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2019年、韓国のビッグドレンド“Newtro” 流行に至った経緯とK-POPに与える影響

リアルサウンド

19/9/6(金) 7:00

■韓国で流行中の新概念「Newtro」
 「Newtro(ニュートロ)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

(関連:TWICE、BLACKPINK、BTS……K-POPブーム再燃に至った理由 日本における歴史を振り返る

 Newtroとは、「現在あるいは未来(New)」と「過去(Retro)」を融合させた「新しい過去」を意味する韓国の新造語である。2018年の半ば頃から使われ始めたこの言葉は、今や韓国国内での一大マーケティングトレンドにまで発展している。

 例えば、日本でも名の知れた韓国焼酎「眞露(ジンロ)」。若者向けに商品リニューアルを行うに当たり、懐かしのボトルをNewtro的視点で再解釈したパッケージデザインが採用された。

 また、これまで「古臭い」「高齢者向け」というイメージがあったソウル・江北地区も、現在では「Newtroの聖地」としてトレンドに敏感な若者たちが通う街へと変容しつつある。

 このブームを牽引しているのは、ミレニアル世代以降の10~30代である。呼吸をするようにインターネットを使いこなす彼らにとって、デジタルデバイスが普及する以前の「アナログ」な生活と文化は、新鮮で魅力的に見えるのだ。また、過去の文化のリバイバルと郷愁に留まらず、新しい感性をもって再解釈・再生産するところまでを包括した概念である点において、Newtroは「レトロ」とも一線を画している。

■Newtroブームはどこからやってきたのか
 韓国でNewtroが一般化するよりも前から、それと近しいムードが蔓延していた場所がある。インターネット上の音楽コミュニティだ。

 2010年代初頭に登場したVaporwave、そしてそこから派生したFuture Funkというジャンルでは、80年代頃に発表された楽曲や、90年代のアニメーション映像がサンプリングとして多用される傾向が強い。とりわけFuture Funkにおいては日本の昭和歌謡のサンプリングリミックスが活発に行われ、これが昨今の世界的なシティポップブームに繋がったとも言われている。

 そして、そのFuture Funkの盛り上がりに大きく貢献した人物の一人として、韓国人DJ兼プロデューサー・Night Tempoが挙げられる。

 日本産シティポップのマニアとして有名な彼のアートワークには、『美少女戦士セーラームーン』などのアニメ的モチーフがしばしば用いられている。彼は今年8月に行われた『フジロックフェスティバル』でも『セーラームーン』のオープニング主題歌「ムーンライト伝説」のリミックスを披露しており、それをきっかけにNight Tempoの名を知った音楽ファンも少なくないだろう。

 彼がアニメ的アートワークを用いながらインターネット上に楽曲を発表し始めたころ、奇しくも韓国国内で「90年代の少女向けアニメ」の再評価が進み始めていた。

 1998年より以前の韓国では日本文化が厳しく規制されていたと言われているが、90年代前~中盤に制作された一部の日本産アニメは日本での放映とほぼ同時期に吹き替え放送が行われており、20~30代の韓国人にとっても「思い出の作品」として記憶されている。それらの作品を懐かしむ風潮は、当初こそ「レトロブーム」の位置付けにあったのだが、ファンたちの熱狂が高まるにつれて商業的な取り扱い規模が拡大。2016年になると、韓国の若者カルチャーのメッカとも言える学生街・弘大には少女向けレトロアニメグッズの専門店が登場し、人気コスメブランド・Etude Houseは『愛天使伝説ウェディングピーチ』とのコラボレーション商品を発表した。

 その時流に併せて、放映当時はまだ生まれてすらいなかった10代の若者たちまでもが、当時のコンテンツを積極的に消費・再生産する動きを見せ始めた。誰かにとって「懐かしい」コンテンツを、自分たちにとっては「新しい」コンテンツとして楽しむようになったのだ。

 あの時、文化的感度の高かった若者たちの間でぼんやりと醸成されていた「古きを新しきとして楽しむ」ムードが、後に発生する爆発的なNewtroブームの基盤になったと言っても過言ではないかもしれない。

