Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

仲野太賀が2020年引っ張りだこの理由 『恋あた』などで視聴者を引き込む“溜め”の演技

リアルサウンド

20/11/3(火) 6:00

 これまでの名バイプレイヤーの印象から、今年に入ってから主演作の放送・公開が相次ぐ仲野太賀。主演映画は『静かな雨』、現在公開中の『生きちゃった』、間も無く公開予定の『泣く子はいねぇが』と3本続き、それ以外にも『今日から俺は!!劇場版』『MOTHER マザー』と、出演作は枚挙にいとまがない。

 ドラマでも『あのコの夢を見たんです。』(テレビ東京系)で主役を演じ、これまであまり馴染みのなかった恋愛ドラマ『この恋あたためますか』(TBS系、以後『恋あた』)への出演で注目を集めている。

 一見したところの彼の印象は、朴訥、素朴、ひょうひょうとしている、落ち着いている、安定感、安心感があると言ったところだろうか。主役と言えどどこにでもいそうな、冴えなくて不器用で情けない名もなき男を演じることが多く、ストーリー中でもなんだか苦悩しがちだ。

 ただ不思議でならないのが、このワードの並びからは普通連想されないような「掴みどころのなさ」が彼にはあり、とてつもない「吸引力」があるのだ。「正統派・王道」か「個性派・演技派」かで言えば確実に後者に違いないが、「キワモノ」ともまた全く違う独自ポジションを築けているのが仲野太賀が他の誰とも被らない所以だろう。彼が演じているのはいつだって「キャラクター」ではなく、そこに息づく「人の営み」なのだ。それゆえ通常、見どころにはなりづらい「溜め」「受け」の期間にどんどん観る者を引き込んで離さない。

 映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』や『生きちゃった』での役どころが象徴的だ。前者では、一見したところ順風満帆な生活を送る青年ながら、実は大好きな母親から拒絶され続け、壮絶な人生を送ってきたタイジという難役を圧倒的な演技力で熱演した。後者では、妻の不貞現場に遭遇しながらも本音を伝えられない厚久役を演じるが、両作ともに言えるのが「素朴」だが「屈託がない」ともまた違う、「言葉少な」だが「寡黙」ではない、「何かを諦めて手放している」けれど「絶望しきっている」のではない、「情けない」んだけれど「腐り切っている」訳ではない……そんな“生々しい”存在のいたたまれなさをそのまま宿して見せてくれる。

 この感情のグラデーション、いっそ振り切れられたら楽なのにどちらにも偏り切れない感情のスイング、矛盾を同居させる二面性、流動的な「生モノ」で捉えようのない心の渦き、機微こそが「嘘のない」リアルな「生」を生んでいるのだろう。引き込んで引き込んで、その後ぶつけてくれる感情の結露はもう圧巻で、徐々に泣かせるのではなく、役柄と同じように観客の心の高まりの照準を合わせられるのがお見事である。『生きちゃった』でもそれまで全く泣く予兆を感じさせずに、ラストシーンにいきなり涙を吹きこぼさせてくるんだから、一瞬何が起きたかこちらもわからなくなったくらいだ。

 それゆえ、そんな彼にかかれば振り切れた役どころは朝飯前なのだろう。コメディー要素満載の役柄ももちろんフィットする。映画『50回目のファーストキス』では、主演の山田孝之にムロツヨシ、佐藤二朗と強烈な個性の塊の中に放り込まれても全く存在感が霞まない。むしろその強者の中にあって観賞後にありありと彼の姿が思い出せるのだから、とんでもない。

 現在放送中の『恋あた』では、森七菜演じるヒロインの樹木とともにコンビニスーツ開発に取り組む試作担当の新谷役を演じる。新谷という役どころもまた、コンビニ社長で地元の先輩・浅羽(中村倫也)にただただ忠実な後輩という訳でもなく、また社員の中でもずっと調理室にいる元・パティシエ志望者だったりと、周囲とは馴染めているようで少し違った立ち位置だ。

 ここでも、前述の仲野の「溜め」の演技がモノを言わせていた。SNSなどでも話題騒然の、かの有名な壁ドンからの「再起動」シーンだ。それまで、樹木側もまた我々視聴者も新谷に“男性性”を感じるタイミングはなかったが(頼れるお兄さんポジションだった)、ここに来て一気に引き込んでくる、これが仲野太賀の油断ならないところだ。通常、恋愛もので報われない想いをする側というのは徐々に徐々に相手と距離を縮めるも最後に成就しないというパターンが多いが、今回の新谷には仲野特有のどこかで一気に距離を詰め、自分の気持ちを投げかけてくるポイントがあるのではないかとつい期待してしまう。

 温度感が高い訳でもなく、テンポが良い訳でもない“誰もにとってのなんてことない日常”、あるいは“じっとりとした後味の悪くつきまとう過去の記憶と共に、それでも淡々と生きるしかない日常”を飽きさせずに魅せられる仲野が、比較的わかりやすく起承転結が用意されており、色んなアクシデントに見舞われる「恋愛ものの連ドラ」に加わると、これまでの“胸キュン”ポイントとはまた一味違う名シーンが生まれるのだろう。さらに今までの作品では、何か厄介に“巻き込まれる側”だった仲野が、本作では“巻き込む側”で“行動を起こす側”に回っているのも新鮮味がある。

 「生モノ」の感情を捉える彼自身には「旬」などなく、きっとこのままどんどん自身を更新し拡張していくのだろう。今から「もっと歳を重ねた後の演技」も楽しみだと思わせてくれる非常に稀有な存在だと心底思う。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
『この恋あたためますか』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:森七菜、中村倫也、仲野太賀、石橋静河、飯塚悟志(東京03)、古川琴音、佐藤貴史、長村航希、中田クルミ、佐野ひなこ、利重剛、市川実日子、山本耕史
脚本:神森万里江、青塚美穂
プロデュース:中井芳彦
演出:岡本伸吾、坪井敏雄
主題歌:SEKAI NO OWARI「silent」(ユニバーサルミュージック)
製作著作:TBS
(c)TBS

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む