劇場
20/7/16(木)
劇場 (C)2020「劇場」製作委員会
又吉直樹氏の物語が持つ鉛筆的な香りと、行定勲監督が得意な“隅っこ感”がこんなに相性が良いんだと酔いしれた作品。
そしてキャスティングが隅から隅まで面白いのは、この映画は東京より、“下北沢の空気”に魅せられ、普通ではない人間に憧れる人々の物語だからかもしれない。有名な演出家になるのが夢という青年と、彼を支える彼女のラブストーリーって、ブロードウェイを舞台にしたら、いくつものアメリカンドリーム的なハリウッド映画が頭に浮かぶけれど、それが“下北沢”になると、驚くくらい、時間が止まり、うだつの上がらないダメ男の姿に変化してしまうのがこの映画の魅力。
『ヲタクに恋は難しい』を観たばかりの私個人としては、あの山崎賢人くんもとってもチャーミングでありましたが、『劇場』の自己肯定と劣等感を行き来する隠れ自信のないキャラは、本来悪い奴じゃないと思える眼差しと、自分自身ももしかしたら、今の自分に悩んでいるのかもしれない山崎賢人くんじゃないと、あのラストは迎えられなかったかもしれない。
そして、彼に引き寄せられ、流され、彼の一挙手一投足を見ている彼女を演じられるのは、松岡茉優ちゃんでしか無理でしたでしょう。
しかも痛いくらい、無理に笑ったり、無理に無邪気さを装ったり、そんな姿が、このふたりの関係を全て意味しているんだから切なすぎる。
恋ほど楽しく辛く、愛されていると確信した瞬間から、“甘え”が生まれてしまうものはない。どこまで相手が自分を許してくれるんだろう。このすべてを許してくれてこそ“愛だ”と思い込んでしまう若い恋。
これを映像で表現しきったことで、胸がキュッと締めつけられるんだから、狂おしいのよ。“胸キュン”ではないからお間違えなく。
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