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『エール』窪田正孝が怯え、震える声で体現 正気を失った裕一の姿が訴える“戦地のリアル”

リアルサウンド

20/10/17(土) 6:00

 戦争の過酷さを目の当たりにし、心身ともにショックを受けている裕一(窪田正孝)。最愛の恩師、藤堂先生(森山直太朗)との別れを経験し、音楽への向き合い方にも変化が感じられた。『エール』(NHK総合)第18週「戦場の歌」では、裕一の今後の人生に大きな影響を与えるであろう出来事が立て続けに起きた。

 音楽を諦めそうになったり、なかなか売れる曲が書けないなどの苦悩を抱えたこともあった裕一。しかし、自分の信じた道を全うし、愛する家族との満ち足りた生活を送ってきた。窪田はそんな裕一を朗らかで優しく、才能に愛された人物として演じてきた。

 だが、第18週では戦争の悲痛さ、裕一が“知らなかった”現実、大切な人を目の前で失うことの衝撃などが痛烈に描かれる。「音楽」だけを突き詰めてきた裕一が改めて見た戦地の実情は、東京に帰ってからも簡単に胸から離れるものではなかった。

 窪田はショックを受ける裕一の姿をかつてないほどの生々しさで演じた。銃弾に怯える叫び、震える声、「何も知りませんでした」「ごめんなさい」と繰り返すうわ言のような言葉は、正気を失い、恐怖に支配された人間の姿であった。窪田の表現するそれは、涙や声の大きさだけの一辺倒なものではなく、戦地の「惨状」が恐怖として瞳に焼き付いてしまった者の苦しみを浮き彫りにしていた。

 これまで明るく朗らかな主役として『エール』をリードしてきた窪田だが、こちらまでもが恐怖に震えるほどのリアルな姿を見せ圧倒する。銃や手りゅう弾に倒れる兵士を映すだけでなく、その一部始終を見てしまった窪田の痛々しいまでの姿を映し出すことにより、作品はより深く視聴者に届いたことだろう。

 音楽に助けられてきた裕一は、歌の力で兵隊を勇気付けることこそが自分の役目だと信じたからこそ戦時歌謡を作り続け、戦地で“無駄に死んでいく命”はないと盲信していた。しかし鉄男(中村蒼)は「歌が戦うための道具になるのは嫌だ」と言い、五郎は「戦争に協力するような歌を作ってほしくない」と訴える。そしてついに、裕一は「一度は戦場をこの目で見たい」と慰問に行き、現実を目の当たりにするのであった。

 このショックは裕一から意志や活気を奪っていく。そんな裕一の姿をしっかりと描くべく、今週の『エール』の中には、主題歌「星影のエール」の明るいメロディと裕一と音の笑顔が魅力のオープニングを割愛し、戦争の重々しい空気を重視して届けるなど工夫が見られた。朝から観るには正直、心苦しいシーンも多々あったように感じる。しかし、裕一が作曲家として音楽と向き合う上で、この演出が生きてくることは戦争から帰った裕一の姿や、音(二階堂ふみ)、鉄男らとの関わりからも強く感じられた。

 本格的にコロナ自粛明けに撮影された回のみで編成された週でもある「戦場の歌」。今、我々もコロナウイルスがなかなか収束しないという難しい現実を生きている。そんな中で、苦しみを乗り越えようともがく裕一の姿には、ある種の共感をも覚える。裕一が紡ぐ音色が戻る日が待ち遠しい。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、森七菜、岡部大、薬師丸ひろ子ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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