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『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『チェンソーマン』の共通点とは? それぞれの第1話から考察

リアルサウンド

20/12/5(土) 8:00

 最終23巻の初版は395万部、電子版を含めた累計発行部数が1億2000万部突破という大ヒットとなった『鬼滅の刃』だが、“ポスト鬼滅”とよく名前が挙げられているのが同じ『週刊少年ジャンプ』誌上で連載されている『呪術廻戦』と『チェンソーマン』だ。

 物語の端緒となる第1話に注目し、この三作品を読み解くと興味深い共通点が見つかった。本稿ではその三作品の共通点を考察したい。

※本稿は『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『チェンソーマン』のネタバレあり

 『鬼滅の刃』の第1話が掲載されたのは、週刊少年ジャンプ2016年11号。時は大正時代。炭売りを生業とする少年・竈門炭治郎が、ある日町への行商から山中の家に帰ってくると、母や弟妹たちが鬼に惨殺されていた。

 炭治郎は、ただひとり生き残った妹の禰豆子を助けようとするが、鬼になった彼女に襲いかかられてしまう。そこに現れた鬼殺隊の剣士・冨岡義勇は禰豆子を斬ろうとするが、炭治郎は妹を助けたい一心で土下座し、助命を嘆願する。

 しかし「生殺与奪の権を他人に握らせるな!」と一喝された炭治郎は、勇気を奮って義勇に立ち向かう。そして炭治郎と禰豆子の命を賭して互いを守ろうとする姿に心を打たれた義勇は二人を助け、炭治郎に鬼殺隊候補生を育てる育手のひとり鱗滝左近次の元に行くように告げて去っていく。

 続いて『呪術廻戦』の第1話が掲載されたのは、2018年14号。時代は現代。主人公の虎杖悠仁は、類まれな運動能力をもちながら心霊現象研究会に所属する高校生。

 両親の代わりに育ててくれた祖父が急逝した夜、虎杖の前に都立呪術高専の呪術師・伏黒恵が現れ、特級呪物・両面宿儺の指を渡すように命じる。しかし虎杖が持っていたのは呪物の箱で、本体は学校で心霊現象研究会の先輩が封印を解こうとしていた。虎杖と伏黒が校舎にかけつけると封印はすでに解かれており、その影響で数多くの呪いが集まっていた。

 伏黒が呪術で応戦するものの多勢に無勢で窮地に陥った時、虎杖は先輩たちと伏黒を守るため、特級呪物を飲み込み、特級呪物・両面宿儺に受肉させる。強力な呪力で呪いを祓うことに成功はしたものの、両面宿儺を身に宿した虎杖を呪いとして祓うと、伏黒は宣言する。

 最後の『チェンソーマン』の第1話が掲載されたのは、2019年1号。死別した父親が残した借金を返すため、相棒の悪魔ポチタと共に様々な悪魔を狩る「デビルハンター」業に勤しむ少年デンジ。

 収入のほとんどを返済に充てても、借金の完済はまだまだ遠く、一日食パン一枚で過ごしながら「食パンにジャムを塗り」「女とイチャイチャしたりして」「一緒に部屋でゲームをして」「抱かれながら眠る」夢を願うだけの日々。

 しかしある日ゾンビの悪魔に騙されたヤクザたちによって、デンジとポチタは切り刻まれてしまう。薄れゆく意識の中でポチタから「デンジの夢を私に見せてくれ」と心臓を託されたデンジはチェンソーの悪魔として復活。ヤクザたちとゾンビの悪魔を一掃する。そしてすべてが終わった後、駆けつけた公安対魔特異4課のデビルハンター・マキマから「悪魔として私に殺されるか」「人として私に飼われるか」選択を迫られたデンジは気を失いながら後者を選んだのだった。

 以上の第1話の大まかなあらすじを読むと、この三作品は、

1.主人公たちが暮らしてきた日常生活が描かれる

2.突然現れた敵対者によって日常生活が壊される

3.窮地に陥った主人公は命を賭けた選択をして覚醒する

4.覚醒した主人公は、これまでの日常生活の場を離れて、次の所属する場に向かう

という共通した物語の流れを持っていることがわかる(正確には『呪術廻戦』の第1話は4の途中まで)。もっともこうした流れ自体は、この三作だけではなく多くの映画や小説、漫画やゲームのヒーローものの冒頭によく見られる王道パターンだ。では他の王道路線の作品群と比して、この三作に共通する特徴的な要素に注目していきたい。

