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back numberのMVは、なぜ驚異の再生回数を記録? 思い出を追体験できる映像の魅力

リアルサウンド

20/8/16(日) 12:00

 7月29日、back numberがオフィシャルYouTubeチャンネルを開設。デビューシングル『はなびら』から16thシングル『ハッピーエンド』までの表題曲や、CDの特典収録のみだったアルバム収録曲「エンディング」などのMVフルバージョンが公開された。back numberはこれまでも所属レコード会社ユニバーサルミュージックの公式チャンネルでヒット曲のMV short ver.を公開しており、「クリスマスソング」のMVは昨年のクリスマス目前で再生回数1億回突破したことは大きな話題に。そしてフルバージョンが公開された19曲のMV合計再生数は約5000万回にものぼる(8月13日時点)。失恋ソングから幸せな男女の甘いミディアムバラード、自分を奮い立たせるロックチューンまで、どれを取っても共感せずにはいられない歌詞や、哀愁と清涼感が両立したメロディはもちろん、back numberの魅力を語る上でMVは欠かせない要素となっている。

back number – クリスマスソング (full)

 そもそも、アーティストのMVがこれほど注目されるようになったのはごく最近のこと。以前はPV(プロモーションビデオ)と呼ばれ、あくまでも新曲を宣伝する目的で制作されていた映像が、いつしか楽曲の世界観をより強固にするための「作品」に進化していた。人気アーティストとタッグを組むMV監督の名前は頻繁に取り上げられ、時にはクリエイティブディレクターやイラストレーターが制作に携わることも。MVにはアーティスト自身の個性も反映されており、例えば、あいみょんは新曲をリリースする度にMVとveryshort movieと名付ける1分程度の映像を制作。どちらも世界観は共通しているが、先行して公開されるvery short movieの方は主にクリエイターのとんだ林蘭がディレクションを担当し、配色豊かなアート作品に仕上がっている。他にも自身がインド人や魔法使いに扮する平井堅の個性的な作品など、どれもこだわり抜かれたものばかり。一方、back numberのMVは多くの作品が一人の女性に焦点をあて、淡々とした日常を捉えているのが特徴だ。フィルムカメラで 撮影したようなフィルター越しに、楽曲をイメージした物語が展開される。2012年にリリースされた6thシングル「わたがし」には、女優の山本美月が出演 。彼女が扮する水色にはなびらの浴衣に身を包み、 花火大会ではしゃぐ女性の姿をカメラが追いかける。バックでは好きな子をようやくお祭りに誘えた男性の想いが溢れる歌が流れ、まるで自分自身が彼女を追いかけているような気分に浸れるのだ。

back number – わたがし (full)

 台湾で撮影を敢行した「高嶺の花子さん」も同様に、視聴者目線でカメラは動く。疾走感のあるメロディに合わせて台湾の混沌とした町並みを走り回る女性は、まさに“高嶺の花”。 〈会いたいんだ 今すぐその角から/飛び出してきてくれないか〉という特徴的なサビでは、実際に女性が街角から姿を現し、楽曲の世界観を忠実に表現している。同曲を手がけた島田大介は、映画『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の主題歌に起用された「ハッピーエンド」のMV監督も務めた。「ハッピーエンド」のMVは、楽曲の主人公目線で描かれた「わたがし」「高嶺の花子さん」の映像とは異なり、主人公そのものが映し出されている。恋人の心変わりに気づき、自らも別れを受け入れ相手への思いを断ち切ろうとする女性の切ない気持ちを歌った同曲。女性目線の楽曲だからこそ、過去の作品の流れから男性が登場するものだと思ってしまうが、MVに出演しているのは女優の唐田えりかだ。主人公の視点から 描くところを、あえて気持ちが変化してゆく恋人の目線から主人公を映すことで、唐田演じる女性の溢れる感情が伝わってくる。ひたすらカメラに笑顔 を向ける彼女は幸せだった過去の姿なのか、それとも私をずっと覚えていてと願うが故に見せる偽りの姿なのか。映像を見ながら主人公の気持ちを想像させる演出も見事だ。

back number – ハッピーエンド (full)

 そして、前述の通り再生回数1億回を記録する「クリスマスソング」に至っては、時折女性のシルエットが映るだけ。主人公不在のまま、寒空の下で演奏するback numberの姿が撮影されている。それもそのはず、「クリスマスソング」は恋人たちが寄り添い合うクリスマスに、一人きりで大切な誰かを想う楽曲だからだ。想いを寄せる相手がクリスマスに誰と、何をして  過ごしているのかもわからない。主人公も相手も映らず、ただ人恋しさが身に沁みるクリスマスの雰囲気が漂う映像だからこそ、聴く人の心にそっと寄り添ってくれる。

 back numberのMVはどの作品もドラマチックで、楽曲との親和性がある。浴衣を着て好きな人と花火大会に行った日の出来事、到底想いが叶わない相手に恋した日々、誰かと出会い、別れた日のこと、苦しいほど誰かを愛おしく思ったクリスマス――彼らの曲と共にMVを見ると、“back number(型遅れ)”になった数々の思い出を追体験できる。“曲を聴く”目的だけではなく、幅広い年齢層のファンが青春時代の思い出を反芻しているからこそ、back numberのMVは圧倒的再生回数を誇っているのではないだろうか。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter:@bonoborico

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