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ヴィジュアル系バンドにはなぜ“専任ボーカル”が多い? 3つのポイントから考察

リアルサウンド

19/11/10(日) 8:00

 ヴィジュアル系バンドには専任ボーカルが多い。ソロ活動やアコースティックセッションなどで楽器を担当することは少なくないものの、バンド活動においてギターやベースが正式にクレジットされていることは少ない。たとえば、2016年に幕張メッセにて開催された『VISUAL JAPAN SUMMIT 2016』に出演した56組のうち、49組のボーカルが専任だった。同年に同会場で開催された『SUMMER SONIC 2016』の初日出演者55組中、専任ボーカルは26組(「BEACH STAGE-ZoukOut-」を除く)だったのと比べると、明らかに多い。

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 これにはいくつか理由が考えられる。1つ目は、オリジネーターたちが専任ボーカルだということ。X JAPANでのToshlや、LUNA SEAでのRYUICHIといった、圧倒的な歌唱力と存在感をもつ先人に憧れ、ボーカルになりたいと考えるのは自然だ。さらに、そうした専任ボーカルを求めている楽器隊も少なくないだろう。たとえ歌の歌えるギターがいたとしてもだ。ヴィジュアルシーンではボーカル、リードギター、リズムギター、ベース、ドラムという5人編成が、ひとつの型になっているからだ。ヴィジュアル系に限らず、メロコアとスリーピースなど、ジャンルとバンド編成の組み合わせに傾向があることは少なくない。

 2つ目は、技術的な側面だ。楽器とボーカルを兼任すると、当然身体の動きに制限がかかる。自由に身体を動かせる専任ボーカルは、Toshlのように限界まで高音を引き出すような歌い方や、DIR EN GREYの京のようにさまざまな種類のシャウトを使い分けるようなスタイルと相性が良い。とくにシャウトは、ヴィジュアル系では多用される。ヴィジュアル系でなくても、coldrainやCrystal Lake、Azamiのようにシャウトを多用するバンドは、いずれも専任ボーカルだ。マキシマム ザ ホルモンのように、シャウト専任者がいるバンドも少なくない。それだけ身動きの自由さが求められるということだろう。

 そして3つ目は、振り付けの存在だ。近年のヴィジュアルシーンでは、アーティストが曲の振り付け動画を公開し、それをファンが覚えてライブで踊る、というライブコミュニケーション文化が定着している。その際、振り付けを先導するのがボーカルで、楽器をもつとそれができないというわけだ。今や彼らはボーカルだけでなく、振り付け担当も兼ねているといえる。また、こうした振り付けの発展形として、ダンスを披露するボーカルもいる。“VISUAL DANCE MUSIC”を掲げたVALSのKEINは、ボーカル&ダンス担当だ。POIDOLの絢瀬ナナ(Vo)は、元プロダンサーで、ライブでもダンスを披露する。いずれにせよ、総合エンターテインメントとしての側面をもつヴィジュアル系らしい理由だ。

 もちろん、楽器を弾くボーカルもヴィジュアル系初期からいる。たとえば、Plastic Treeの有村竜太朗(Vo/Gt)。彼は、The CureやRadiohead、My Bloody Valentineなど、ボーカル&ギターを擁するバンドの熱心なリスナーだ。また、有村の幽玄な歌唱方法は、身体の力を振り絞るようなものとは異なるし、彼が活動を始めた90年代は、“振り付け文化”も根付いていなかった。彼がボーカル&ギターの道を歩んでいるのは、自然なことだろう。Plastic Treeと同様の音楽的ルーツが感じられるumbrellaの唯も、ボーカル&ギターとして活動している。

 ギタリストが歌うようになった例も少なくない。Dué le quartzのギタリストだったMIYAVIは、バンド解散後のソロ活動でボーカルを取り、自らを“エンターテイナー”と称した。これは彼の「なんでもやろうとする」性格を表している(引用元:BARKS)。Develop One’s Facultiesのyuyaは、前バンド・cocklobinではギター担当だったが「自分の理想としている声の人がいなかった」(引用元:Vif)と歌うようになった。逆に、キズの来夢(Vo)は、reiki(Gt)が「僕の中ではいついなくなってもおかしくないメンバー」だからと、ギターを練習するようになったという(引用元:BARKS)。「平成」のMVで彼はアコースティックギターをかき鳴らしている。その姿は、彼らのようなメタル/ハードコア主体のバンドにおいて珍しく、新鮮に映る。

 さて、Anli PollicinoのShindy(Vo)は、バンドのボーカルにとって一番大事なことは「美学」だと語った(参照元:ウレぴあ総研)。彼らが選んだ表現手段には、それぞれの美学が反映されている。先人のスタイルを彼らなりに昇華した新たな美学は、未来のアーティストに受け継がれ、また新しい美学を生み出していくのだろう。(エド)

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