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LOVE PSYCHEDELICO、TOHOシネマズ立川立飛にて“最高音質”のライブを披露 コロナ禍に提示した新しいライブの在り方

ぴあ

撮影:田中聖太郎

LOVE PSYCHEDELICOが10月8日(木)、1stアルバム『THE GREATEST HITS』(2001年)の完全再現ライブ『LOVE PSYCHEDELICO “LIVE THE GREATEST HITS 2020”』を開催した。

会場は9月10日にオープンしたTOHOシネマズ立川立飛。カスタムオーダーメイドスピーカーを使用した独自規格”プレミアムシアター“、”轟音シアター“を設置するなど、音響システムに徹底してこだわっている映画館だ。今回のスペシャルライブは、以前からTOHOシネマズ日比谷(スクリーン1)の音響システムを高く評価していたLOVE PSYCHEDELICOのNAOKIが、TOHOシネマズ立川立飛の音響監修を手がけたことをきっかけに実現した。昨年に行われた初のアコースティックツアー『“TWO OF US” Tour 2019』でも同劇場と同じ仕様のカスタムスピーカーを採用していたLOVE PSYCHEDELICO。ハイスペックの音響設備を活かしたこの日のコンサートでは、日本史上最高峰と言っても過言ではない良質のサウンドによって、名盤『THE GREATEST HITS』に新たな息吹を吹き込んでみせた。

TOHOシネマズ立川立飛のスクリーン7(プレミアムシアター)に入ると、ライブハウスや音楽ホールとはひと味違った雰囲気。座席に置かれたカードには、「このスクリーンではすべてのスピーカーからの音がピタリとひとつに聴こえます。これにより映画の台詞もオーケストラの繊細なハーモニーも、今までにない録音されたままの音を劇場で堪能出来るようになりました。この部屋で鳴る一夜会限りの『LIVE THE GREATEST HITS』を是非お楽しみください。」というメッセージが。その言葉通り、この日の音響は、これまでに経験したことがないほどの素晴らしさだった。

ライブは『LADY MADONNA〜憂鬱なるスパイダー〜』からスタート。NAOKIのギターリフ、KUMIのボーカルが響いた瞬間、会場全体がLOVE PSYCHEDELICOの世界観に染め上げられる。さらに『Your Song』『Last Smile』とアルバム『THE GREATEST HITS』の曲順通りに進行。「ぴあ」アプリユーザー、LOVE PSYCHEDELICOのファンクラブ限定で抽選により招待された80名のオーディエンスも身体を揺らしながらこの特別なライブを楽しんでいた。

2001年にリリースされた『THE GREATEST HITS』は、LOVE PSYCHEDELICOの1stアルバムであると同時に、00年代のロックミュージックの在り方を象徴している作品だ。60年代、70年代のポップミュージックのムードと00年前後における最新のビートと融合させた本作は、200万枚を超えるセールスを記録。日本の音楽シーンに大きな影響を与えた。本作のベースになっているのは、KUMIとNAOKIが学生時代に制作したデモ音源。20周年のタイミングで行われたインタビュー(『LOVE PSYCHEDELICOが語る、20年の歩みと求めるサウンド 『いいときも悪いときも、常に音楽と共にある』)でふたりは『自分たちのルーツは60年代、70年代にあるけれども、それを再現したかったわけではないし、自分たちが音楽を作る時代のムードやリズムが自然とミックスされたというのかな』(KUMI)『音楽はまさに“ムードとリズム”がすべてだよね。アレンジについて『こうあるべき』とか話し合ったことはないけど、ふたりで作ると当たり前のようにそうなるというか』(NAOKI)と語っているが、“ルーツミュージックと現代的なビートの融合”という本作のスタイルは必然的に生み出されたものなのだ。

撮影:田中聖太郎

さらに特筆すべきは、『THE GREATEST HITS』が約20年経った現在もまったく色褪せることなく、普遍的な魅力を放ち続けていること。10年代の音楽シーンはEDMなどのダンスミュージックが中心で、“大人数でブチ上がる”パーティ的な音楽がトレンドだったが、ここ数年は少しずつ生楽器本来の響きを活かしたサウンド、フォーキーな楽曲に流れが戻ってきている。(テイラー・スウィフトの新作『foklore』に代表されるオルタナ・フォークの盛隆は、現在の潮流を端的に示していると思う)底流しているのは、ルーツミュージックの現代的な解釈という方法論であり、それは『THE GREATEST HITS』の在り方ともつながっている。この日のライブはほぼ原曲通りのアレンジで演奏されていたが、それはおそらく本作のタイムレスな魅力に対するKUMI、NAOKIの確信の表われであり、「そのままの音で楽しんでほしい」という思いでもあったのだろう。

電子音を抑え、アコースティックな音響にこだわった演奏、サウンドメイクも印象的だった。生楽器そのものの音を活かしたサウンドの構成はもちろん、TOHOシネマズ立川立飛の音響スペックを活かすため。以前のインタビューでNAOKIは「この映画館のスピーカーのスペックをすべて活かせる機材は存在しない」と語っていたが、それはつまり、ミュージシャンが意図した音をすべて具現化できるということでもある。実際、この日のライブにおけるサウンドは本当に素晴らしかった。まるでヘッドフォンで聴いているかのような密着感と生演奏特有のダイナミクスが同時に得られる音響は、まさに圧巻だった。特に心に残ったのは、『These days』『A DAY FOR YOU』などアコースティックギターの響きを活かした楽曲。バンド全体の豊かなグルーヴを感じながら、深沼元昭(G)、高桑圭(G)をはじめとするバンドメンバーのプレイもじっくり味わうことができる、最高の音楽体験だった。楽曲の世界観を際立たせるライティングや映像を含め、映画館の設備をフルに生かしたこの日のライブは、あらゆる意味で“史上初”だったと言っていい。

『LOVE PSYCHEDELICO “LIVE THE GREATEST HITS 2020”』のもうひとつの意義は、コロナ禍におけるライブの新しい在り方を提示したこと。今年の3月以降、あらゆる公演が延期もしくは中止を余儀なくされ、いまもなお、様々な模索が続いていることは周知の通り。LOVE PSYCHEDELICOも20周年を記念したツアーが延期になったが、「今年ライブを楽しむ機会がなかったファンへのプレゼントにしたい」というKUMI、NAOKIの希望により実現した今回のライブでふたりは、“優れた音響で名盤をじっくり楽しむ”という新たなスタイルを体現してみせた。観客は歓声、発声は禁止で、拍手や手拍子をしながらの参加だったが、アーティストと近い距離で豊かな音楽を堪能できる貴重な機会になったはず。現状は“制限された人数のライブ+オンライン配信”が主流だが、映画館のシステムを活用したコンサートもひとつの選択肢になり得るのではないだろうか。

今回の『LOVE PSYCHEDELICO “LIVE THE GREATEST HITS 2020”』は映像収録も兼ねており、後日、有料配信される予定。今後のアナウンスを待ちたい。

取材・文=森朋之

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