Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『わたどう』横浜流星、『MIU404』星野源ら、人気俳優たちが今期ドラマで見せる“シリアス演技”

リアルサウンド

20/8/15(土) 6:00

 新型コロナウイルスが猛威を振るっている2020年、国内のテレビドラマ業界も大きな打撃を受けた。放送時期の延期、あるいは撮影が間に合わずに途中で休止……。例年であれば「7月クール」といったような区分けができたが、今年はイレギュラーな分類になりそうだ。

 ただ、そんな中でも『半沢直樹』(TBS系)が視聴率20%台をキープするなど、ドラマ人気は相変わらず高い。Netflixなどの動画配信サービスも会員増が進んでおり、不要不急の外出を避けてステイホームに徹する人々が増えたことも要因といえるが、やはり純粋に「観たい」と思えるラインナップが多いのだろう。

 現在放送中の新ドラマのラインナップからも、人気俳優をそろえたり著名な脚本家を迎えたり、待望の続編をスタートさせたりと、様々なアプローチで視聴者を楽しませようとしていることが伝わってくる。

 今回は、そんな新ドラマの中から、人気俳優たちが見せる「シリアス演技」に注目。これまでとは一味違うダークな表情に注目し、ご紹介する。

『私たちはどうかしている』(日本テレビ系)

 8月12日から放送開始した本ドラマは、浜辺美波と横浜流星の人気俳優が“対決”。どちらも圧倒的な美貌と人気を誇る次世代スターだが、役どころが興味深い。2人が扮するのは、老舗和菓子屋で起こった殺人事件の「容疑者の娘」と「被害者の息子」。2人が15年後に顔を合わせたことから、運命の歯車が再び回り始めていく。

 幼なじみだった七桜(浜辺美波)と椿(横浜流星)だったが、15年前の殺人事件が起こった際、椿の証言が決め手となり七桜の母は逮捕される。彼女はそのまま他界してしまい、七桜はずっと椿を恨んでいた。“和菓子対決”の場で再会した2人だが、椿は七桜を覚えておらず、あろうことか「俺と結婚しない?」といきなりプロポーズ。七桜は復讐を果たすためにこの“契約”に乗るのだが……。

 気鋭の和菓子職人に成長した七桜と、形骸化した老舗和菓子屋を立て直したい跡取り息子の椿。両者の思惑がどう“ラブ”に変換していくのかが大きな見どころだが、これはつまり2人の関係性の“氷解”を、役者が丹念に見せていく必要があるということ。特に、横浜に課せられた役割は極めて重要だ。

 横浜は、至高の和菓子作りに没頭するあまり周囲に攻撃的に接する唯我独尊なキャラクターに扮しているが、ともすればステレオタイプの“俺様キャラ”に陥りかねない。しかし、雨中での土下座シーンなど、ここぞという場面で充血するほどに目に力を込め、ギラギラとした生身の芝居でつなぎとめている。

 さらに、創業400年の老舗和菓子屋の看板を背負うにふさわしい所作も身につけなければならない。隙がなく、それでいて洗練された立ち振る舞いに着物の着こなし、発声に至るまで細かく調整して役になりきっており、『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)や『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。』(読売テレビ・日本テレビ系)などからより進化した、潜在力の高さを見せつけている。

 先述した通り、役の関係性の変化がキーポイントになる本作。今後、横浜と浜辺がどのようにキャラクターを進化させていくか、楽しみに見届けていきたい。

『竜の道 二つの顔の復讐者』(カンテレ・フジテレビ系)

 “目の演技”では、『竜の道 二つの顔の復讐者』の高橋一生にも注目だ。玉木宏と共に「両親を死に追いやった男に復讐を誓う双子」を演じており、重圧感ある目の演技で魅せる。

 復讐劇を演じる上での醍醐味は「激情を“隠す”」演技にあるといえるだろう。本性を隠し、憎き相手に近づく。宿願を達成せんと、心を殺して振る舞う。その悲壮な覚悟に、観る者は心打たれるのだ。つまり、演技の工程としては、「激情」を「繕い」でコーティングせねばならない。いわば、キャラクターと、そのキャラクターがかぶる偽りの仮面、2つの“役”を演じるわけだ。

