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なぜ『鬼滅の刃』にここまで人気が集中したのか? 2020年のベストセラーから読み解く

リアルサウンド

20/12/4(金) 8:00

2020年 年間ランキング(オンライン書店e-hon調べ/集計期間:2019年11月24日~2020年11月23日)

1位 『鬼滅の刃 しあわせの花』吾峠呼世晴(原作)、矢島綾(小説) 集英社
2位 『鬼滅の刃 片羽の蝶』吾峠呼世晴(原作)、矢島綾(小説) 集英社
3位 『鬼滅の刃 風の道しるべ』吾峠呼世晴(原作)、矢島綾(小説) 集英社
4位 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 新潮社
5位 『大河の一滴』五木寛之 幻冬舎
6位 『少年と犬』馳星周 文藝春秋
7位 『ペスト』カミュ/宮崎嶺雄(訳) 新潮社
8位 『FACTFULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド 日経BP
9位 『こども六法』山崎聡一郎/伊藤ハムスター(イラスト) 弘文堂
10位 『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編 ノベライズ』吾峠呼世晴(原作)、矢島綾(小説)、ufotable(脚本) 集英社
11位 『乃木坂46写真集 乃木撮VOL.02』乃木坂46 講談社
12位 『鬼滅の刃 ノベライズ 炭治郎と禰豆子、運命のはじまり編』吾峠呼世晴(原作)、松田朱夏 集英社
13位 『SWITCH Vol.38 NO.8 特集 TVアニメ『鬼滅の刃』誌上総集編』 スイッチ・パブリッシング
14位 『DVDでよくわかる! 120歳まで生きるロングブレス』美木良介 幻冬舎
15位 『田中みな実1st写真集「Sincerely yours…」』田中みな実 宝島社
16位 『鬼滅の刃 ノベライズ きょうだいの絆と鬼殺隊編』吾峠呼世晴(原作)、松田朱夏(小説) 集英社
17位 『反日種族主義 日韓危機の根源』李栄薫 編著 文藝春秋
18位 『1日10分のごほうび NHK国際放送が選んだ日本の名作』赤川次郎、江國香織、角田光代、田丸雅智、中島京子、原田マハ、森 浩美、吉本ばなな 双葉社
19位 『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編 ノベライズ みらい文庫版』吾峠呼世晴(原作)、松田朱夏(小説)、ufotable(脚本) 集英社
20位 『熱源』川越宗一 文藝春秋

 トーハンが運営するオンライン書店e-honの2020年、年間ランキングが12月1日に発表になった。ベストセラーから2020年がどんな年だったのかを見ていこう。

『鬼滅の刃』の年――にここまでなったのはなぜか?

 第1位~3位、10位、12位、13位、16位、19位と年間ベスト20位以内に8冊も『鬼滅の刃』関連本が入っている。これは「書籍」ランキングなので「コミックス」の売上とはまた別。つまりマンガ本編以外の本でも『鬼滅』は圧倒的に売れたことがわかる。

 しかしなぜここまで『鬼滅』『鬼滅』になったのか? もちろん作品の力、集英社やアニメ制作会社ufotableの力が大きかったが、それ以外の外部環境要因も少なくなかったはずだ。

2020年ベストセラーなのに2020年発売の新刊が少ない

 2020年ランキングの特異性は、『鬼滅』ラッシュ以外にも現れている。1位の『鬼滅の刃しあわせの花』、2位の『鬼滅の刃 片羽の蝶』、4位のブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』、5位の五木寛之『大河の一滴』、7位のカミュ『ペスト』、8位のハンス・ロスリングほか『FACTFULNESS』、11位の『乃木坂46写真集 乃木撮VOL.2』、14位の美木良介『DVDでよくわかる!120歳まで生きるロングブレス』、15位の『田中みな実1st写真集Sincerely yours…』、17位の李 栄薫・編著『反日種族主義』、20位の川越宗一『熱源』――これらは2019年発売のものだ。

 2020年ベストセラー、トップ20のうち11冊が19年かそれより前に刊行された本なのだ。

新たな出会いが減り、安定・安心志向になった

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、2月28日から春休み前まで全国の小中高に一斉休校の要請が出され、この間、通学帰りに書店に寄る児童・生徒はいなくなった。4月7日に緊急事態宣言が発令され、16日には対象地域を全国に拡大、5月25日に全国で解除されるまでの期間、書店も休業となることが少なくなかった。この時期にはあらゆるメディアがコロナ一色。つまり、本自体もそうだが、コロナ以外の出版物に関する情報も、流通が滞ってしまった。

 12月現在でも多くの大学がオンラインで授業を行い、原則リモートワークまたはミーティングや営業が原則オンラインに移行した企業も少なくない。人びとの移動は減り、通勤・通学の帰り道に、あるいはちょっとした時間つぶしに書店に立ち寄るといったことが減った。

 4、5月にリアル書店が休業になり、オンライン書店も物流の混乱・逼迫の影響を受けて、2月~5月発売の新刊の売れ行きはおおむね鈍くなり、営業再開後には返本ラッシュが発生、以降の刊行ペース・スケジュールについても少なくない版元が「様子を見ながら判断」という雰囲気になった。

 海外からは新作映画(とくに大作)がほとんど入ってこなくなり、春から夏頃まで音楽や舞台などは軒並み延期・中止となった。本に限らず新しいエンタメ、新しい作品の供給量自体が、例年比で著しく減り、人気作品の新陳代謝が滞った。するとそれらの関連出版物の動きも鈍る。

 ここまで見てきたように、コロナの影響によって、新しい作品を目にする機会、手にする機会が減ってしまった。もちろん、収入が減った人も少なくない。するとどうしても安定志向になる。外さない、確実におもしろい/役に立つ/話題についていけるものに需要が集中する。

 これが2020年ベストセラーに2020年発売の新刊が少ない理由、そして『鬼滅』に異常なまでに人気が集中している理由だろう。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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