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湯川れい子&矢口清治が語る、映画『ロケットマン』や実体験から見えるエルトン・ジョンの素顔

リアルサウンド

20/1/9(木) 18:00

 2019年12月28日、タワーレコード主催の『タワーアカデミー』音楽・映画連動講座がBillboard cafe & dining(東京 日比谷)にて行なわれた。今回の題材は、エルトン・ジョンの半生を描いた伝記/ミュージカル映画『ロケットマン』。1st sessionでは講師として、作詞家や評論家として幅広く音楽に携わる湯川れい子、MCはラジオDJや音楽ライターとして活躍する矢口清治が登壇した。『ロケットマン』への感想や意見から、エルトンと二人の仰天エピソード、歌詞の考察など、2時間にわたり様々な濃密なトークを展開。実体験に基づいた説得力抜群の湯川れい子のトークには、会場に駆け付けたコアなエルトンファンたちも大いに満足した様子だった。

「ロケットマン」は事実と異なる“ファンタジー”が混ざっている

湯川れい子、矢口清治

 まず『ロケットマン』を観た湯川は、事実に反して描かれていたエピソードがあったことに驚いたという。具体的には、1970年にアメリカ上陸を果たしたエルトンが、トルバドールのステージに立ち、「Crocodile Rock」を披露した場面だ。まず事実として「Crocodile Rock」がリリースされたのは2年後の1972年。そもそも当時のエルトンはとにかく暗く重い哲学青年のような印象で、このような明るい楽曲を生み出す段階ではなかったと指摘。とはいえ、『ロケットマン』の制作にはエルトンが携わっていることから、映画として面白くするための成り行きだったのだろうと理解を示した。矢口は、実際は演奏していなかった「Crocodile Rock」を入れたことについて「アメリカで成功することのメタファーだったのでは」と考察した。

 エルトンの母親やマネージャー兼恋人だったジョン・リードについては、「あんなに嫌な奴だったと思わなかった!」とストレートな感想を述べ、会場を笑わせる湯川。湯川が実際にジョン・リードに会った際は「ハンサムで人当たりの柔らかい人」という印象だったという。同時期にマネージャーを務めていた世界的ロックバンド、クイーンからも「決して嫌な奴ではなかった」と言われていることから、ビジネスマンとしてはやり手だったのだろうと推測した。ここで、フレディ・マーキュリーとジョン・リードが寄り添っている極秘写真をお披露目。湯川が持参したお宝写真に、多くの観客たちがカメラを向けた。エルトンの相方であるバーニー・トーピンの印象は、目が綺麗で小柄、エルトンに対しても常に一歩退いているといった印象で、映画のイメージ通りの控えめな人物だったと語った。

エルトンの心を掴んだきっかけは、使い捨てカイロ

 1984年頃、ラジオ日本『トップ40』の中で、ロンドンにいたエルトンへ電話インタビューをした思い出を語る湯川。時差のため早朝4時からロンドンに電話を繋げ、電話口に出たエルトンに「まず皆さんに挨拶をしていただけますか?」言ったところ、「Well,ah…」と少し悩んだ後にガシャン! と突然切られてしまったのだとか。さらに1~2カ月後に日程を組みなおしたが結果は同じ。ガッカリしながらも、どうすればエルトンの懐に飛び込めるのだろうと考えた湯川は、初めて対面する2005年に“使い捨てカイロ”を持参し、実際にエルトンの背中に貼り付けたという驚きのエピソードを披露。エルトンはカイロの暖かさに大変感動し、安心したように心を開いてくれたのだと言う。

 過去の電話インタビューでの思い出を湯川が伝えると、「本当に申し訳ない。あの頃の自分は、ドラッグ中毒などで、まともに話ができる状態ではなかった」と謝罪したエルトン。その際のインタビューでは、自分と関係を持っていた男性たちがエイズを発症して死んでいく中で、自分はエイズ検査で陰性の結果が出たことから「神様が、お前にはやることがあるからと救ってくれたのだ」と考え、真面目にリハビリに取り組むようになったと、人生の転機を迎えるきっかけを語ってくれたとのこと。当時のインタビューテープは、湯川が今も大切に保管している。

