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草なぎ剛「本当にいい作品にめぐりあえた」 内田英治監督と語り合う『ミッドナイトスワン』の挑戦

リアルサウンド

20/9/28(月) 8:00

 草なぎ剛主演映画『ミッドナイトスワン』が9月25日より公開されている。『下衆の愛』『全裸監督』の内田英治監督がオリジナル脚本で手がけた本作は、トランスジェンダーの凪沙と、親からネグレクトを受けてきた少女・一果の出会いと変化を描いたラブストーリーだ。

 本作で初タッグとなった主演の草なぎと内田監督。その意外なタッグが実現した背景から、現場でのやり取り、完成した映画への思いまで、2人に語ってもらった。

草なぎ「いい脚本って、余計なことをやらないほうがいい」

ーー草なぎさんはご自身のYouTubeチャンネルで、この作品について「代表作になるんじゃないかな」と語っていましたよね。

草なぎ剛(以下、草なぎ):観ていただいてありがとうございます! チャンネル登録もよろしくお願いします(笑)。そうですね、自分の作品は、いつもそのときにやったものが集大成であり代表作であると思っているんですけど、今回は特にその気持ちが強かった。内田(英治)監督が書いてくれた脚本を読んだときに、涙が溢れてきたんです。「この作品をやりたい」という気持ちが強かったですし、自分にとっても本当に大きな挑戦で。それをうまく形にすることができたと思います。完成した映画を観て、最後のエンドロールで一番最初に自分の名前が出てくるわけです。それを見て、「いやぁ、やったんだな、俺」みたいな感じで、温かな余韻がこみ上げてきて、しばらく席を立つことができませんでしたね。

ーーそもそも今回の草なぎさんと内田監督のタッグはどのように実現したんですか?

内田英治(以下、内田):『全裸監督』のときのカメラマンが山本英夫さんで、彼は草なぎさんが主演を務めていた『任侠ヘルパー』(フジテレビ系)の撮影もやっていたんです。いつもロケバスで僕の後ろに山本さんが座っていて、あるとき話していたら、後ろから「つよぽん(草なぎ)の目の芝居はすごいよ」という話をしてきて。僕はカメラマンの山本英夫に全面的な信頼を寄せていたので、彼が言うなら本当にいい役者さんなんだと思ったのがスタート地点でした。僕は普段あまりテレビを観なくて草なぎさんのドラマも観たことがなかったので、その言葉が大きかったですね。

草なぎ:山本英夫さんにお中元でも贈らないとね(笑)。

内田:(笑)。この前一緒にロケハンしたんですけど、「よろしく」って言ってました(笑)。なんか、草なぎさんのことを「(カメラで)寄りたくなるんだよね」って言っていたんですけど、今回の『ミッドナイトスワン』のカメラマンの伊藤麻樹も、「ググーって寄りたくなる」って再三言ってましたね。

草なぎ:うれしい限りでございます。皆さんにお中元を贈らないと(笑)。

内田:僕が代わりに贈っときますよ(笑)。

ーーそれこそこれまではテレビドラマやメジャー映画で活躍されてきた草なぎさんと、インディーズ映画を中心に撮られてきた内田監督がタッグを組むと聞いたときはすごく意外な組み合わせで驚きました。

内田:僕もまさかそこに着地するとは思っていなかったんです。本当にインディーズ映画ばかりやってきていたので、一番思いも寄らなかったところに着地して。でもそれがめちゃくちゃおもしろいなと思いました。

草なぎ:今まで一緒にやってきた監督さんも、みなさんそれぞれやり方があって、皆さんそれぞれ違うんですけど、内田監督は撮影のときにテストをしないんです。それがある意味驚きだったんですけど、僕はすごく好きでした。僕もわりかし、テストしないほうがいいのになと思っているタイプなんです。でも作り込んでやる方もいるし、そういうやり方のときは、もちろんそのやり方で最高のものを出せるように頑張らないといけないわけですが、今回の役は本当に難しくて。あまり考えてもできるような役じゃなかったので、このやり方が本当に最高だなと思いました。もしテストをしていたら、ちょっと考えすぎて違う凪沙になっちゃったかもしれません。僕はすごいやりやすかったですし、よかったですね。

ーー内田監督は、草なぎさんが予想とは違う動きをすることに驚いたそうですね。

内田:そうなんですよ。自分が考えていたのとは全然違う、予想していなかった動きをするので驚きました。

草なぎ:台本が僕の中でグッときたので、もう余計なことをせずに、一果が愛おしく思えればと思っていたので。なんか、いい脚本ってそうで、余計なことやらないほうがいいと思うんです。だから自分の中ではどう動こうとかは特に考えていなくて、その状況やセリフに対して自分の中で反応して動いたという感じなんですよね。それが監督にとったら、結構意外だったのかもしれない。自分の心の中の動きと、傍から見ている人の捉え方が完全に一致することは絶対ないので、そういうのもいいなと思って。だから、僕も一果役の(服部)樹咲ちゃんの演技にすごくびっくりして。彼女は演技をやったことがなかったんだけど、監督は一果に対して結構厳しくて。

