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2018年に“納得”できる形で成立 『アリー/ スター誕生』ブラッドリー・クーパーの堅実な手腕

リアルサウンド

18/12/26(水) 10:00

 8割は「酒と泪と男と女」のハリウッド実写版と言っていい傑作、『アリー/ スター誕生』(2018年)が遂に公開された。稀代のポップ・スターであるレディー・ガガとブラッドリー・クーパーのダブル主演(なお監督もクーパ-だ)。『スター誕生』(『スタア誕生』)は1937年版、1954年版、1976年版と、既に3作が存在する作品で、毎回あの手この手のフレッシュな要素を持ち込み、どれも輝かしい名作として語り継がれている。そして本作『アリー』は、『スター誕生』を冠するに相応しい、いや、過去最高の『スター誕生』と言える仕上がりだ。

参考:ブラッドリー・クーパーが明かす、監督挑戦への本音 「恐怖を抱いて躊躇してしまっていた」

 『スター誕生』のあらすじはシンプルである。才能はあるが無名の女が、名声を持つ男と出会い、恋に落ちる。そしてショービジネスの世界で、女は才能を発揮して瞬く間にスターへと駆け上がる。一方、男は壁にぶつかり、名声を失っていく。二人の関係は逆転し、やがて……という男女の悲劇的な恋模様と、ショービジネスの世界の残酷性を描くものだ。本作も大筋はオリジナルと変わっていない。しかし、だからこそ凄いと私は思う。この物語を2018年に「納得」できる形で成立させた点は驚愕に値する。

 この物語は現代の視点で見たとき、河島英五で言うところの「時代おくれ」な側面が否めない。最初の『スタア誕生』は1937年、そもそも離婚のハードルが高かった時代の物語である。しかし今日では離婚はごくごく平凡なことであり、特にショービジネスの世界では日常茶飯事だ。本作では売れない歌手のアリーが、有名カントリー歌手ジャクソンと、先に書いたような物語を辿っていくわけだが……。とにかくジャクソンの落ちていく様が凄まじい。実際にアルコール依存症だった過去があり、俳優としても酔っ払って記憶を飛ばす男を演じた『ハングオーバー!』シリーズ(2009年~)、躁うつ病を患う男を演じた『世界にひとつのプレイブック』(2012年)、戦争のPTSDに苦しむ狙撃手を演じた『アメリカン・スナイパー』(2014年)など、自分を見失う役を演じ続けてきたクーパーの本領発揮だ。ジャクソンの決定的な“やらかし”シーンでは「何もそこまで……」と胸が痛む。しかし、こうした墜落が徹底して描かれるからこそ、同時に一つの疑問が浮かんでくる。クーパーの過去作で言うところの『そんな彼なら捨てちゃえば?』(2009年)、早い話がさっさと別れればいいのだ。そう理屈では理解できるのだが――。

 ところが、この映画はアリーがジャクソンを見捨てない(見捨てられない)のが納得できるように、丁寧に2人の人間性を描いていく。スーパーマーケットの駐車場という多くの観客が身近に感じる舞台に、2人が有名人/一般人の垣根を超えて、音楽について本音で語り合うシーンや、ジャクソンがアリーを舞台に上がらせ、2人の力で大勢の観客を沸かせるシーンなど、アリーにとってジャクソンが人生のキーパーソンであることが非常にじっくりと描かれていく。その一方で、“決定的なやらかし”の後に涙ながらに懺悔するジャクソンなど、観客に「彼も悪い人ではない」と思わせるシーンも忘れない。ブレイクした途端にアリーの音楽性が変わり過ぎでは? とも思ったが、テイラー・スウィフトという実例を考えれば、ない話ではない。前述の駐車場や、こじんまりとした家など、派手になりすぎない、地味とも言える画面の連続で、2人のドラマを身近な出来事のように感じさせ、「こういうズルズルと関係が続いてしまうパターン、ダメなやつだけど、あるよね……」と観客を納得させてしまう。そして観客が存分に2人を身近に感じたとき、物語は悲劇と、全てを総括するアリーの熱唱で幕を閉じる。

 本作の大黒柱はレディ・ガガーというスターだ。しかし、本作を1937年のオリジナルを超える領域まで高めているのは、監督・主演のブラッドリー・クーパーの堅実な手腕である。2018年に作る『スター誕生』として、レディー・ガガの音楽映画として、両方の面で理想的な形だと言えるだろう。(加藤よしき)

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