濃厚な死のイメージ

 アクションやバトルものが人気を呼ぶ少年漫画誌でも死の描写はタブー視されがちだが、この三作ではメインのキャラクターから群衆に至るまで容赦なくその死が描かれていく。何より三作とも物語の端緒となるのが、主人公にとってもっとも身近な存在である肉親・家族の死であることは特筆すべき点だろう。

 死についての描写も、最初に描かれた『鬼滅の刃』では炭治郎の留守中に家族の惨殺が行なわれ、続く『呪術廻戦』では虎杖はその臨終の場に居合わせ、『チェンソーマン』では回想シーンでデンジが実父の死を目撃した後、疑似家族的な存在であるポチタの死を間近で体験するなど、死への距離感が徐々に近づいている。敵対する勢力も人食い鬼、呪い、悪魔と死を象徴する存在だが、『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『チェンソーマン』と下るに連れて、作中でそれらの市井での認知度も高まっているように思う。

死者との約束

 喪失した家族から残されたものを守ることが、主人公たちの行動原理になるという点も三作に共通する特徴だ。『鬼滅の刃』の炭治郎は、生き残った禰豆子を守るため、彼女を鬼から人間に戻すために戦う。この行動原理は妹への愛情はもちろんのこと、義勇との戦いの後、夢のなかで母から告げられた「禰豆子を頼むわね」という言葉に基づいている。

 虎杖も祖父が最後に言い残した「オマエは強いから人を助けろ」「手の届く範囲でいい」を受け、呪いから人々を守ることに自分の生きる意味を見出し、デンジは第二話以降、自分の欲情に任せて行動しているようにも見えるが、その根底にはポチタが最後に残した「デンジの夢を私に見せてくれ」という願いがある。家族という自分の半身に近い存在を無くした喪失感と、死者との約束という重責を同時に背負って、彼らは戦い始めるのだ。

混然となる味方と敵、正義と悪

 主人公が守るもの、もしくは主人公自身が敵役の要素を含んでいるのも、共通する特徴のひとつ。『鬼滅の刃』の炭治郎が命を懸けて守る禰豆子は、後に所属する鬼殺隊が斬るべき鬼で、『呪術廻戦』の虎杖の体には祓うべき特級呪物の両面宿儺が宿っている。『チェンソーマン』に至っては、デビルハンターのデンジは狩る対象である悪魔“チェンソーの悪魔”であるポチタが一体化しており、話が進むに連れて、主人公たちは味方となる組織からも危険視される、異質な立場に置かれることになっていく。

 また『鬼滅の刃』の鬼や『呪術廻戦』の呪い、『チェンソーマン』の魔人などは人からなるもので、敵味方が代替可能な存在でもある。これらはあたかも味方と敵、正義と悪の対立といったシンプルな二元論で解決できたかつてのヒーローものの王道を、様々な価値観が混然となった複雑な現代の世界に対応させるためのアップデートのようにも感じる。

 少年漫画としては明らかに異端といえる共通点を持つ三作が、少年漫画界をけん引する『週刊少年ジャンプ』で、ほぼ同時期に連載され、人気を博しているのは興味深い事実。

 『鬼滅の刃』と『呪術廻戦』は連載開始時の担当編集者が同じ方というのも何か関係しているだろう。また、『週刊少年ジャンプ』は読者の声を重視することで知られており、これらの共通点は何らかの世相を反映した結果かもしれない。

 新連載時のキャッチコピーが「滅法異端バトル」だった『鬼滅の刃』が、その後社会現象といえるヒットとなり、続く『呪術廻戦』『チェンソーマン』の躍進ぶりを見ると、異端が新たな王道を切り拓いているようにも感じる。

 『呪術廻戦』の著者である芥見下々は、同作で王道と向き合うことを目標としていると語っている。『週刊少年ジャンプ』誌上で、王道がどう変革されていくのか、いち漫画読者として楽しみでならない。

■倉田雅弘
フリーのライター兼編集者。web・紙媒体を問わず漫画・アニメ・映画関係の作品紹介や取材記事執筆と編集を中心に、活動している。Twitter(@KURATAMasahiro

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