”と、思い出によがってください。僕も歌いながら“この曲の頃はきつかったなあ~、今は歌えててよかったわ~”と苦悶の表情を浮かべながら歌いますので」と、「男心と秋の空」と「片想いでいい」を披露した。

 通常のゴールデンボンバーのライブでも、もちろん楽曲の良さは堪能できるわけだが、「“みんな”で身体を動かして盛り上がる」ような方向性の曲も多い(バラードはライブ本編に組み込まれる寸劇中に演ることがほとんど)。しかしここでは、着席したまま、歌詞を噛み締めるように“ひとりで”浸ることが推奨されている。

 もちろん、客席にいる私たちとステージの上の鬼龍院は“同じ経験”は誰一人していない。しかし彼の歌っていることは“人の心はままならない”、“離れた心はもとには戻らない”という残酷な現実だ。そしてそれに対しての後悔や諦念を綴っていくという、男女世代問わず普遍性のあるもの。様々な歌に思い出を重ねているであろう観客からは、時折すすり泣く声も聴こえてくる。この客席の“5000人のひとりぼっち”と、ステージの上の“ひとりぼっち”が、いわゆる近年のライブでいうところの“一体感”とは全く別物の空気を作り出していた。

 MCでは明るくパシフィコ横浜という会場への思い入れや、先輩バンドのライブ後に自分たちのビラ配りに来たことがあるという思い出、そして横浜で開催された大きなカウントダウンイベントに張り切って出演したものの、滑って終わったという苦い経験談を笑いを交えて語っていた。

 そして「あまり暗い曲が続くのも……」と、「同じ日記」、「泣かないで」など、本人曰く“明るい曲ゾーン”を丁寧に歌い上げる。

 そこから、「MCでメンバーの話をするとファンにウケる」とのことで「最近はメンバーのグループLINEで、歌広場(淳)の“ざまあみろ!”スタンプばかり使っている」といったトークや告知などをはさみ、次のセクションは大竹しのぶに提供した「Miren」、「さよなら、さよなら、さよなら」、「忙しくてよかった」といった、鬼龍院の核ともいえる“珠玉の未練ソング”を、情感をたっぷり込めて披露していく。続いてのMUCCのカバー(昨年リリースされたMUCCののトリビュートアルバムと『個人資産』のボーナストラックに収録)「ブリリアント ワールド」も、きらびやかなサウンドの中にどこか漂う喪失感が『ひとりよがり』に相応しい。

 そして本人がパワーポイントに初挑戦して作成したという、物販グッズを紹介するプレゼンタイムへ。「普通のグッズだと思うから高い、ブランド品だと思って」など、鬼龍院流のジョークを飛ばし、観客の笑いを誘った(前のセクションとのテンションの差が凄まじい)。

 ライブも佳境に入り、「あの素晴しい朝をもう一度」では、スクリーンを使ってのエアギター、「Love Days」では先程の物販紹介で使用したポスターの裏にサックスが映し出され、鬼龍院がそれを演奏するというギミックやバックダンサーが全員鬼龍院という場面も登場し、観客を沸かせた。なお、「Love Days」MVにも披露されているダンスは、ex.DA PUMPのKENによるものだが、本来はカッコいいダンスなのに、踊りの基礎のない自分ではダサくなってしまうと語り、「無理なんだこの体じゃ! 誰か交換してくれ!」と弁解する一幕も。

 “ファンの喜ぶこと”を考えた結果、新曲を持ってきたという鬼龍院。「振動」も、やはり失った愛について後悔し、逡巡する楽曲だ。サビでは〈どんなに歌っても 歌は届かない ただの振動〉といい切る。そう、音は、音楽は突き詰めてしまえば、“空気の振動”が鼓膜に伝わって起こる現象だ。先述したように、大抵の場合は離れた心というものはどうにもならない。仮にそれを歌にしても、仮に個人資産が何億円あっても(仮の話です)。ただ、その”振動”が、こんなにも多くの人の心を揺さぶることだってあるのだ。

 「Tomorrow never world」では「皆さんの近くに行きます!」とステージを離れ、客席に降り立つ鬼龍院。1階席のみならず、2階、3階席まで歌いながら練り歩いていく。思わぬファンサービスに着席したまま喜びを隠せない観客たち。歌い終わると同時にヨタヨタと息を切らせながらステージに戻るという不器用な姿も、ファンから愛される理由なのだろう。そして本編最後は「春が来る前に」で締めくくられた。

 アンコールでは、「今まで孤独を磨いてきたけど、(客席の)皆の顔を見て、『ひとりよがり』やってよかったと思いました!」と、ポップで力強い応援歌「らふぃおら」、自分自身に問いかけるようなバラード「広がる世界」といった、ゴールデンボンバーの魅力のひとつである前向きなナンバーを披露。そしてラストの「あしたのショー」では、スクリーンにインスタグラムのログが映し出される。『ロボヒップ』ツアーの準備など、今年の鬼龍院の様子が描かれるのだが、ツアー中盤からメンタルの問題なのか作曲ができなくなったり、じっとしていると不安になるため外を彷徨っていたという告白がなされる。現在は無事に回復しているとのことで、“昨日までのショーも中々頑張ってるよな(^_^)”と、様々な過去があって、現在の鬼龍院があるということを改めて感じさせられた。ラストのラビでは紙吹雪が降り注ぎ、達成感のある表情をみせる鬼龍院に、観客は大きな拍手で応えていた。

 歌い終わると、「重いものを見せてしまってスミマセン、要するに今は元気ですということです」と、最後まで彼らしい腰の低さでステージを後にした。

 最後に「今年、精神的に辛かったけど、歌ってる時だけは楽しかったから。僕、歌がないとダメだから、またライブでお会いできたら嬉しいです」と鬼龍院は観客に呼びかけていた。明日の翔は、また全国をまわり、歌い続けて行くのだろう。(藤谷千明)

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