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LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!

日本で暮らす外国人のリアルを知ってもらうには最高の教科書!『COME & GO カム・アンド・ゴー』

月2回連載

第78回

監督の描く“外から冷静に見た日本の下町”は、まさに私自身がこれまで見てきた日本

年の瀬が近づいてきて、クリスマス~正月大作が公開ラッシュとなっています。下ネタ炸裂の『土竜の唄 FINAL』やリーアム・ニーソン大暴れの『アイス・ロード』など、めちゃくちゃおもしろい大作は観てもらいたい……んですが! そんなときこそ埋もれてはいけない作品を積極的に応援しちゃいます。ということで、今回も2作品紹介します。

まずは、現在公開中の『COME & GO カム・アンド・ゴー』。大阪で暮らす外国人のリアルを描いた人間ドラマです。

大阪のキタこと梅田で古い町並みの風情を残す中崎町。そこにあるアパートで白骨化した老婦人の遺体が発見され、さまざまな噂が飛び交います。

『COME & GO カム・アンド・ゴー』

このエリアは、アジアの観光客の人気スポットであると同時に、ネパールやマレーシア、ミャンマーやベトナムから来た外国人も多く暮らしており、地元の日本人住民との間に温かな交流もあれば、ちょっとしたトラブルも日常茶飯事。大都会の陰の場所となるそこで、外国からやってきた人々が抱える苦悩を俯瞰して描いた作品です。

スウェーデンから日本にやってきて暮らしている私がこの作品を観ると、もうアルアル話ばかり。これが日本で生きる外国人のリアルです、と言いきれます。以前紹介した『もったいないキッチン』でもそうでしたが、外国人監督が日本をとらえることで、フラットな視点で日本人を描き出すことに成功している作品。

『COME & GO カム・アンド・ゴー』

実際に大阪を拠点にして活躍しているマレーシア人のリム・カーワイ監督だからこそ切り取ることができた“外から冷静に見た日本の下町”は、まさに私自身がこれまで見てきた日本です。

日本にきた外国人たちは、“外国人”と見られたり扱われることは望んでいませんし、いち市民として一緒に暮らしたいと願っているわけですが、現実はそう簡単にはいきません。日本人相手にはありえないようなひどい扱いを受けることもしばしば。それでも日本にいるのは、日本での普通の暮らしを求めているから。

特に、スーパー務めのミミには共感しました。上司からセクハラを受けて、人に言えない悩みを抱えてつらいのに、母親とフェイス・トゥ・フェイスでチャットするときはものすごい笑顔なんですよ。

『COME & GO カム・アンド・ゴー』

私にもこういう経験ありますよ……実際にはそんな元気がなかったとしてもね。こういう思いをしている日本在住の外国人はたくさんいます。差別心がないという人も、無意識に人を傷つける可能性があるんです。

だからこそ、日本で生まれ育った人には、こうした悩みを抱える人の現実を観てもらいたい。そのためには、この作品は最高の教科書。リアルな気づきを与えてくれる作品です。

『COME & GO カム・アンド・ゴー』

ラストに向けて明るい涙に浸ることができます!

もうひと作品は『ファイター、北からの挑戦者』。韓国を舞台にしていますが、これも“よそから来た人”の苦悩を描いた作品です。

韓国・ソウルで暮らし始めたジナ。彼女は北朝鮮からブローカーを通じて脱北し、韓国で脱北者支援組織の助けを得た女性です。自立した生活を確立し、中国に残してきた父親を呼び寄せるためにお金を稼がなければならず、食堂でのパートのほか、ボクシングジムの清掃業務も始めます。

『ファイター、北からの挑戦者』

ジムのオーナーとトレーナーのテスは、ジナに対してとても親切に接してくれますが、ジムに通っている女性たちは彼女に冷たく、さらに支援組織の担当者からのセクハラにもあってしまいます。

おまけに脱北ブローカーには大金を求められ、ソウルの生活の現実に悲嘆するジナ。そんなときに、テスとジムのオーナーから驚きの提案を受けます。それは彼女に秘められたボクシングのセンスを磨き、ボクサーとしてやっていかないか、という誘い。一度は断ったジナですが、次第にボクシングの魅力にのめりこんでいきます。

『ファイター、北からの挑戦者』

脱北ブローカーのドキュメンタリー『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』のユン・ジェホ監督による長編フィクションです。

私も脚を怪我する前はプロレスをしていたのでアスリートのファイティングスピリットを持っている、と思っていますが、ジナのそれはまったく違いました。

『ファイター、北からの挑戦者』

脱北者だからと差別を受ける生活や身の上の不遇や孤独に対して、怒りの感情が溢れています。それを溢れ出る怒りにまかせてとらえず、淡々と描いているので、水のような冷たさを感じる作品になっています。

これを観て、夢を持っている人をくじく人、意地悪をする人はどこにでもいるな、と本当に悲しく思いましたね。だからこそ、ジナが初めて自分らしくいられた遊園地のシーンはとてもいい。彼女を応援したくなる気持ちがむくむく湧いて、ラストに向けて明るい涙に浸ることができます。この作品を観て、泣いてスッキリしよう!

『ファイター、北からの挑戦者』

※次回は12月10日(金)に更新予定です!

取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己

(C)cinemadrifters
(C)2020 Haegrimm Pictures All Rights Res

プロフィール

LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。

夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が、2019年9月に講談社より発売された。

『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』

講談社 1400円(税別)
発売中

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