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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

キュアロンに直撃取材! 緊急『ROMA/ローマ』特集

祝・劇場公開! というわけで海老名まで観に行ってみた!

CLOSE UP

第2回

19/3/14(木)

前述のように、配給会社を介さない劇場公開、という日本映画業界では異例中の異例とも言えるケースとなった『ROMA/ローマ』。当初は全国48館のイオンシネマでの公開が発表・開始されたが、1週間後にはシネスイッチ銀座やアップリンク渋谷も含めた合計77館に公開規模が拡大。まさに時代の1ページを刻むような事態となってきた……。

となったら、これは大スクリーンで観てみるっきゃないよね! ということで、前項でキュアロンに直撃していただいた映画ライター・村山章さんにもうひとつお願い! 「できるだけいい環境で観てきて、レポートしてください!」

突如として発表された『ROMA/ローマ』の日本劇場公開

3月6日水曜日に突然駆けめぐったニュース。それまで「日本では劇場公開の予定なし」とされてきた『ROMA/ローマ』が、全国のイオンシネマで公開されるというのだ。公開日はわずか3日後の3月9日。日本では昨年の東京国際映画祭でのみ上映された後、Netflixで配信が始まっており、劇場公開は望み薄と思われていただけに、あまりにも急な展開とはいえ朗報だと言っていい。

『ROMA/ローマ』の劇場配給権は、ネット配信権と共にNetflixが保持しているのだが、今までNetflixが日本で劇場公開に乗り出した例はなかった。しかしベネチア国際映画祭金獅子賞、アカデミー賞では監督賞、撮影賞、外国語映画賞の3冠に輝いた『ROMA/ローマ』を劇場の大スクリーンで観たいという映画ファンの声は大きく、ついにNetflixは方針を大きく変えたことになる。

ところが、だ。朗報転じて悲報……とまでは言い過ぎにしても、いざ詳細が判明すると、筆者は戸惑いを隠せなかった。『ROMA/ローマ』のアルフォンソ・キュアロン監督は、ドルビーアトモスという音響システムに特化した音響設計をしたと公言しているのに、ドルビーアトモスでの上映館がひとつもなかったからだ。

すでにネット配信されている『ROMA/ローマ』を劇場公開する意義は、キュアロンが本来想定していた意図を感じ取ることだと思うのだが、全国のイオンシネマで5カ所しかない(幕張新都心、名古屋茶屋、京都桂川、和歌山、岡山)アトモス対応のスクリーンでかかっているのは『ドラえもん のび太の月面探査記』やいまだに人気が衰えぬ『ボヘミアン・ラプソディ』。いずれも各劇場の最大スクリーンであり、『ROMA/ローマ』がいくら映画賞を獲りまくったとはいえ、白黒、スペイン語のメキシコ映画がそれらのビッグタイトルより客席を埋められるとは思えない。残念だが『ROMA/ローマ』をアトモスで観るのは難しいかもしれない。

そこで浮上してきた選択肢が、イオンシネマ海老名。まず海老名と茨木のイオンシネマだけがTHX認定の最大スクリーンで『ROMA/ローマ』を上映しており、劇場の本気が伺える。そしてイオンシネマ海老名は、知る人ぞ知る「やたらと音がいい映画館」なのだ!

日本最古のシネコン、イオンシネマ海老名へ

イオンシネマ海老名は、1993年にワーナー・マイカル・シネマズ海老名として開業した日本最古のシネコンで、創業時からのトレードマークが、これまた日本で初めて一般向けの映画館としてTHX認定を受けた7番スクリーン。当時も今も、日本屈指の音響クオリティを誇るスクリーンだという噂は耳にしていた。

THX認定とは、そもそもはジョージ・ルーカスが提唱した規格で、高品質なサラウンド音響で知られているが、最大の目的は“製作者の狙いを正確に再現する”こと。そのために、使用機材に関してだけでなく、「周囲の騒音から遮断されていること」など厳しいルールが課せられている。中でも海老名の7番スクリーンは評判が良く、ドルビーアトモスではないけれど、少なくともキュアロンが望んだ音に一番近い音響で『ROMA/ローマ』が観られるに違いない。

とはいえ、海老名は新宿からだと小田急線で約1時間。近場に住んでいる人には便利だろうが、気軽に行くには遠い。果たしてそれだけの労力と時間を費やす価値があるのだろうか? 結論から言おう。価値はあった。それも想像していたレベルをはるかに超えて。イオンシネマ海老名の7番スクリーンは、その真価を存分に発揮していたのである!

