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MCUは本格的にマルチバースへ? 原作から考える『ワンダヴィジョン』予告編に散りばめられた謎

リアルサウンド

20/9/27(日) 10:00

 9月21日、あるドラマの予告編が解禁となり、アメコミ映画ファンの間で大きな話題となりました。『ワンダヴィジョン』です。本作は『アベンジャーズ』系の映画群、いわゆるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の1本です。MCUは基本劇場公開される“映画”が基本ですが、今年からDisney+(ディズニープラス)で配信される“ドラマ”もMCUを構成する重要なパーツと位置づけられました。

 というわけでもともと期待されていた『ワンダヴィジョン』ですが、様々な事情により、より多くの注目を集める作品となってしまいました。それは本作が今年リリースされる唯一のMCUであり、MCUフェイズ4のキックオフとなってしまったからです。“なってしまった”と書いたのは、もともと今年のMCU第1弾は5月1日に日米同時公開される『ブラック・ウィドウ』でした。昨年の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』でMCUのフェイズ3(MCUはフェイズとよばれる大きな区切りを設けています)が終了し、新たなステージとなるフェイズ4はこの『ブラック・ウィドウ』から始まる予定だったのです。ところがコロナ禍によりなんと公開が2021年の5月7日まで延びた。

 一方、ディズニープラスで配信されるMCUドラマの第1号は『ファルコン&ウィンター・ソルジャー(原題)』の予定でした。これもコロナ禍で撮影が中断し2020年内の配信が不可能になった。というわけで一気に『ワンダヴィジョン』が筆頭作になってしまったのです。

 そう考えると、9月21日にディズニーが本作の予告編をリリースしたというのは実にうまいタイミングでした。この日エミー賞が発表され、DC系のアメコミドラマ『ウォッチメン』が11冠に輝きました。その1週間前にはAmazon Prime Videoでいま人気のアメコミ原作ドラマ『ザ・ボーイズ』のシーズン2が配信開始。アメコミドラマがホットな話題になっている最中での予告編リリースです。さらにこの時期『ブラック・ウィドウ』の公開が来年になるらしいとの噂がながれていた時期で、ファンの間で“今年はMCUが観れない”との悲観論が広がっていた時期です。なので、なおさらMCUドラマ『ワンダヴィジョン』が今年リリースされるというのはとてもハッピーなニュースでした。(※以下、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のネタバレを含みます)

ワンダヴィジョン | 予告編 (字幕版) | Disney+ (ディズニープラス)

 さて、この『ワンダヴィジョン』ですが、予告を観る限りかなりユニークな作品に仕上がっていそうです。まず本作の“ワンダヴィジョン”とは、ワンダとヴィジョンという2人のヒーローを描いた作品です。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を観た方ならワンダとヴィジョンが恋人同士というのはもうおわかりだと思うのですが、納得いかないのは「あれ? ヴィジョンって確か死んだハズ」ですよね。

 なぜヴィジョンが生き返っているのか? 実は原作コミックにおいてワンダことスカーレット・ウィッチの能力に“現実改変能力”というのがあり、今とは違う現実を作り出す力があるのです(あらゆる確率をコントロールして、色々な可能性の世界を生み出すことができる)。そこでワンダとヴィジョンは結婚し双子の子どもをもうけています。ヴィジョンは本来アンドロイドですから、人間との間に子どもを持つことができない。けれどワンダはこの“現実改変能力”を使ってヴィジョンとの結婚生活に成功するのですね。このコミックの設定が活かされるのだとすれば、ワンダはその力を使って死んだはずのヴィジョンを生き返らせ、彼との幸せな結婚生活という“もう一つの現実”を作り出したのかもしれません。

 この予告では、ワンダとヴィジョンの結婚生活が楽しく描かれていますが、ちょっと変ですよね。いわゆる昔のアメリカのコメディドラマ(シットコム風)です。『奥様は魔女』とか『ファミリータイズ』のようです。

 そう、本作がユニークなのは、こうしたコメディドラマのテイストを盛り込んでいることです。MCU初のシットコムというよりも、ワンダが作り出した“現実”がなぜかシットコムっぽい世界だったと解釈すべきでしょう。この予告を観た時になぜ『ワンダヴィジョン』が年内リリースできたかよくわかりました。『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は野外・海外ロケが多そうですが、『ワンダヴィジョン』はシチュエーションコメディだからスタジオにセットを作れば撮影ができてしまう。コロナ禍では『ワンダヴィジョン』の方が完成しやすかったのでしょう。

 さて、この『ワンダヴィジョン』がこれからのMCUに及ぼす影響ですが、3つのことが考えられます。

 まず、この予告で注目すべきは、2人に双子の子どもが産まれていることです。原作コミックでは、この2人はウィッカンとスピードという超人です。ウィッカンとスピードは2代目ホークアイことケイト・ビショップ、ミス・アメリカという異界から来た超人少女らと共にヤング・アベンジャーズなるチームを結成します。その名が示すように、若者ヒーローで構成されたアベンジャーズですね。ケイト・ビショップはこの先MCUドラマ『ホークアイ』に登場、またミス・アメリカはこの『ワンダヴィジョン』と内容的につながると言われている、映画『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス(原題)』に登場と言われており、MCUにヤング・アベンジャーズを登場させるための布石でしょうか?