 高橋は10月16日に劇場公開もされる『スパイの妻』でも、妻を翻弄するミステリアスな貿易会社の社長に扮しているが、静の演技ににじむ一瞬の動(激情)を構築する術に長けている。『竜の道 二つの顔の復讐者』でもその才能がいかんなく発揮され、笑いながらも目で脅すシーンや、柔和に振る舞いつつ、焦りが微かに表情に出るシーンなど、高橋の微細な表情筋がそのまま、作品の緊迫度を物語っているのだ。

 その高橋と阿吽の呼吸で魅せるのが、玉木のポジション。彼が演じる兄もまた周囲に気取られぬように標的に近づいていくが、こちらは「復讐のために整形し、別人に成り代わった」過去を持ち、時折隠しきれぬ危険性がギラギラと顔を出していく。

 共に“ウソをつき続ける”2人が唯一本音で話せるのが、兄弟水入らずで会うとき。時にぶつかることもあるが、お互いに肩を揉み合ったりとじゃれ合うシーンがちゃんと用意されているのが心憎い。運命を捻じ曲げられた2人の“本当の表情”を観られる場面は、貴重な癒しどころといえよう。

『MIU404』(TBS系)

 『アンナチュラル』(TBS系)の人気脚本家・野木亜紀子と塚原あゆ子監督、新井順子プロデューサーが再び組んだ刑事ドラマ。様々な事件の初動捜査を行う架空の臨時部隊「警視庁刑事部・第4機動捜査隊」の面々の活躍を描く。村上虹郎やKing Gnuの井口理など、毎話登場する多彩なゲストもウリだ。

 『MIU404』は「バディもの」の構造になっており、星野源演じる元捜査一課のエリート刑事と、綾野剛扮するたたき上げの熱血警官の凸凹コンビぶりが大きな推進力を生み出している。『日本で一番悪い奴ら』では、純粋すぎて堕ちていく警官を狂気すら感じる熱演で演じ切った綾野だが、本作では一種の狂言回しとして、猪突猛進な伊吹をハイテンションな演技で魅せる。

 綾野のカラリとしたコミカルな表情も貴重だが、過去のトラウマを抱え、「自分も他人も信用しない」志摩に扮した星野のクールで神経質な表現も、実に新鮮。綾野との共演ドラマ『コウノドリ』(TBS系)や、社会現象化した『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)など、クールな役どころもこなすが、『地獄でなぜ悪い』や『箱入り息子の恋』などの映画、バラエティ番組『LIFE! 人生に捧げるコント』(NHK)、そしてミュージシャンとしての彼のイメージは、柔和な好青年なのではないか(映画では振り切った演技が目立つ)。

 しかし『MIU404』では、周囲に壁を作る“陰のある男”にチャレンジ。用意周到で冷静沈着だが、陰で「相棒殺し」と蔑まれ、過去からの亡霊に苦しみ続けるという難しい役どころだ。志摩の過去に迫る第6話では、タガが外れて感情がほとばしってしまう熱演を披露している。普段の志摩とのギャップが、観る者に衝撃を与えた。

 ギャップという面では、クールなキャラクターをベースにしているからこそ、綾野との掛け合いにもダイナミズムが生まれ、コミカルなやり取りが生き生きと輝きだすともいえよう。

 そこに、岡田健史扮するキャリア組の新米、渡邊圭祐演じる動画配信者、菅田将暉による謎めいた男といった一癖もふた癖もあるキャラクターたちが混入し、人物たちが見せる多彩な表情が積み重なっていく点も、『MIU404』の面白さだ。

『半沢直樹』(TBS系)

 『半沢直樹』といえば、熱と熱がぶつかり合うような高カロリーの演技合戦が“風物詩”。現在放送中の新作でも、堺雅人と香川照之を中心に、よりレベルアップ、いやエスカレートした怪演対決が繰り広げられている。

 しかし、そんな中でやや異彩を放っているのが、賀来賢人だ。本シーズンの半沢(堺雅人)は、東京中央銀行から、子会社の東京セントラル証券へと出向を命じられてしまう。そこで営業企画部長のポストを与えられた半沢の部下となるのが、賀来演じるプロパー(生え抜き)社員の森山だ。

