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ジョバンニ・ミラバッシが語る、宮崎駿&久石譲から受け継ぐジブリ音楽のDNA「ビル・エヴァンスと同じように私の一部になった」

リアルサウンド

20/1/7(火) 12:00

 1970年にイタリアのペルージャで生まれ、20代からパリを拠点に音楽活動を展開しているジョバンニ・ミラバッシは、ヨーロッパのジャズシーンを代表するピアニストの一人。ローマ生まれのエンリコ・ピエラヌンツィを敬愛し、クラシック界の巨匠アルド・チッコリーニにピアノの手ほどきを受けている彼は、フランスの主たるジャズ賞を総なめにした俊英である。

 日本でも2001年に澤野工房からリリースしたソロピアノ作『AVANTI!』でジャズアルバムとしては異例の10万枚以上の好セールスを上げ、一躍その名を浸透させた。また宮崎駿のファンとしても知られ、2015年にジブリ作品を中心に収録したカバー集『アニメッシ~天空の城ラピュタ ほか~』は幅広い層から注目を集める人気アルバムに。そして、2019年12月18日には、同じくジブリの楽曲をピアノトリオでカバーした『MITAKA CALLING -三鷹の呼聲-』をリリースしたばかりだ。

ジブリ作品との出会いと音楽家としての影響

 イタリアやフランスは、日本アニメの熱狂的な愛好者が多い国として有名だが、その背景には1970年代後半に欧州のテレビ局が日本から輸入した大量のアニメ作品を放送し、一般家庭で子どもたちが普通に視聴できた時代があったことも大きいと思われる。当時、高視聴率の人気番組だった『UFOロボ グレンダイザー』に夢中だったというミラバッシもまさにその世代だ。

「7〜8歳だった私たちは、日本がどこにあるのかもよくわかっていなかったのですが、イタリア版でも、エンディング曲はささきいさおが歌うオリジナルが使われていたので、歌詞を覚えて一緒に歌っていましたよ(笑)。ロボット、最恐のエイリアン、クレイジーな戦闘、そのすべてが大好きでした。マストだったのは、Actarus(※主人公デューク・フリードこと宇門大介の海外版での名前)が武器を使う前にその名を呼ぶこと。校庭では、みんな“スペースサンダー!!!”とか“ダイザービーム!!!”ってよく叫んでいたものです」

 その後、彼は映画『風の谷のナウシカ』と出会い、宮崎駿作品を追いかけるようになる。

「おそらく1980年代の中頃でした。テレビを付けるとちょうど『風の谷のナウシカ』が始まったところで、そばを通った父も惹きつけられてしまって、一緒に観ました。そして二人とも、この名作にすっかり心を奪われてしまったのです。それから宮崎監督の映画をたくさん観るようになって、私のイマジネーションは彼によって(そしてもちろん音楽を担当されていた久石譲さんによっても)育まれ、ショパンやビル・エヴァンスと同じように私の一部になったのです」

 『風の谷のナウシカ』との運命的な出会いが、彼の現在の音楽人生にも深く影響を与えている。そのほかジブリ作品において好きな作品はなにかと問いかけると、悩みながらも次のように答えてくれた。

「やはり『風の谷のナウシカ』がナンバーワン。ストーリーがとても深くて聡明で、本当に何もかもが素晴らしい。この映画に出会ったことが、私の複雑な少年時代で最良の出来事とさえ言えるかもしれません。今もナウシカが宮崎監督の作品でいちばん好きなキャラクターです。ただ、その後を選ぶのは難しいですね(笑)。『紅の豚』も『千と千尋の神隠し』も『ハウルの動く城』も『天空の城ラピュタ』も『もののけ姫』も……みんな愛していますから!」

 アルバム『アニメッシ~天空の城ラピュタ ほか~』をリリースした2015年の来日ツアーでは、宮崎駿と念願の対面も果たし、彼にとって特別な思い出となったようだ。

「日本の聴衆はいつも私の音楽を繊細に受け止めてくれるのですが、この年のツアーでは、私の方もみなさんの中にいる“内なる子ども”に向けて演奏しているような気持ちになっていました。しかも三鷹の近くで演奏した時、何と宮崎監督が近しいスタッフと一緒に聴きに来て下さったのです! そこにはあの加藤登紀子さんもいました。そして演奏後にお二人で私の楽屋までいらして、とても美しくて大きな花束をいただいたのです。本当に夢のようでした、正直、今でも信じられません(笑)」