 2つ目は新組織ソードの紹介。この予告でシットコムのシーンとは明らかにトーンの異なる場面が出てきます。異次元みたいなところから黒人の女性が吹き飛ばされ仰向けに倒れているシーン。彼女はモニカ・ランボー(演じているのはセヨナ・パリス)というキャラ。このキャラは映画『キャプテン・マーベル』に登場した、あの黒人の女の子が成長した、という設定です! 彼女はシールドに続いて出来たソードという組織のエージェントと言われており、ソードがついにMCUでも描かれるわけです。

 3つ目はMCU初のマルチバースもの、ということです。マルチバースというのはアメコミに欠かせない設定で、この宇宙には可能性の数だけ様々な世界があり、それらはお互いパラレルワールドのように存在しているという考え方です。先にも書いたように『ワンダヴィジョン』は、映画『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス』につながると言われています(正確に言うと、ワンダがこの映画に登場するらしい)。『ワンダヴィジョン』はワンダが作り出した“もう一つの現実”を描き、『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス』はタイトルどおりマルチバース(多元宇宙)がテーマですから、MCUがマーベル・シネマティック・マルチバース化するためのきっかけとなる作品ともいえるわけです。

 若い世代のヒーロー、新組織ソード、マルチバースはたしかにフェイズ3までのMCUにはなかったアイデアなので、これらがそろっている『ワンダヴィジョン』というのは結果的にMCUフェイズ4のキックオフに相応しい作品だったと言えるかもしれません。

 そのほか、途中で出てくる「あたし死んだの?」とヴィジョンに聞くキャラは、恐らくコミックでワンダの師匠となる魔女アガサ・ハークネス(演じるのはドラマ『女検死医ジョーダン』などのキャスリン・ハーン)です。また、ワンダの能力で改変される部屋にかかっている絵にはボヴァという牛人間キャラが描かれています(ボヴァはワンダの乳母としてコミックには登場しました)。そしてこれは海外のファンサイトの受け売りですがよーく見ると『マイティ・ソー』『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』に出てきたジェーンのアシスタントで眼鏡姿がかわいい女性のダーシー(演じるのは カット・デニングス)の姿も写っているようです。

 さらにコミックの方ではワンダの能力が暴走して世界そのものが変わってしまう「ハウス・オブ・M」というエピソードがあるのですが、この予告に登場するワイン(宙に浮いている)のラベルがこれから「ハウス・オブ・M」事件が起こることを示唆しているとの指摘もあります。途中、ハロウィンかなんかでワンダがみるからにコスプレっぽい赤い魔女姿に、ヴィジョンがヒーロー姿になりますが、これは原作コミックのワンダとヴィジョンのコスチュームをイメージしたものです。ある種のファンサービスですかね(笑)。

 こういうマニアックな楽しみもありますが、予備知識なくてもとにかくエリザベス・オルセン演じるワンダが本当にキュートだし、もう会えないと思っていたヴィジョンに再会できることは嬉しいですね。『ワンダヴィジョン』は年内日米同時配信だそうです。コロナ禍の中、MCUがファンに贈る最高のプレゼントになりそうです。

■杉山すぴ豊(すぎやま すぴ ゆたか)
アメキャラ系ライターの肩書でアメコミ映画に関するコラム等を『スクリーン』誌、『DVD&動画配信でーた』誌、劇場パンフレット等で担当。サンディエゴ・コミコンにも毎夏参加。現地から日本のニュース・サイトへのレポートも手掛ける。東京コミコンにてスタン・リーが登壇したスパイダーマンのステージのMCもつとめた。エマ・ストーンに「あなた日本のスパイダーマンね」と言われたことが自慢。現在発売中の「アメコミ・フロント・ライン」の執筆にも参加。Twitter

■配信情報
ディズニープラスオリジナルドラマシリーズ『ワンダヴィジョン』
2020年末、ディズニープラスにて日米同時配信
監督:マット・シャックマン
脚本:ジャック・シェイファー
出演:エリザベス・オルセン、ポール・ベタニー
原題:WandaVision
(c)2020 Marvel

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