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夏ドラマ『半沢直樹』から秋ドラマ『タリオ 復讐代行の2人』まで……2020年は復讐モノ量産?

リアルサウンド

20/10/9(金) 6:00

 夏クールのドラマが終了したが、『半沢直樹』(TBS系)、『竜の道 二つの顔の復讐者』(カンテレ・フジテレビ系)、『私たちはどうかしている』(日本テレビ系)といった、復讐を題材にした作品が多かったのが印象に残っている。

 秋クールでもNHKのドラマ10では『タリオ 復讐代行の2人』、WOWOWではバカリズム脚本のドラマ『殺意の道程』が放送。『ルパンの娘』(フジテレビ系)の続編も、今は没落した名探偵の一族に生まれた女探偵(橋本環奈)が、主人公たちLの一族を見つけだして復讐するということが、物語の大枠となっている。

 それぞれ描かれ方は違うが、“復讐”をテーマにした作品が多いのは、それだけドラマと相性がいいからだろう。

 復讐を題材にした物語の多くは、家族や恋人を失った主人公が、正体を隠して犯人に近づき、証拠を見つけ出すというミステリーの構造となる。スパイモノや潜入捜査モノの構造に近いため、正体がバレるか? 犯罪の証拠を見つけられるか? といった緊張感のあるサスペンスが演出しやすい。

 また、その敵は巨大な組織に守られていることが多い。そのため主人公は、復讐相手だけでなく、罪を隠蔽しようとする組織とも戦わねばならない。

 2013年度版『半沢直樹』では、父の工場に対し、貸し剥がしをおこなった銀行と、当時、融資の担当だった大和田暁(香川照之)が半沢(堺雅人)の復讐の相手だった。自殺に追い込まれた父の敵を討つため、半沢は貸し剥がしをおこなった銀行に就職し、「頭取を目指すこと」で復讐を果たそうとする。

 半沢は銀行を憎みながら銀行員となり、内部から体制を変えようとする。その過程で出世争いと派閥抗争に巻き込まれるのだが、半沢は自分に攻撃を仕掛けてき相手には容赦しない。「やられたら、やり返す。倍返しだ」と言って、逆に相手を追い詰める。やがて物語は諸悪の根源である大和田常務を土下座させる姿が描かれた。

 あの場面は、哲学者のニーチェが『善悪の彼岸』(光文社古典新訳文庫)で語った「怪物と戦う者は、戦いながら自分が怪物になってしまわないようにするがよい。長いあいだ深淵を覗きこんでいると、深淵もまた君を覗きこむのだ」(中山元・翻訳)という警句を思い出させる。

 日本の法律において、復讐は民事法では自力救済、刑事法では自救行為に含まれ、「司法の手続きを経ずに、実力で権利回復をおこなうこと」は禁止されている。

 つまり「復讐」は、現代においては法的に許されない行為なのだ。逆に法的に問題さえなければ、銀行がおこなった「貸し剥がし」のような非道な行為も正当化されてしまう。世の中、法律が必ずしも正しいとは限らない。

 権力者は法律に守られ、犠牲になるのは常に弱者だ。では、法では裁けない悪に対し、人はどうすればいいのか?

 普通なら、ここで泣き寝入りをしてしまうものだ。復讐なんて現実にはできない。だからこそ、行き場のない怒りの受け皿として、フィクションの中で復讐は描かれてきた。

 復讐とは、法的には許されない「悪」を倒すために、私刑という「悪」をおこなう行為だ。そのため、多くの復讐譚はピカレスク・ロマンとなるのだが、ここで前述した「怪物と戦う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心がけよ」というニーチェの言葉が効いてくる。

 2013年の『半沢直樹』最終話で大和田に土下座させたのは、かつて父親が土下座をさせられたトラウマからだ。最終話の半沢の姿は、正義の銀行員として描かれてきた、これまでの役割を超えたもので、観ていて暴力的すぎて不快な感触すら感じられた。これは本作が半沢の行為を単純な正義として描いているのではなく、復讐という行為が人間を怪物にしてしまうという、残酷な側面も描いていたからだろう。

 復讐は敵も味方も怪物に変えてしまう。だからこそ、本来の結末は破滅しかない。だが一方で、敵に近づきすぎることで「うっかり、相手を理解してしまう」という側面もある。

 近くにいると情が移ってしまい、あれだけ憎んでいた相手が憎めなくなってしまうということもよくある話だ。それが2020年版における大和田の変化だろう。

 そもそも、日本人は「悪人」や「怒り」を描くことが苦手なのではないかと思う。優しいのか忘れっぽいのかわからないが、話が続くほど、敵にも人間臭い愛嬌が生まれてしまい「彼なりの事情があったのだ」という見せ方に寄ってしまう。

 その結果、悪役の人気が高くなってしまうことも多く、最終的な落とし所として、敵と味方が手を組んで、より強い敵に挑むという話になってしまう。

 2020年度版の『半沢直樹』も、この構造をなぞっていた。話題になったため、この路線変更は大成功だったのだろう。しかし、前作にあった復讐譚としての緊張感は完全になくなってしまったように感じた。

 復讐モノは、人を引きつけるサスペンスがあるのだが、破滅以外の結末に説得力をもたせることがとても難しい。『半沢直樹』の変遷を観て、改めてそう感じた。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
ドラマ10『タリオ 復讐代行の2人』(全7回)
NHK総合、BS4Kにて2020年10月9日(金)スタート、毎週金曜22時
出演:浜辺美波、岡田将生 ほか
制作統括:川田尚広、高橋練、岡本幸江
演出:木村ひさし、山本透

WOWOWオリジナルドラマ『殺意の道程』
WOWOWプライムにて、11月9日(月)スタート 毎週月曜深夜0:00〜放送(全7話)
※第1話無料放送
出演:バカリズム、井浦新、堀田真由、日野陽仁、飛鳥凛、河相我聞、佐久間由衣、鶴見辰吾ほか
脚本:バカリズム
監督:住田崇
音楽:大間々昴
プロデューサー:高江洲義貴、大内登
製作:WOWOW SWEAT
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/satsui/

木曜劇場 『ルパンの娘』
フジテレビ系にて、10月15日(木)スタート 毎週木曜22:00~放送
※初回15分拡大
出演:深田恭子、瀬戸康史、橋本環奈、小沢真珠、栗原類、どんぐり、藤岡弘、(特別出演)、松尾諭、大貫勇輔、信太昌之、マルシア、我修院達也、麿赤兒、渡部篤郎
原作:『ルパンの娘』 『ルパンの帰還』 『ホームズの娘』 横関 大(講談社文庫刊)
脚本:徳永友一
プロデュース:稲葉直人
監督:武内英樹
制作・著作:フジテレビ 第一制作室
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/Lupin-no-musume2020/
公式Twitter:@lupin_no_musume
公式Instagram: @lupin_no_musume

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