 宮崎駿もミラバッシのファンでクリエイター/アーティストとして相思相愛の関係性だった。

「監督は本当に魅力的な人でしたね。お会いして、自分が宮崎作品の登場人物になったように感じてしまいました。その上、私のファンだとおっしゃったんです! もうとんでもないことですよね? 後日私をアトリエに招いてくださり、そこで演奏する機会を持てたことも一生の思い出です」

宮崎駿が手掛けたジャケットに描かれるもの

  最新作『MITAKA CALLING -三鷹の呼聲-』では、ミラバッシの“ジブリ愛”が再び結集。しかも今回は彼自身「宮崎監督と久石さんのコンビは、フェデリコ・フェリーニ監督とニーノ・ロータの出会いに匹敵する」と答えていた、久石譲作曲の作品ばかりをカバー収録した注目のアルバムである。ミラバッシは、久石譲の作曲家としての魅力を次のように語る。

「ロータも久石さんも天性のメロディメイカー。特に久石さんはピアノの音色をとても独特に扱っていて、実に個性的なオーケストレーションへのアプローチをしていますね。私はいつも(自作曲も含めて)メロディにこだわって、それを“ジャズ”へと展開させるよいアイデアを見つけようと試みる。それは異なる言語の“翻訳”にも似ています。そして、カバーであっても演奏する上では常に自分のオリジナリティを大切にしたいと心がけているのです」

 ミラバッシならではのアレンジが、久石譲の楽曲に新たな解釈を加える様を体感できる同作。レコーディングはタイで2日間にわたって行われたという。ジャンルカ・レンツィ(Ba)、ルクミル・ペレス(Dr)とのピアノトリオによる熟練のアンサンブルがジブリの名曲に新たな息吹を与えている。

「スコアにはほとんど手を入れずに、ただメロディとコードを書いただけだったので、セッションしながらアレンジをしていくことができました。私の音楽仲間にこれらの楽曲を紹介できて、彼らがその素晴らしさをみつけて出してくれたのはとてもエキサイティングなことです。流れるような演奏のなかで、それぞれがよいアイデアを出し合うことができて、このトリオにいくつものマジックが訪れました」

 そして、4月には同アルバム発売の来日ツアーも予定しているという。果たして、そこでミラバッシはどんなライブを見せてくれるのだろうか。

「スタジオセッションとライブの大きな違いは、やはりオーディエンスです! スタジオでは内省的にインスピレーションの源も自身の中に見出しますが、ライブでは“その場”で人々から貰ったエネルギーによって演奏できる。これまでに日本で多くの都市を訪ねる機会があったので、東京だけでなくたくさんの場所が好きです。例えば九州では本当に素敵な時間を贅沢に過ごすことができたし、屋久島は本当に素晴らしかった。次はぜひ五島列島を訪れて、山本二三美術館に行ってみたい。あと宮古島にも行きたいです(できれば演奏したい)」

 すでに宮崎監督提供のジャケットも話題に。まるで戦時中の東京を思わせるようなこの絵は、もしかしたら、民衆の反戦歌や革命歌を集めたミラバッシの過去のアルバム『AVANTI!』からインスピレーションを得て描かれたものかもしれない。

「監督からはジャケットの絵について、特に何も聞かされていませんが、私のアルバム『AVANTI !』を繰り返し聴いてくださったそうです。もし私の音楽が、この感動的なイメージの源になったのだとしたら、これほど名誉なことはありませんね。私も年齢を重ねてきて、以前にも増して人生に素敵な“偶然”などないと思っていましたが、ジブリ美術館のある三鷹の近くでライブを開いたことで、監督と会うことができ、それがこうしてアルバムのために絵を提供してもらえることに繋がるなんて……やはり夢みたいです。すべて本当に起こったことなのに! 宮崎監督とジブリ作品を愛する私にとって、久石さんの音楽を演奏できるのはこの上ない喜びです。日本だけでなくヨーロッパのジャズファンが、この美しい音楽を見つけてくれることを願ってやみません」

 そして最後に、ミラバッシが『MITAKA CALLING -三鷹の呼聲-』収録曲について、それぞれ以下のように解説を加えてくれた。彼のコメントと共に、ぜひ同作の奥深い世界を堪能してもらいたい。

トラック1:「あの夏へ」(『千と千尋の神隠し』)

「『千と千尋の神隠し』からこの楽曲を選んだのは、このメロディが持つリズムパターンにブラジルのボサノヴァが感じられたから。まさにそのように演奏しました」

トラック2:「アシタカせっ記」(『もののけ姫』)

