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杉咲花演じる千代が見つけた“帰る場所” 『おちょやん』希望に満ち溢れた道頓堀編の千秋楽

リアルサウンド

20/12/25(金) 12:30

 ちょっと涙がこぼれて、最後にはみんなで笑える。そんな喜劇のような一週間だと思った。

 2020年の本編ラスト放送となる、NHK連続テレビ小説『おちょやん』第4週。千代(杉咲花)は、父・テルヲ(トータス松本)がこしらえた借金のせいで芝居茶屋「岡安」の人たちに迷惑をかけないように道頓堀を去る決意をした。

 ちょうど道頓堀にやってきた天海天海一座の千秋楽公演にひょんなことから出演し、良い思い出ができたと強がる千代。年季明けのお祝いには、岡田家の一員としてご寮人のシズ(篠原涼子)たちと共に食卓を囲むことを望む。幼い頃に母を亡くし、挙句にはテルヲと義理の母に家を追われた千代にとって、“帰る場所”をくれた彼らと家族のようなひと時を過ごせることが何よりの幸せなのだろう。しかし、岡安の女将として店と客のみならず、女中たちを守ってきたシズが黙って千代を送り出すはずがない。強かなシズは裏で手を回し、密かに千代を借金取りから逃す計画を立てていた。

 みんなに言われるがまま、岡安を後にした千代は女中頭のかめ(楠見薫)やお茶子の仲間としっかり別れを告げることもできない。ただ、千代を連れ出したみつえ(東野絢香)とは最後に“友達”として抱き合い、離れることができた。普段は嫌味を言いながらも、身一つで千代を守ろうとするみつえや、偏見なく接してくれた千代に恩を返そうと借金取りに飛びかかる乞食のおっちゃんたちの姿に胸が締め付けられる。千代が9歳の頃にたった一人で道頓堀に来た時はあんなに孤独を感じていたのに、今ではすっかり町の人気者になっていたのだ。

 千代が逃亡の舟着き場に到着すると、そこには先回りしていたシズが待っていた。

「これからは自分のために生きますのや。生きてええのや。あんた、わてに恩返ししたい言うてくれたな。せやったらあんたが幸せになり。それがわての望みや」

 自分が去った後の心配をする千代にシズはそう告げる。いつでも帰ってきていいと千代を労うシズの顔はまるで、本当の母親のように優しい。借金取りは千代とテルヲが“血の繋がった親子”だから、子である千代が父親を助けるのは当然だと言った。でも、家族になる上で血の繋がりは関係ない。どんなにぶつかり合っても互いを思い遣る心があれば、千代とシズ、そして岡安の人たちのように強い絆で家族になることはできるのだ。乞食の小次郎(蟷螂襲)が漕ぐ舟に乗り、道頓堀を出発した千代を影から見守るテルヲも、もう後の祭りだがようやくそれが理解できたように見える。だからこそ、借金取りに千代の居場所を教えなかったのだろう。

 そして、無事に千代を見送ったシズは岡安に帰り、借金取りに元金から利子分を引いた200円を渡す。200円といっても、大正時代の1円は今より約4000倍の価値がある。それだけのお金を、シズは道頓堀を守りたいと願う町中の人から集めていた。その中には、ライバル店「福富」の女将・菊(いしのようこ)も。道頓堀に溢れる義理と人情が千代を救ったのだ。

 借金取りを強い口調で追い払った後、「ここは芝居の街だっせ」と言いながら力の抜けたシズの姿に悲しいんだか、嬉しいだか、よくわからない顔でみんなが一斉に笑い出す。

「笑かすだけが喜劇と違う」

 一平(成田凌)が千代の芝居に教えてもらったというその言葉は、まるで今週の『おちょやん』を表しているようだった。できれば、悲しいことは起きない方がいい。でも心がポキっと折れるような出来事があるからこそ、幸せがより引き立つ。あの時の自分がいたから、今があるんだと笑えたらそれで結構。我慢ばかり強いられて、会いたい人に会えなかった2020年ももう終わる。まだまだ出口は見えないけれど、来年こそあの一年は何だったんだろうねとみんなで笑えたらいいな。そんな希望に満ち溢れた道頓堀編の千秋楽だった。

 『おちょやん』は2021年1月4日から、また新たに始まる。第5週「女優になります」から、京都編がスタート。どんなときも「明日もきっと晴れやな」と思える千代はまた、個性豊かな仲間たちと“喜劇”を繰り広げてくれるだろう。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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