Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

本郷奏多、30代に向けて見せる新たな魅力 突出した存在感と“普通の男”としての味わい

リアルサウンド

20/8/1(土) 6:00

 高橋一生、田中圭、中村倫也、賀来賢人、千葉雄大などなど……。これまで数多のドラマ・映画などに脇で出演し、知名度もあった実力派俳優が、アラサーになってから突然、お茶の間的ブレイクを果たすという流れが近年、できてきている。

 そうした流れの中、この夏、急速に露出を高めている気になる俳優が、本郷奏多だ。

【写真】『大江戸もののけ物語』ポスター

 7月11日には中条あやみとの時空を超えたタイムトラベル・ラブストーリー『56年目の失恋』(NHKBSプレミアム)が放送された。また、7月17日からは、妖怪「天邪鬼」役で岡田健史とバディを組む『大江戸もののけ物語』(NHK BSプレミアム)に出演している。さらに、放送再開が待たれる大河ドラマ『麒麟がくる』には、自身初出演で、重要な役どころで登場する。いずれもNHKで、作風も役柄も大きく異なるものだ。

 そもそも本郷奏多というと、幼少期のキッズモデル時代から、2002年の俳優デビューを経て、29歳の現在に至るまで人生のほとんどの時期で仕事をしてきたベテラン俳優だ。華奢な身体、彫刻のような顔立ち、血管が浮き立つような薄く白い肌は、岩井俊二が企画プロデュース・脚本を手掛けた連続SFドラマ『なぞの転校生』(テレビ東京系)のアンドロイド役を筆頭として、“人間じゃないモノ”にも違和感なくハマる。

 今回、『大江戸もののけ物語』で「天邪鬼」を演じることになった思いについても、自身がインタビューで「人間じゃない役をやることも多いので」と語っているように、異次元・異空間の「異物」はお手の物だ。

 また、人気漫画やアニメの実写化に際して、様々な役に原作ファンからネット上で「指名」されることも多い彼。これまで演じてきた実写キャラは、映画『キングダム』で反乱を起こす成キョウや、ギャンブル狂の天才少年『アカギ』(BSスカパー!)、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』のアルミン、『GANTS』の屈折した冷血漢・西丈一郎、『実写映画 テニスの王子様』の越前リョーマなど数多く、作品自体の評価が芳しくないときですら、「本郷奏多はイメージ通り」と言われてきた。

 とはいえ、『弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~』(日本テレビ系)において、並み居る若手イケメン俳優たちの中で、「吹奏楽部で指揮者になりたかった野望を抱きつつ、貧乏で新聞配達をしながら一人暮らしをする一塁手」として異彩を放ち、視聴者たちの関心を一身に集めてしまったときのように、ともすれば主演や他の役者たちを食ってしまう存在感がある。

 顔にも身体、頭脳にも、そこから繰り出す言葉や所作にも、「贅肉」的なものがまるでない。番宣などで登場するバラエティ番組や映画などの舞台挨拶でも、必ずウィットに富んだ笑いを盛り込んでくるサービス精神ゆえに、「月並み」がなく、いつでもエッジが効いている。ガチのガンダムファンであることや、著名人が出場する『麻雀最強戦』(AbemaTV)で優勝経験があることなども含め、徹底して研ぎ澄まされた雰囲気は、漫画・アニメファンやサブカル好き、オタク的素養のある人、若い世代などの間で絶大な信頼を得ている一方で、“モブ”にはどうしてもなれない。というか、彼が演じると、モブがモブでなくなる危険性もあるのではないかと思っていた。

 そんな中、珍しく挑んだ「恋愛モノ」である『56年目の失恋』は、これまた珍しく「普通の青年」役だった。ただし、ヒロイン・中条あやみがタイムスリップして出会い、恋に落ちるコック役のため、厳密に言うと「昔の普通の青年」である。どちらかというと未来から来ていそうな本郷奏多が昭和の料理人というのは不思議な気もしたが、古風で硬派で落ち着いた佇まいは、意外なほどに「昭和の男」だった。

 私たちは普段忘れがちで、昔の映画やドラマ、歌番組を観るたびに新鮮な思いになるのは、食が欧米化する前の「昭和の男」たちは総じて腰が非常に細かったこと。「お菓子が主食」と豪語するご本人の偏食ぶりが生きているのか、こんなにも「昭和の男」がしっくりくる若手俳優はいないのではないかとすら思える。まるでNHKお得意の資料映像を観るように、「生きた昭和の男」が、『56年目の失恋』にいた。

 思えば、同じくNHKで2015年に放送された、さだまさし原作の名作ドラマ『ちゃんぽん食べたか』には、本郷奏多をはじめ、菅田将暉、泉澤祐希と、見事に「昭和感」を出せる、腰の細い演技派の男たちが揃っていた(メインキャストでは、間宮祥太朗だけその路線から外れているが)。余談だが、朝ドラ『エール』の窪田正孝も、見事に腰が細い。「昭和モノ=腰の細さ」は重要なポイントなのかもしれない。

 そして、『大江戸もののけ物語』のほうは、岡田健史との関係性や、天邪鬼自身が背負っている枷などが明らかになっていない段階ではある。出番そのものも多くなく、また、みんなの輪に入らず、反対のことを言う「天邪鬼」としての性質もあって、セリフ自体も多くない。にもかかわらず、一言喋るだけで、その穏やかで、深く柔らかく、広がりのある声に、ハッとさせられる。

 実写映画版でも演じたアニメ『いぬやしき』の声優仕事――いじめられっ子で引きこもりの「チョッコー」役では、クレジットを見るまで気づかなかったほどの巧さを見せてくれたが、何しろ声も滑舌もよく、眼福ならぬ「耳福」の魅力がある。

 さらに、『麒麟がくる』で演じるのは、政治に積極的に関与した異端の若き関白・近衛前久役である。起用理由について、制作統括の落合将チーフプロデューサーは「以前から気になっていた個性派俳優で、高貴な雰囲気も出せる方」と語っていたのが、実に印象深い。

 突出した存在感から「異端」や「天才」「公家」「人間ではない何か」などがよく似合う一方で、意外に「普通の男」としての味わいも見せ始めた本郷奏多。30代に向けて見せる新たな魅力に注目したい。

(田幸和歌子)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む