「オリジナルのとても“日本的”なメロディに惹かれました。とても美しく、インスピレーションに満ちていて、もののけたちの不思議な世界を完璧に表現している。演奏しないではいられません! さらに私たちはそこにグルーヴ感を加えてみました」

トラック3:「海の見える街」(『魔女の宅急便』)

「『魔女の宅急便』は私の長女も小さい頃に大好きだった作品です。どのように演奏するかは事前にまったく決めておらず、とてもベーシックなスコアだけを持ってスタジオに着いて、バンドでいくつかのアイデアを試してみました。この曲がとても自然にスウィングすることに気が付いて、レコーディングをとても楽しみましたよ……たしか、ワンテイクしか録音しなかったと思います!」

トラック4:「Flying boatmen」(『紅の豚』)

「オリジナルはニーノ・ロータのようなイタリアのポピュラー音楽にとても近しい精神を持っていると思いました。ここでは、マンマユート団の飛行艇が鳴らす奇妙なエンジン音を想起させるため、変拍子(7/8)を用いています」

トラック5:「カストルプ(魔の山)」(『風立ちぬ』)

「この素晴らしく深いメロディは、トーマス・マンの代表作『魔の山』の主人公に捧げられています。おそらく私が本アルバムでいちばん好きな楽曲です。私の感性にとても近しいものを感じました」

トラック6:「Doom-雲の罠-」(『紅の豚』)

「映画の中では1分弱しか流れませんが、この短い楽曲がとても印象的でした。まずはそのまま演奏して、それからコードを元に、ジャンルカ(Ba)とルクミル(Dr)とインプロバイズしました」

トラック7:「王蟲との交流」(『風の谷のナウシカ』)

「我が愛するナウシカのフラッシュバックです。何と素晴らしく感動的なシーン、それに何と思慮深く、無邪気で、激しくドラマチックな音楽なのでしょう! 1回だけ弾いてみて、そのバージョンを使うことにしました」

トラック8:「崖の上のポニョ」

「私の子どもたちにインスパイアされて、とても自然なバージョンで演奏しました。こちらもワンテイクです」

トラック9:「となりのトトロ」

「三鷹の森ジブリ美術館で演奏し、大勢の子どもたちが一緒に歌ってくれるという素敵な機会があり、ぜひ録音したかった。ラテンのフィーリングで、次第にグルーヴィーかつモダンでワイルドなインプロに展開していきます」

ジョバンニ・ミラバッシ『MITAKA CALLING -三鷹の呼聲(よびごえ)-』

■リリース情報
ジョバンニ・ミラバッシ『MITAKA CALLING -三鷹の呼聲(よびごえ)-』
発売中
価格:¥3,700(税込)
1.あの夏へ ~「千と千尋の神隠し」
2.アシタカせっ記 ~「もののけ姫」
3.海の見える街 ~「魔女の宅急便」
4.Flying boatmen ~「紅の豚」
5.カストルプ(魔の山) ~「風立ちぬ」
6.Doom-雲の罠- ~「紅の豚」
7.王蟲との交流 ~「風の谷のナウシカ」
8.崖の上のポニョ
9.となりのトトロ

【プロフィール】
ジョバンニ・ミラバッシ Giovanni Mirabassi
イタリア・ペルージャ生まれ。
現在は、パリ・モンマルトルに居を構え世界を股にかけて音楽活動を展開している、ヨーロッパのジャズ・シーンを代表するピアニストの一人。
3歳よりピアノを始め、10歳の頃にジャズと出会い、独学で勉強を始めた。1992年にパリに移住、1996年のアヴィニヨン・フェスティバルで大賞を受賞した。その後、「Victoire du Jazz」、「Django d’Or」などフランスの主たるジャズ賞を総なめしている。イタリア出身の世界的なジャズ・ピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィを敬愛し、クラシック・ピアノ界の巨匠、アルド・チッコリーニにピアノの手ほどきを受けた彼は、2001年に世界各国で民衆に歌い継がれている反戦歌、革命歌をソロ・ピアノで演奏したアルバム「AVANTI!」(澤野工房より発売)で一躍その名を日本のジャズ・ファンの間に浸透させた。このアルバムはこよなく自由を愛するミラバッシの心の叫びとなって、ジャズ・アルバム、それもピアノ・ソロの作品としては異例の日欧で10万枚のセールスをあげるヒット・アルバムとなった。2010年にはその第二弾とも言える「Adelante」を発表、そこには、「リリー・マルレーン」、「モスクワ郊外の夜は老けて」、「インターナショナル」といった日本でも馴染の楽曲が収録されていた。

公式サイト(コロムビア)

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