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鳥居咲子が選ぶ、2019年韓国ヒップホップ年間ベスト10 頭角を現し始めた若手ラッパーからベテラン勢まで

リアルサウンド

19/12/22(日) 8:00

1.Young B『Stranger』
2.Kid Milli『L I F E』
3.Cosmic Boy『Can I Love?』
4.Uneducated Kid『HOODSTAR』
5.legit goons『ROCKSTAR GAMES』
6.BewhY『The Movie Star』
7.Jay Park『The Road Less Traveled』
8.Paloalto『Love, Money & Dreams: The Album』
9.C Jamm『KEUNG』
10.E SENS『The Stranger(異邦人)』
※順不同

 2019年の韓国ヒップホップシーンは、かつてないほどの激しいリリースラッシュが続いた。シングルとアルバムを合わせると、毎月100にも上るタイトルがリリースされ、少し目を離したすきに話題の楽曲が目まぐるしく塗り替えられていくため、リスナーにとっても大忙しの一年だったと言える。

 今年は近年の激しい世代交代プロセスが一旦完了した印象だった。「若手に押されるベテラン勢」という図式はますます強化。特にここ2~3年で頭角を現した若手の活躍が目立った。例えば弱冠20歳のYoung B。彼は2017年に『高等ラッパー』という高校生を対象にしたラップバトル番組で優勝した実力派だ。今年2月にリリースされた1stアルバム『Stranger』では、トレンド先端のトラックからオーソドックスなヒップホップまで多様なジャンルで豊かな表現力を見せた。

 Young BのレーベルメイトであるKid Milliも、2017年頃から急激に注目を浴びるようになった新鋭のひとり。過去3年間で5枚のEPと1枚のフルアルバムをリリースしたほどの多作家だ。最新EPの『L I F E』では、彼特有の小刻みなリズム感のラップがたっぷり堪能できる。どの曲をシングルカットしても遜色ないくらい全体のクオリティが高い。

 知名度や商業的な成功という点からは少々離れるが、Cosmic Boyの『Can I Love?』は非常に完成度が高く、注目すべき作品。彼もここ1~2年で名が知られるようになった新鋭プロデューサーだ。若手のラッパーたちを多く起用した本作は、レイドバックするグルーヴ感たっぷりのサウンドと、そこに乗せられる効果的な電子音など、すべてがフレッシュに響く。

 同じく新人のUneducated Kidによるアルバム『HOODSTAR』も良作だ。彼はキャラ作りも徹底しており、例えば「教育を受けていないヤツ」という意味のラッパーネームもそのひとつ。実際は高等教育まで受けているが、アウトローに生きてきたという設定のストーリーが本アルバムにも敷き詰められている。彼はこのような遊び心あふれるスタイルで、韓国ヒップホップシーンに新たな流れを巻き起こしたと評されている。

 新鋭と呼ぶには十分すぎるキャリアを積んでいるが、Legit Goonsの新作も秀逸だ。彼らは2014年頃から注目を浴びるようになったクルーで、ヒップホップマニア層からの支持が厚い。4枚目となるアルバム『ROCKSTAR GAMES』はこれまでのゆったりとしたバイブスとは違い、ハードコアなスタイルで勝負した。安定感のあるサウンドメイキングはさすがである。

 初めて大きく注目されたのが2015年だということを考えると、すでに“大物ラッパー”のポジションにいるBewhYは稀有な存在だ。今年は韓国独立運動100周年記念の公式ソングを国からの依頼で担当するなど、アーティストとしてネクストステージに突入した感がある。アルバム『The Movie Star』は、全12曲の作詞・作曲・編曲・ミキシングまでの全工程がBewhY自身の手によるもの。ずば抜けて正確な発音とリズム感のラップで一目置かれる彼は、プロデューサーとしての才能も改めて誇示した。

Jay Park『The Road Less Traveled』

 このように今年は若手の活躍が目立ち、ベテラン勢を押すほどの良作を世に送り出した。しかし健闘したベテランももちろんいる。例えば日本でも知名度を上げてきたJay Park。今年キャリア11年目を迎えた彼は、3年ぶりのフルアルバム『The Road Less Traveled』をリリース。ワールドワイドに活躍する彼らしく、多くの国内外のアーティストを客演に迎えた。その数、実に28組。Jay Parkは数年以内に引退する意思を表明しているが、本作からはやりたいことをすべて詰め込んだ彼なりの心構えが感じられる。

Paloalto『Love, Money & Dreams: The Album』

 15年以上のキャリアを誇るPaloaltoも毎年欠かさず良作を送り届けている。ニューアルバム『Love, Money & Dreams: The Album』は、タイトルが示す通り愛とお金と夢について語った曲を集めている。ヒップホップでは、昔から歌詞の中で大金を稼ぐことを自慢することが常だが、本作でPaloaltoはもう少し深いところまで掘り下げている。愛やお金といった普遍のテーマを語る上で、社会の中に生じる格差、嫉妬、愛憎など様々な角度から訴えかけることのできる彼は真のリリシストである。

 最後に紹介したいのは、多くの韓国ヒップホップリスナーが長年待ち望んだカムバック2作品。まずはC Jammのアルバム『KEUNG』。本作は、麻薬取締法違反によってしばらく表舞台を離れていた彼が4年ぶりにリリースしたアルバムだ。アルバム名はコカインを鼻から吸引するときの音を表しているとも言われている攻めっぷり。対してトラックはかつてのタイトなラップスタイルから一変し、スムーズなシンギングラップが続く。最新トレンドを取り入れた本作で新しいファン層を多く獲得した。

 同じく4年ぶりのアルバムとなったE SENSの『The Stranger(異邦人)』は、リリース前から大きな話題を呼んだ。限定盤CDの予約イベントに前日からファンが並び、最終的な予約販売枚数が17,000枚にまで上ったのだ。非メジャーのラップ専門アルバムとしては異例の数字である。トレンドから距離を置いた抑え気味のサウンド、ストーリー性を重視したリリック、抑揚や発音の強いラップなど、自分の持ち味を最大限に発揮した。従来のスタイルを貫いたという点ではC Jammと対照的。

 ラストに紹介した2作品は本国の各種音楽アワードで受賞最有力候補と予想されており、年明けの発表が楽しみである。

RealSound_Best2019@Sakiko Torii

■鳥居咲子
韓国ヒップホップ・キュレーター。ライブ主催、記事執筆、メディア出演、楽曲リリースのコーディネートなど韓国ヒップホップにおいて多方面に活躍中。著書に『ヒップホップコリア』。
運営サイト「BLOOMINT MUSIC」/ Twitter

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