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加藤ミリヤがライブで体現した“Femme Fatale” 『CELEBRATION』ツアー東京公演を振り返る

リアルサウンド

18/8/7(火) 18:00

 6月3日に幕を開けた加藤ミリヤの全国ツアー『「CELEBRATION」tour 2018』。6月20日にニューアルバム『Femme Fatale』をリリースすることが発表されていたが、ツアーはそれに先んじてスタートしたこととなり、アルバムとは異なる独自のツアータイトルも掲げられている。通常、新たな作品の発表とともに行われるツアーでは、当然アルバムからの楽曲が数多く披露されることになるが、今回の場合、序盤の公演のオーディエンスはアルバム未聴の状態でそれを味わうこととなる。ミリヤにとって初となる今回の試み、そこには果たしてどんな意図があるのだろうか? その答えを見つけるべくツアーの4公演目となる6月11日のZepp Tokyoへと足を運んだ。

 開演時刻を回り、客電が落ちると衝撃のオープニングが待っていた。教会の鐘の音が荘厳に鳴り響き、ウェディングマーチが流れはじめる。緞帳が開くとそこにはダンサーたちとともに白無垢のミリヤがいた。ステージ上には絢爛豪華で、ド派手なバックドロップが吊るされ、とんでもなく“おめでたい”ムードで会場が支配される。なるほど。ツアータイトルの“CELEBRATION”に紐づいた“結婚式”をテーマにしたライブになるのだな、と瞬時に納得したのだが、1曲目に披露されたのがまさかの「I HATE YOU」だったことに驚いた。相手への強烈な愛情を逆説的に歌った楽曲ではあるが、この演出でいきなり“HATE”とは(笑)。こういう洒落っ気の利いたことをさらりとやってこなすのがミリヤの憎いところ。今回もまた1曲目から彼女の世界にがっつりと引き込まれた。

 そこからは、ダンサーと一緒にハイレベルなダンスを披露しながら力強いボーカルを響かせたり、ミディアムテンポのナンバーでシンガーとしての類稀なスキルを叩きつけたり、ファンたちの大合唱を誘いハッピーな空間を作り上げたりと、多彩な楽曲群で“おめでたい式”を展開していく。もちろん幾度かのお色直しや、バンド&ダンサーによる余興を織り交ぜることも忘れない。

 そんな中、特に強い光を放っていたのが新作『Femme Fatale』からのナンバーだったように思う。自身のルーツでもあるヒップホップ/R&Bを現代のトレンドを咀嚼した上で独自の解釈でアウトプットした楽曲の数々は、アーティスト・加藤ミリヤのコアな部分を鮮烈に感じさせるものばかり。しかもこの日のライブの段階でアルバムはリリース前だ。にもかかわらず観客はそれぞれの楽曲を心地良さそうに浴びながらカラダを動かし反応していた。J-POPというフィールドで、あれほどまでにコアな楽曲がしっかり機能している光景が見られることは本当に痛快なことだと思う。

 ハイセンスでエッジーなライブの演出、構成も含め、ともすればアーティストのエゴ、自己満足と受け取られかねない表現を、すべての人が楽しめる最高のエンターテインメントへと昇華させる手腕は本当に素晴らしい。それは、コアとマスの境界を軽々と飛び越え、時には思い切りどちらかへ振り切ってみたり、時には絶妙な塩梅で融合させてみたりというバランス感覚を持っているミリヤだからこそ成しえることなのだろう。今回、アルバムリリース前にツアーをスタートさせたのは、自らが生み出した楽曲の持つ可能性をあらためて確認、証明する意図がもしかするとあったのかもしれない、などということを思った。

 ほぼMCなしで本編を駆け抜けたミリヤが、アンコールで今回のライブに込めた思いを語ってくれた。

「この世の中に生まれたことをお祝いしたいなって思ったんですよ。そのための“CELEBRATION”。とにかく“おめでとう!”だなって。毎日いろんなことがあるけど、楽しくて、おめでたくて、ありがとうと思える時間になればと」

 終演後、確かに楽しくておめでたい気持ちになり、何気ない日々の生活に感謝を抱くことができている自分に気づく。おそらく会場にいるすべての人がそう感じることができていたはずだ。それは、華麗な衣装や演出の効果はもちろんあったとは思うが、何よりもミリヤの思いが込められた歌の力によるものだろう。アルバムタイトルの『Femme Fatale』は、“運命の人”といった意味で名付けられたのだという。同時に“魔性の女”という意味もあるとか。つまるところ僕らにとっての加藤ミリヤこそが“Femme Fatale”ということなのだろう。唯一無二のその感性に、一生たぶらかされたい。

 ツアーは、8月12日・青森県 六ヶ所村文化交流プラザスワニーでファイナルを迎える。アルバムがリリースされ、6月22日には30歳の誕生日を迎えたミリヤ。そんなおめでたいトピックが加わることで、彼女のライブはさらに進化していくことになるはずだ。

(取材・文=もりひでゆき)

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