内田:(笑)。

草なぎ:「さっきのカメラが回ってないときの顔がいい」とか言っていて。「いや、それが一番難しいんだよ! 俺でもできないよ!」ってことを樹咲ちゃんに言っていました(笑)。だから、樹咲ちゃんちょっとかわいそうだなと思っていました。僕はあんなこと言われたらできないなと。でも樹咲ちゃんは、そういうことを言われて緊張はしてるんだけど、それでもやっぱり食らいついて、そういうことも含めて彼女なりに役に投影して、すごい吸収力で演じていました。だから僕はその驚いたところをそのまま撮ってもらっただけというか。「すげぇな! やべぇなこいつ!」みたいな感じで(笑)。それが彼女自身のものなのか、一果としてのものなのか分からないですけど、彼女の中にあるふつふつしたものを毎回感じていたから、僕は凪沙ができたと思うんです。

内田「“日本映画”と思って作ってはいない」

ーー草なぎさんはこれまでも子役との共演が多かったですよね。一緒にやっていて何か感じることはありますか?

草なぎ:みんな純粋というか、演技をしていないことが一番素晴らしいことのような気がします。一果もそうでしたけど、やっぱり子役の子に対して、大人が変にテクニカルなことを求めてもしょうがないんじゃないかなって。だから僕も樹咲ちゃんにゼロに戻してもらったというか。それってすごいことですよね。だって、演技を知らなくて、初めて演技をしているわけで、ただ自分の中から出てくるもので動いている。その素晴らしいところを、内田監督がまた絶妙に切り取るんですよ。一果と凪沙の関係もすごく好きですし、一果とりん(上野鈴華)、2人の少女の関係にもドキッとさせられる。本当にいい作品にめぐりあえたなと思います。

ーートランスジェンダーが主人公の映画ということで、制作にあたっては難しさもあったのではないでしょうか?

内田:この映画が生まれた背景として、もともと書いていたけどなかなかうまくいかなかった、バレリーナの話とトランスジェンダーの話、その2つの脚本をミックスしたというのがあるんです。バレリーナの話をミックスしたのには、トランスジェンダーの映画として、あまり社会的な重い映画だと捉えられたくないという思いもあって。なので、めちゃくちゃ気を遣っているというわけではないのですが、やっぱり間違った描写はとても問題だと思うので、30人くらいのトランスジェンダーの方に取材して、実際に話を聞きました。一言で“トランスジェンダー”と言っても、みなさん違って、それぞれの生き方があるんです。凪沙のようなお店で働くダンサーもいれば、政治家もいるし、普通に働いている人もいる。なので、あまり偏った視点にならないように、リアルな話を書くことは意識しました。

草なぎ:僕も事前に監督から資料をいただいたり、実際にトランスジェンダーの方と話をする機会を設けていただいたりしました。その中で掴めたこともたくさんありましたね。でも、トランスジェンダーの方だからと言って何か特別なことがあるわけもないので、それこそ監督がおっしゃるように、いろんな方がいていいんだなと思いました。そう考えることによって、仕草を何かどうこうするみたいにしなくていいなと思えてきたんです。むしろ僕自身に近い印象も受けたので、だったら本当に余計なことはせず、なるべく僕自身のままでいる感覚でやろうと思いました。

ーー内田監督の作品はこれまでも海外で評価をされたり、それこそ『全裸監督』などは海外を意識されていることを公言されていましたが(参考:『全裸監督』内田英治監督は“海外”を意識 配信プラットフォームに見るローカル言語ドラマの力)、今回の『ミッドナイトスワン』もそういう意識はありましたか?

内田:むしろ“日本映画”と思って作ってはいないんです。それは毎回そうなんですが、自分の作品は日本映画だとは1ミリも思わずに、むしろ僕としては、韓国映画や台湾映画に近い感じで現場に臨んでいます。あえて役者の方々にそういうことを言ったりはしませんが、他のスタッフたちはいつもやってくれている方たちなので、その辺りの意識は共有されていると思います。だから今回の現場でも、草なぎさんをいわゆる日本の中でのパブリックイメージとしての“草なぎ剛”としては見ずに、もっとワールドワイドな、世界の“草なぎ剛”として見ていました。

ーー草なぎさんは内田監督のそういう意識や視点を感じていましたか?

草なぎ:それは感じましたね。もちろん監督からそういう説明はないんですけど、やっぱり日本人離れというか、日本で撮ってはいるものの、アジアのどこか行ったことのないような空気感を感じました。セットとかからもそういう空気が出ているのか、不思議な感覚があったんですよね。だから、その中でやるとより役にも入っていけるし、物語も深く進行していく感じがありました。トランスジェンダーという題材自体も、海外と比べると日本ではまだまだ遅れてるよねという話もしていたので、それがこうやってちゃんと映画として世に出せることも素敵だなと。いろんな国の人が観ても、何か感じとってくれる部分がある作品になっていると思います。

■公開情報
『ミッドナイトスワン』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
出演:草なぎ剛、服部樹咲(新人)、田中俊介、吉村界人、真田怜臣、上野鈴華、佐藤江梨、平山祐介、根岸季衣、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖
監督・脚本:内田英治
配給:キノフィルムズ
(c)2020 MidnightSwan Film Partners
公式サイト:midnightswan-movie.com

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