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佐々木蔵之介、ミステリーに明るさを添える 『シャーロック』で見せるコミカルさと温かさ

リアルサウンド

19/11/25(月) 6:00

 難解な事件が起こると、犯罪捜査専門コンサルタントの誉獅子雄(ディーン・フジオカ)を無理やり巻き込んで「気になるよな?」「盛り上がって来ただろう?」と捜査するよう焚きつけたり、「鍵開いてたよ」と言いながら若宮潤一(岩田剛典)の住む部屋へ何食わぬ顔で勝手に上がり込んだり、事件の捜査では部下の小暮(山田真歩)を走り回らせて、自分はほとんど動かずに楽をする。現在フジテレビ系で放送中の『シャーロック』に登場する、佐々木蔵之介が演じる江藤礼二は、ミステリードラマの刑事とは思えない軽いノリで、このドラマにユーモラスな空気をもたらしている。

参考:『シャーロック』岩田剛典が確立した“ワトソン”としてのあり方 「最後」を予感させる感傷的なエピソードに

 そもそも、江藤は第1話の初登場シーンから意表をついてきた。被害者の死亡現場に残された血痕を見て「まるで東京の地図みたいだな」と呟いたのだ。刑事はそういう現場を見慣れていて感覚がマヒしている、という見方もできるだろうが、のっけからの不謹慎な発言に驚かされた。その後の江藤はまさにこの第一声に象徴されるように、お調子者で飄々とした振る舞いが多く目立つ。

 例えば、傍若無人な獅子雄にいら立つ若宮に「普通の我々はああいう人間を利用すればいいんだよ」とあっけらかんと言ってのけ、開き直った態度を見せる。江藤は原作のレストレード警部にあたるキャラクターで、事件に行き詰まるとホームズに手助けを求めるところや、実際の捜査や事件解決はホームズによるものなのに、世間的にはその手柄は警部のものになってしまうところなど、その人物像や背景が踏襲されている。

 しかし、原作のレストレード警部がそうであるように、江藤も決して無能というわけではない。天才的な才能を持つ獅子雄と比べてしまうと、捜査能力や勘の働き方などでは劣ってしまうが、いざとなったときの行動力や、刑事としての情熱や誇りを確かに持っている。だからこそ獅子雄も彼を信頼した上で捜査に乗り出すことができているのだ。

 そうした江藤の側面が非常によく出ていた印象的なシーンがある。第5話で、息子を失った悲しみから復讐心で犯罪に手を染めてしまった母親(若村麻由美)に、真相がすべて明らかになった後で江藤が「もう、泣いてもいいんじゃないですか」と温かい言葉を向けたのだ。表面的な軽いノリの奥にある江藤の優しさ、深みのある人間性が伝わってくる場面だった。

 江藤が魅力的なキャラクター像になっているのは、佐々木蔵之介が生き生きと演じていることが一番の要因だ。佐々木のこれまでの出演作を振り返ると、渋めの落ち着いた役が多い印象だ。今回と同じ刑事役といえばTBS系で2009年から2013年に放送された主演ドラマ『ハンチョウ~警視庁安積班~』シリーズが思い起こされる。とはいえ『ハンチョウ』シリーズでは部下たちからの信頼も厚い仕事熱心な熱血刑事だったため、軽薄でコミカルな面が前面に押し出されている江藤とはだいぶイメージが違う。

 また、主演映画『超高速!参勤交代』(2014年)ではコミカルなキャラクターで大いに笑いを誘い、第38回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を獲得するなど高い評価も得ている。しかし、このときはお人好しで大らか、家臣たちからも慕われている藩主の役で、今回の江藤とはまた一味違うコミカルさだった。江藤の場合は、明るく愉快なだけではない、ズルくていい加減、サボることと手柄を立てることばかりを考えている、ダーティーなイメージを併せ持ったコミカルさなのだ。

 実はこうした役柄こそが、佐々木の真骨頂と言っても過言ではない。現在公開中の映画『ひとよ』(白石和彌監督)でも佐々木は、一見真面目で良い人そうだが、ある出来事をきっかけに豹変するという役柄を演じている。幅広く懐の深い演技力を持っている佐々木だからこそ、一つの役の中で様々な面を見せることができるのだ。

 その演技力は、佐々木が舞台からキャリアをスタートさせた役者であることと密接に結びついている。1990年代、独特な演出舞台で小劇場界を席巻した劇団「惑星ピスタチオ」に所属していた佐々木は、旗揚げ公演から退団する1998年まで看板俳優の一人として活躍していた。劇団公演では一人何役もこなすことは珍しくなく、1作品の中で様々な役を演じてきた経験は、現在の佐々木の演技の幅広さに繋がっているのではないだろうか。そして現在も年に1本程度のペースで舞台へ出演していることにより、彼の演技力は常に磨かれているのだろう。

 『シャーロック』もいよいよ11月25日の放送で第8話を迎える。終盤に差し掛かり、原作で最強の敵として描かれているモリアーティ教授にあたる守谷壬三が今後どのような形で登場するのか、期待が高まる。恐らく一筋縄ではいかない手ごわい守谷との対決へと向かう中、佐々木演じる江藤がどのような役割を担うのかにも注目したい。

■久田絢子
フリーライター。新聞ライター兼編集(舞台担当)→俳優マネージャー→劇場広報→能楽関連お手伝い、と舞台業界を渡り歩き現在に至る。ウェブ「エンタメ特化型情報メディアSPICE」等で舞台・音楽などのエンタメ関連記事を中心に執筆中。

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