海老名駅東口にたどり着いた。小田急線、相鉄線、JR線が乗り入れている。前方に見える商業施設VINA WALKに繋がる遊歩道を進む。
右手にイオンモールが見えてきた。
このエスカレーターを降りて100mほど歩けばイオンモールに到着。
典型的な地方のショッピングセンター。ぱっと見、映画館の雰囲気はない。
イオンシネマのマークも大人しめに掲示。
エスカレーター脇に『ROMA/ローマ』のポスター発見!
2階の衣料品売り場を通り抜けて、ようやくイオンシネマにたどり着く。

360度、全方位を音で包まれる映画体験

筆者はすでに『ROMA/ローマ』をNetflixで観ていて、その素晴らしさに感銘を受けていた。自宅のテレビでの鑑賞とはいえ、映画の内容はちゃんと受け取ったと思っていた。ところが上映が始まるや否や、自宅では決して味わうことができない奇妙な感覚にとらわれていた。

『ROMA/ローマ』は、キュアロンの幼い頃の思い出を基に、家政婦として住み込みで働く若い女性と雇い主一家の10カ月間を描いていて、多くのシーンが、カメラがゆったりと動く長回しのショットで構成されている。まず驚いたのは、映画が始まったのに「遅刻した客が大きな音を立てて入ってきた!」と思ったこと。思わず斜め後ろを振り向いたが誰もいない。果たして音を立てたのは客ではなかった。画面には映っていないが、主人公たちが暮らす家のご近所の音が、斜め後ろから聞こえてきたのである。

映画とは、目の前に映っている映像の情報に集中するのが普通だが、『ROMA/ローマ』の場合は勝手が違う。スクリーンの中で繰り広げられている情景の周囲の音が、ありとあらゆる方向から聞こえてくるのだ。基本的にBGMはなく、音楽が流れるのはラジオがレコードなどその場面の中で流れているものだけ。言うなれば、音楽を含めてすべてが環境音で構成されているのである。

気がつけば、客席に座りながらにして、まるで自分が撮影中のカメラのすぐ傍にいるような、1970年代のメキシコシティーの只中に放り込まれたような錯覚に陥っていた。

キュアロンが、登場人物の人生ドラマだけでなく、彼らを取り巻く“世界”そのものを描こうとしていることは、『ROMA/ローマ』をどんなフォーマットで観たとしても誰もが感じるはず。しかし360度の音に囲まれて、耳から入ってくる豊かな情報量に身を委ねることで、映画の中の空間と時間を共にしているような感覚が得られるのだ。おそらくこれこそが、キュアロンが本作の音響設計で狙っていた効果だったのではないか。

惜しむらくは、幾度となく頭上を横切る飛行機の音が真上から聞こえないことで、きっと天井にスピーカーがあるドルビーアトモスのシステムなら、真上からの音もカバーされているのだろう。また、上映素材の映像の解像度が2Kで(キュアロンの推奨は4K)、574席あってサイズの大きい7番スクリーンに映すには物足りなく感じたこと、字幕の精度が甘いことも残念ではあった。しかしそれらを補って余りある唯一無二の臨場感が、イオンシネマ海老名には確かにあったのである。

日本最古のシネコンのロビー。
「日本で初めてTHX認定された映画館です」と宣言しているのが頼もしくも微笑ましい。
他のスクリーンの音の干渉を避けるためか、7番スクリーンはひとつ上のフロアにある。
急に決まった公開だったが、ちゃんとポスターが貼られていてなんだかホッとする。
7番スクリーンの入口にはTHX認定マークが。
イオンシネマ海老名が誇る7番スクリーン。574席。
劇中で何度か登場する巨大な映画館のシーンでは、映画と現実が座席を通じて繋がっているように見えて楽しい。

せっかくなので普通の映画館でも観賞してみた!

海老名はいいとは聞いていたが、まさかこれほどだったとは! 話題は逸れるが、一部で話題になっていた全裸男性がふたつ棒を振り回す奇天烈なシーンを、R-15指定にすることで無修正で通したNetflix、イオンシネマ、映倫の判断にもありがとうと言いたい。

と、大絶賛をもってこの原稿を締めようと思ったのだが、いや待てよ。イオンシネマ海老名が日本最古のシネコンとすると、テクノロジーは日進月歩。最新機材を保有する他の劇場でも、キュアロンが目指した映画館ならではの音響設計は為されているはず。比べもしないで海老名が他より優れていると考えるのは早計ではないか。そこで翌日、最寄りのイオンシネマの100席くらいのスクリーンでも『ROMA/ローマ』を鑑賞してみた。

これも結論から言うと、海老名の7番スクリーン、本当にスゴいですわ! もちろん近所のイオンシネマでも、劇場ならではのサラウンド効果は生きていて、作品を堪能することはできた。ただ空間の広がりが違うせいか、体感として海老名のサラウンドが360度なら、こちらは180度くらいの印象。またスピーカーの特性か、物理的に距離が近いせいなのか、状況音がどこからともなく響いてくるのではなく、ハッキリとスピーカーから鳴っているのが分かる。音が鋭角に耳に飛び込んでくるのである。

もし多少時間がかかっても海老名なら行けるという人には、ナチュラルに音が広がる7番スクリーンでの圧巻の音響体験をお薦めしたい……のだが、。イオンシネマ海老名の7番スクリーンでのTHX上映は、現時点で発表されているのは3月15日(金)、18日(月)、19日(火)、20日(水)の残り4回のみとなってしまった(イオンシネマ茨木のTHX上映は15日で終了)。

ただ、もし今後イオンシネマとNetflixが4K+ドルビーアトモスで上映してくれるのであれば、そりゃあ行きますよ! 幕張でも名古屋でも京都でも、馳せ参じますからどうかよろしくお願いします!

レポート・撮影:村山章

Netflixオリジナル映画
『ROMA/ローマ』独占配信中
3月9日(土)より全国イオンシネマほかで公開中

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