■K-POPに見るNewtroブーム
 その後、2017年から2018年にかけて、日本産シティポップブームが韓国に到来。感度の高い若者が集まる店に足を運ぶと、山下達郎や杏里の楽曲がBGMで流れている……といった現象が散見されるようになった。

 それと同時に、懐かしの歌謡曲や韓国産AORをディグする流れも徐々に活発化していく。そして、ミレニアル世代のアーティストたちに発見された過去の音楽たちが、カバー曲として、あるいは再構築された新曲として、K-POP市場に姿を表すようになった。

 Newtro系K-POPの走りといえば、2017年にIUが発表した「Last Night Story(昨夜の話)」が挙げられる。当時はまだNewtroという言葉は誕生していなかったものの、「1993年生まれのIUによる、1987年の男性アイドルグループ楽曲の、レトロ調な再解釈カバー」という点で、この曲は極めてNewtro的であると言えるだろう。

 日本では「オジャパメン」というタイトルで、『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)の一コンテンツとして知名度を上げたこの楽曲は、元々は消防車(ソバンチャ)というグループの楽曲である。消防車は韓国初の男性アイドルグループとも言われており、当時は女学生を中心に相当な人気を博していたそうだ。

 また、「韓国のシティポップ歌手」として再びスポットライトを浴びることとなった往年のアーティストもいる。キム・ヒョンチョルもその一人だ。

 1989年にリリースした楽曲「久しぶりに」を人気歌手・Georgeがカバー、ヒットしたことが後押しとなり、10年以上のブランクを経て韓国音楽界に再登場することとなった。彼の最新アルバム『10th – preview』のゲストには、Georgeの他にもアイドルグループ・MAMAMOOのファサ&フィイン、女性デュオ・屋上月光(OKDAL)、女性ソロシンガー・SOLEと、現在のK-POPシーンを牽引するアーティストたちが名を連ねている。

 アイドル系女性シンガーの楽曲にもNewtro系ソングが増えているが、楽曲だけでなくミュージックビデオにもNewtro的要素が存分に含まれている点にも注目したい。

 代表的なのは、Wonder Girls出身メンバー・ユビンのソロデビュー曲「淑女」だろう。ポスト・ディスコ風の軽快なダンスミュージックをバックに、セル画アニメ風の映像やネオン煌めくサイバーパンク風の町並みなど、Future Funkの影響を存分に受けたミュージックビデオが目を引く。

 また、日本人アイドル・YUKIKAのソロデビュー曲「NEON」は、シティポップ系K-POPとして一時話題を博した一曲だ。ミュージックビデオ内から読み取れる数字には「1989年のアイドルとの20年越しの邂逅」が暗示されており、Newtroの現況を表したような仕上がりとなっている。

 やや変わり種のNewtro系ソングとしては、オーディション番組出身の歌手・Eyediの「& New」が挙げられる。カイリー・ミノーグの「Turn It Into Love」を彷彿とさせるようなトラックには、ピッチの安定しないミックスが施されており、古いカラオケ映像を模したチープな映像やドリームポップ風の切なげなメロディと相まって、どことなくVaporwave的な空気を醸し出している。

 ポップソングに留まらず、韓国ロックにもNewtroの風が吹きはじめている。メンバー全員が1992年生まれの4人組グループ・JANNABIは、自らを「グループサウンズ」と称しながら活動を行っている。

 2019年5月、韓国GAONチャートで1位を獲得したヒット曲「躊躇する恋人たちのために」は、正に韓国でグループサウンズが全盛期を迎えていた70~80年代のような楽曲だ。しかし、彼らを支持しているのは当時の音楽を聞いていた世代ではなく、やはり彼らと同じミレニアル世代の若者たちなのだという。

 韓国国内では、すでに文化消費の新たなサイクルとしてその地位を確立しつつある「Newtro」。このサイクルは今後も下の世代へと継承されていくのか、それともまた新しい若者文化が登場するのか――移り変わりの激しい韓国トレンドから目が離せない。(飯塚みちか)

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