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『グランメゾン東京』は大人の群像劇? 木村拓哉が見せる、ヒーローとは異なる主人公像

リアルサウンド

19/10/21(月) 6:10

 厨房をせわしなく行き来する男たち。凱旋門を進む高級車の列。『グランメゾン東京』(TBS系)第1話はパリの風景からはじまる。

参考:木村拓哉は王道の「日曜劇場」をどう料理する? 『グランメゾン東京』に漂う“本物感”

 三つ星レストランで働くためパリを訪れた早見倫子(鈴木京香)の前に現れた尾花夏樹(木村拓哉)。首脳会談に提供する料理にアレルギー食材を使ったことで料理人の世界から追われ、「借金や女がらみでトラブルばかり持ち込んでくる」存在に成り果てていた尾花。倫子の「私には星を獲るほどの才能がない」という言葉を聞いた尾花は、「オレが必ずあんたに星を獲らせてやるよ」と宣言する。

 かつてパリの二つ星レストラン「エスコフィユ」で絶大な人気を博し、日本人として三つ星にもっとも近づいた男と、料理のレシピを一口で見抜く舌を持つ女。世界一のグランメゾンを目指す挑戦は、しかしスタートから壁にぶつかる。

 俳優・木村拓哉にとって『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)以来となる日曜劇場で演じるのは、零落の天才シェフ。放送前には“職業ものの新しいチャレンジ”として話題になり、バラエティ『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)で見せた調理風景を引き合いに出す声もあった。『グランメゾン東京』でも、木村が赤柄の特製ナイフを用いて、手長海老のエチュレやクスクスのまかないをつくるなど、料理人顔負けの調理シーンを見ることができる。

 ただ、少なくとも第1話を見る限りでは、『グランメゾン東京』をシンプルに職業もの、あるいは料理ドラマと判断するのは早計だと感じた。恵まれた才能を持つ主人公が、かつての仲間たちの元に戻ってくるというモチーフは前述の『A LIFE~愛しき人~』にもあったが、決定的に違うのは倫子の存在だ。三つ星レストランをつくることは倫子の夢であり、尾花は手を貸すだけ。実際に、新店「グランメゾン東京」の料理長は倫子なのである。また、尾花のミスによって大変な目に遭ったと思っているかつての仲間たちは、尾花に対して軽蔑の眼差しを向けることはあっても、尾花の誘いを取り合おうとせず無関心を決め込む。

 ここで物語の前面に出てくるのがまたもや倫子であり、京野陸太郎(沢村一樹)を引き抜くために丹後学(尾上菊之助)の店「gaku」に単身乗り込み、本人を説得する姿は、どっちが主人公かわからないくらいである。では、尾花は何なのかというと、登場人物の誰もが、話題にするとしないとに関わらず尾花を意識し、尾花の存在をめぐってストーリーが進行する。『グランメゾン東京』の物理的な舞台は三つ星レストランであるが、台風の目とも言うべき嵐の中心にいるのが尾花という存在なのである。

 「尾花夏樹は料理のためならなんだってする」とかつての同僚・相沢瓶人(及川光博)が評するように、尾花は料理によって語る。劇中で登場する料理も木村自身が調理し、三つ星レストラン「カンテサンス」の岸田周三シェフが料理監修を手掛けているが、食材の新鮮な色彩や盛り付けがダイレクトに味覚を刺激する。それだけでなく、尾花の料理は心を揺さぶり、隠れていた本当の感情をあらわにする。自身がつくれなかったエチュレを食べた倫子は思わず涙を流し、思い出の味を口にした京野は尾花に本音をぶつけるのだ。

 一見すると傍若無人でありながら、時に少年のような屈託のない表情をのぞかせる姿に往時の木村を見た思いになったのは、筆者だけではないはずだ。憎しみを一身に背負いながら、あえてヒールの立場で倫子の夢の実現に尽くす姿には、そこはかとないピュアさが漂っている。

 最高級のフランス料理店で、通常のレストランより格式が高いのが「グランメゾン」。尾花と仲間たちによる文字どおりゼロからの挑戦が幕を開けた。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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