 湯川から「エルトンのお気に入りだった」と言われた矢口は、なんとエルトンから腕を肩に回されたことまであるのだとか。フレンドリーに接してくれた理由として矢口自身は、「エルトンはとても繊細な人で、様々な目論みがあって近づいてくる人たちを多く見てきたからこそ、自分がエルトンの純粋なファンでここにいるのだとわかっていたのでは?」と考察し、改めて感動を覚えていた。

両者にとってのエルトンの名作を振り返る

 二人がエルトンのアルバムと楽曲を1つチョイスして語るコーナーで湯川は、1973年秋に発売されたアルバム『Goodbye Yellow Brick Road』を挙げ、「エルトンの全キャリアの中で最も重要なアルバムだった」と語った。邦題は『黄昏のレンガ路』と訳されているが、本来“Yellow Brick Road”は映画『オズの魔法使』のエメラルド・シティへ向かう黄色いレンガ路のことと解釈し、華やかな世界への道を拒絶するバーニーの想いを示したタイトルだったのではないかと考察した。

エルトン・ジョン『Goodbye Yellow Brick Road』

 さらに、『オズの魔法使』の主演であるジュディ・ガーランドが自身もセクシャルマイノリティーの当事者であったことや、劇中歌の「Over the Rainbow」がセクシャルマイノリティー(LGBT)の象徴であるレインボーフラッグへ繋がる楽曲であることに触れ、エルトンの人生や作品への解釈の変化にも繋がっていくのではないかと述べた。

 また、アルバム収録曲の「Candle in The Wind」は、オリジナル版と1997年のリメイク版との聴き比べが行なわれ、歌詞が大幅に変更されていることを再確認。オリジナル版はエルトンが大ファンであったマリリン・モンローへ捧げる曲として作られたものだ。〈ハリウッドはスーパースターを作り あなたの苦しみはその代償でした。 あなたが亡くなった時でさえ 新聞はあなたを追いかけ みんなこう書きたてたのです。 マリリン全裸で発見される と〉。そうオリジナル版の歌詞を湯川が朗読すると、あまりに衝撃で悲痛な言葉に会場中が胸を痛めた。対する矢口は、1975年にリリースされた『Captain Fantastic and the Brown Dirt Cowboy』を最も好きなアルバムと語り、タイトル曲をチョイス。映画の中にも描かれていた売れない苦労時代の二人の様子が全て語られており、パーソナルな一枚だったのだろうと評価した。

エルトン・ジョン「I’m Still Standing」

 映画におけるキー曲としては、「I’m Still Standing」の名前が挙げられた。70年代後半から距離を取っていたバーニーとエルトンが再びコンビを組んでリリースしたこの曲は、躍動感あふれるイキイキとしたメロディが特徴。挑戦的な歌詞は、ジョン・リードに対する当てつけではないかと湯川が推測した。最後に矢口が選んだのは、『ロケットマン』でエルトン役を務めたタロン・エジャートンとのデュエット曲「(I’m Gonna) Love Me Again」。映画全体のテーマ性を掬い取った2019年の名曲と紹介した。そして、全時代を通じて湯川が選んだのは、エルトンそのものの存在感と、バーニーとエルトンの友愛にも通じる「I Guess That’s Why They Call It The Blues」。二人の関係性が強く感じられる、忘れられない歌だと語った。

エルトン・ジョン「I Guess That’s Why They Call It The Blues」

 映画『ロケットマン』のDVD&ブルーレイは2019年12月25日に発売。本講義を思い返しながら観ると、また違ったエルトンの魅力が感じられるかもしれない。

■南 明歩
ヴィジュアル系を聴いて育った平成生まれのライター。埼玉県出身。

■発売情報
『ロケットマン』
発売中
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
ブルーレイ+DVD<英語歌詞字幕付き> ¥3,990+税
4K Ultra HD+ブルーレイ<英語歌詞字幕付き> ¥5,990+税
(C)2019 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

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