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オリコンチャート上位に並んだ松任谷由実&中島みゆき 稀代のシンガーが2020年に放つ「生きる」というメッセージ

リアルサウンド

20/12/8(火) 12:00

 12月1日に『2020ユーキャン新語・流行語大賞』が発表された。毎年、12月初旬に大賞を含むトップ10が発表されるのだが、2020年の年間大賞は「3密」。他にトップ10にランクインしたのは「アベノマスク」「アマビエ」「GoToキャンペーン」「鬼滅の刃」「あつ森(あつまれ どうぶつの森)」などだが、トップ10のうち5つがコロナ禍をダイレクトに彷彿とさせる言葉となった。

 前述した「あつ森(あつまれ どうぶつの森)」は、Nintendo Switchのゲームソフトで、2020年度のゲーム大賞も受賞し、記録的な大ヒットとなっている。キャラクターがほのぼのしていて見ていて癒されること、画面の中で海や山に出かけられることなど、“時間はあるが籠るしかなかった”この春の巣ごもり需要とリンクし、普段ゲーム機を手にしない層にまで普及したのである。春は新型コロナウイルスに対する情報も少なく、不安ばかりが募っていた中で、まず求められたのが癒しだったのだろう。

 春、夏、秋と経て、そして冬。日々のニュースでは、各地で新型コロナウイルスの感染者数が過去最高を更新している。それでも生きることは続く。何が正しくて、何が間違っているのか。そもそも見えないウイルスに通用する正義なんてないんじゃないかーーその答えは、もう個々の中にしかないのだと思う。

 じゃあ、今、必要なのは何だろう。それは決断する勇気なのではなかろうか。つまり、自分の強い意志だ。情報に流されるのではなく、情報を取捨選択し、個々が自分の行動を決める必要に迫られていると思う。これからの世界を、想像すらできない現実を生き抜いていくためにも。

 そんな決断の背中を押してくれる作品が、12月8日発表のオリコンウィークリーアルバムチャート(12月14日付)にランクインしている。3位の松任谷由実『深海の街』、4位の中島みゆき『ここにいるよ』だ。

松任谷由実 – 深海の街 Album Message Movie~1920
【公式】中島みゆき セレクトアルバム『ここにいるよ』~エール盤~トレーラー動画
【公式】中島みゆき セレクトアルバム『ここにいるよ』~寄り添い盤~トレーラー動画

 両者とも日本を代表する女性シンガーソングライターである。年齢も近く、同世代と言っていいだろう。1970年代半ば以降、自身のオリジナル曲はもちろん、アイドルへの提供曲なども含め、ヒット曲を数多く世に送り出してきた。また、両者とも多くの若手アーティストがカバーをしたり、ラジオパーソナリティとして人気を博すなど、共通点がいくつもあり「どちらがニューミュージック界の女王か」などと比較されることも多かった。

 しかしながら、両者の音楽性は異なっている。ざっくりしたまとめ方になり申し訳ないが、松任谷由実は、軽快なメロディとシティポップの先駆けともいえる洗練されたサウンドが特徴。俯瞰から時代を捉え、巧みにシチュエーションを切り取り、絵画的と称された歌詞も支持された。一方の中島みゆきは、フォークやブルースの流れが感じられるウェットで抒情的なメロディラインが特徴。歌詞のアプローチは時代によって変化が見られるが、後年は万人を圧倒するスケール感ある言葉選びが光っている。

 まず、中島みゆき『ここにいるよ』は、“中島みゆきからの「エール」”がテーマになったセレクトアルバムである。2枚組で、それぞれに「エール盤」「寄り添い盤」と名前が付いている。彼女の代表曲のひとつである「ファイト!」などからもわかるが、“エール”というキーワードは中島みゆきの歴史の中で重要なファクターのひとつだった。その“エール”は、いつの時代でも万人にとって日々を生き抜くために必要なエネルギーだったのだ。

 「ファイト!」は、もともと1983年発売のアルバム『予感』の収録曲だったが、CMソングとして起用されたことで、1994年に『空と君のあいだに/ファイト!』で両A面シングルとしてリカットされた。今回のアルバムタイトル『ここにいるよ』も、「空と君のあいだに」の歌詞の一節から引用されており、中島みゆきの放つメッセージは時代を超えても色褪せることなく、作品を通して受け継がれてきていることがよくわかる。音源もLAの名匠・スティーブン・マーカッセンによってマスタリングされ、現代のサウンドとして堪能できる内容に。クリアな歌唱とサウンドに驚くばかりだが、中でも、〈そんな時代もあったねと/いつか話せる日が来るわ〉(「時代」)なんて、まさしく今に突き刺さるメッセージ。いつか2020年もこんなふうに振り返れたらいいものだと思う。

時代 -ライヴ2010~11- (東京国際フォーラムAより)

 そして、松任谷由実の『深海の街』は、前作から4年ぶり通算39枚目となるオリジナルアルバムだ。コロナ禍で制作されたという本作は、松任谷由実が“ユーミンであること”をいったん離れて、松任谷由実という人間を深堀りしたような印象。タイトルの通り、己の中にある深海に身を置くことで、見えてきた“モノ”を言葉にしている。例えば〈白骨〉(「ノートルダム」)なんて、“ユーミン”だったなら選ばないんじゃないかな。松任谷由実だからこそ選んだのだろう。

 しかしながらここで記しておきたいのは、決して内省的なだけの暗いアルバムではないということ。生命の誕生を彷彿とさせるような、神秘性あるポップアルバムに仕上がっている。前述した「ノートルダム」は、自身も「あまり類を見ないポップスを書けたという自負がある、アルバムの中でも一、二を争うお気に入りのナンバーです」(引用:ユニバーサルミュージック)と語っている楽曲だが、ポップスという手法を通して時代を捉えるだけでなく、そうやってポップスの在り方そのものまで刷新し続けてきたのが、松任谷由実という音楽家なのだ。さらに、力強い演奏に支えられたバリエーション豊かな楽曲も、このアルバムの「生命力」を象徴しているし、先行配信リリースされていた「深海の街」がアルバムのラストを飾ったことで、また新しい聴こえ方を楽しむことができるというのも今作の面白いところ。単にコロナ禍を反映しただけでなく、キャリア50年近くになっても“新しい表現を求め続ける貪欲さ”があるからこその作品に仕上がっている。

松任谷由実 – 深海の街

 紹介した2作に共通項を見つけるとするならば「生」である。生死の生とかいう概念ではなく、生活するの「生」。簡単に言ってしまえば「生きる」だ。生きるとはどういうことなのか、『深海の街』と『ここにいるよ』という2つの作品が教えてくれる。

 音楽という瞬きが、未来への標のひとつになりますように。

■伊藤亜希
ライター。編集。アーティストサイトの企画・制作。喜んだり、落ち込んだり、切なくなったり、お酒を飲んだりしてると、勝手に脳内BGMが流れ出す幸せな日々。旦那と小さなイタリアンバル(新中野駅から徒歩2分)始めました。
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