 最初こそ「外様」である出向組の半沢に反抗的な態度をとっていたが、「大事なのは感謝と恩返しだ」という半沢の仕事に対する情熱に影響を受け、めきめきと成長していく森山。かつての親友であるIT企業の社長を窮地から救いたいと願い、身を粉にして働いていく。半沢と森山のコンビは、シリーズに新風を吹き込むと同時に、バットマンとロビン、アイアンマンとスパイダーマンといった師弟関係も想起させ、次世代のヒーローの誕生をも期待させていく。

 タイトなスーツに身を包み、生真面目な男を実直に演じた賀来の演技は、『今日から俺は!!』(日本テレビ系)などの福田雄一作品で見せる表情とは全く別物。怪物たちのひしめく本ドラマで、ぐっと抑えた演技で錨(いかり)の役割を担っている(剣道シーンも披露)。

 『Nのために』(TBS系)でのミステリアスなキャラクターや『ちはやふる』で演じたかるた名人など、もともと演技力は折り紙付きだが、より重要なポジションを与えられたといっていいだろう。今後、ますます活躍の幅が広がっていくに違いない。

 ちなみに、スピンオフ『半沢直樹イヤー記念・スピンオフ企画 狙われた半沢直樹のパスワード』で主演した吉沢亮も、第3話で大活躍を見せる。こちらは才能あふれるプログラマーという役どころで、窮地に陥った半沢の救世主となる。目の表情で切迫感を物語る、吉沢の演技は放送時、大いに話題となった。

 今回挙げたのは一例だが、俳優陣の奮闘ぶりが目を引く新作ドラマがひしめく夏となっているのは確か。シリアス演技とはやや異なるが、『ハゲタカ』(NHK)などのハードボイルドな作品が多かった大森南朋が家政夫を好演している『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)もまた、新たな魅力を切り拓いた作品といえよう。

 暗い時代だからこそ、日常の苦しさをほんの一時忘れさせてくれるエンタメを――。作り手たちの気骨と奮闘に感謝しつつ、今後も楽しみに追いかけていきたい。

■SYO
映画やドラマ、アニメを中心としたエンタメ系ライター/編集者。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て、現在に至る。Twitter

■放送情報
『私たちはどうかしている』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:浜辺美波、横浜流星、高杉真宙、岸井ゆきの、和田聰宏、岡部たかし、前原滉、草野大成、山崎育三郎、須藤理彩、中村ゆり、鈴木伸之、佐野史郎、観月ありさ
原作:安藤なつみ『私たちはどうかしている』(講談社『BE・LOVE』連載)
脚本:衛藤凛
演出:小室直子、猪股隆一
音楽:出羽良彰
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:鈴間広枝、松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:www.ntv.co.jp/watadou
公式Twitter:@watadou_ntv
公式Instagram:@watadou_ntv

『竜の道 二つの顔の復讐者』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:玉木宏、高橋一生、松本穂香、細田善彦、奈緒、今野浩喜、渡辺邦斗、 落合モトキ、西郷輝彦(特別出演)、松本まりか、斉藤由貴、遠藤憲一ほか
原作:白川道 『竜の道』 (幻冬舎文庫)
脚本:篠崎絵里子(「崎」は「たつさき」が正式表記)、守口悠介
音楽:村松崇継
主題歌:SEKAI NO OWARI 「umbrella」(ユニバーサル ミュージック)
オープニング曲:ビッケブランカ 「ミラージュ」(avex trax)
プロデュース:米田孝、水野綾子
演出:城宝秀則、岩田和行、紙谷楓、吉田使憲
制作:カンテレ、共同テレビ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/ryu-no-michi/
公式Twitter:https://twitter.com/ryunomichi_ktv

金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子、黒川智花
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/

日曜劇場『半沢直樹』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:堺雅人、上戸彩、及川光博、片岡愛之助、賀来賢人、今田美桜、池田成志、山崎銀之丞、土田英生、戸次重幸、井上芳雄、南野陽子、古田新太、井川遥、尾上松也、市川猿之助、北大路欣也(特別出演)、香川照之、江口のりこ、筒井道隆、柄本明
演出:福澤克雄、田中健太、松木彩
原作:池井戸潤『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社)、『半沢直樹3 ロスジェネの逆襲』『半沢直樹4 銀翼のイカロス』(講談社文庫)
脚本:丑尾健太郎ほか
プロデューサー:伊與田英徳、川嶋龍太郎、青山貴洋
製作著作:TBS
(c)TBS

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む