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立川直樹のエンタテインメント探偵

忙しい中でも観ておいてよかった寺山修司の代表作『毛皮のマリー』、三菱一号館美術館『ラファエル前派の軌跡展』など

毎月連載

第21回

寺山修司没後35年 / 青蛾館創立35年記念公演「毛皮のマリー」チラシ表

 「職業は寺山修司…」という名言を遺して1983年5月4日に47歳でこの世を去った寺山修司の代表作といわれる『毛皮のマリー』の、1970年のニューヨークの老舗劇場ラ・ママの公演向けにラストシーンなどが大々的に改訂された国内未公開の版を東京芸術劇場シアターウエストで観てから帰宅し、1997年3月に26作目のスタジオ・アルバムとして発表され、北アイルランドが生んだレジェンド・ミュージシャン、ヴァン・モリソンの重要作といわれる『ヒーリング・ゲーム』の3枚組デラックス・エディションを聴きながら、この原稿を書いている。

 夜10時。これから明日(3月22日)セルリアンタワー東急ホテルの“金田中 草”で開催されるイベント『An evening of GEISHA』のリハーサルのために出かけなければならないが、70歳を迎えたというのに本当によく仕事をして、よく物を観ていると思う。でも、ラストシーンでの中村中の台詞が寺山修司の究極の演技論であり、劇場論であると思えた『毛皮のマリー』は寺山偏陸のユニークな演出も含めて観ておいてよかったと思えるものだったし、ゴールデンウィークに公開されるゴダールの最新作『イメージの本』(凄い映画だった。“水先案内”で紹介するつもり……)の試写を京橋で観てから三菱一号館美術館で『ラファエル前派の軌跡展』の内覧会(19世紀半ば、英国美術の全面的な刷新を目ざして世の中に衝撃をもたらしたラファエル前派同盟の芸術家たちの素晴しい作品が観られる。何故か頭の中でブリティッシュ・プログレッシブ・ロックが鳴り始めた……6月9日まで開催中)と上野の森美術館の『VOCA展2019』をはしごした後にオーチャードホールで観たブライアン・フェリーのコンサートが期待度をはるかに上回る素晴しい内容だったのである。

『ラファエル前派の軌跡展』
フレデリック・レイトン《母と子(サクランボ)》1864−65年頃、油彩/カンヴァス、48.2×82 cm、ブラックバーン美術館 (C)Blackburn Museum and Art Gallery

歌手としての成熟を感じさせてくれたブライアン・フェリーのコンサート

 70代も半ばになるのに体型も動きも含めて全くダンディさを失わず、『ザ・メイン・シング』からアンコールの『レッツ・スティック・トゥゲザー』まで、ここまでサービスしてしまっていいんですかというような感じの選曲で23曲、1時間半余りのステージ。ブライアン・フェリーのソロ活動には欠くことの出来ない存在である凄腕ギタリストのクリス・スペディングを含む8人編成のバンドの奏でるサウンドはほぼ完璧で、サックス奏者のアール・デコ風美女に僕は見惚れてしまったが、ミラーボールが回る中で情感たっぷりに歌われた『ジェラス・ガイ』や、ピアノだけをバックに歌い、ハーモニカ・ソロもはさんでいたボブ・ディランの『ドント・シンク・トゥワイス』あたりは、ブライアン・フェリーの歌手としての成熟を感じさせてくれた。

 そしてロキシー・ミュージックのファースト・アルバムのオープニングを飾っていた名曲『リメイク・リモデル』の今なお古さを感じさせない前衛性。無駄なMCがほとんどなく、実に濃密な時間の経ち方は昨年亡くなった巨星シャルル・アズナヴールのステージに共通する魅力があった。

 その2日前の夜に夏にやるイベントに出演してもらおうと思っているので“JZ Brat”に観に行ったアコーディオンの女性2人組“巡~MeguRee~”が演奏もヴィジュアルもかなりいいのに、ベタッとしたMCが全くそぐっていないのを思い出してしまったのも仕方がない。妙に日常に引き戻されてしまうMCのせいで以前よりもライヴに行く回数が減っているのが現実。レコードや映画、演劇や展覧会、きちんと作られたテレビ番組(3月15日にEテレで放映された『にっぽんの芸能 「伝心~玉三郎かぶき女方考」』は素晴しい内容だった。オンデマンドで見るに値する)の方に気がいってしまうのも自然の流れかも知れない。

 3月15日に開幕したローリング・ストーンズ展『Exhibitionism』も実によく出来ていた。ロンドン、ニューヨーク、シカゴ、シドニー……と世界の大都市を回ってきて、これまでの動員数が100万人というのも納得の内容。これも近々水先案内で紹介しようと思う。

作品紹介

青蛾館創立35周年記念公演『毛皮のマリー』

日程:2019年3月14日~21日
会場:東京芸術劇場 シアターウエスト
作:寺山修司
演出:寺山偏陸
出演:野口和美/加納幸和/土屋良太/中村中/日出郎/他

『ヒーリング・ゲーム(デラックス・エディション)』

発売日:2019年3月27日
価格:4536円(税込)
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

ヴァン・モリソン『ヒーリング・ゲーム(デラックス・エディション)』

『イメージの本』(2018年・スイス=仏)

2019年4月20日公開
配給:20世紀フォックス映画
監督・編集・ナレーション:ジャン=リュック・ゴダール
出演:ジャン=リュック・ゴダール/ディミトリ・バジル

『ラファエル前派の軌跡展』

会期:2019年3月14日~6月9日
会場:三菱一号館美術館

『VOCA展2019 現代美術の展望─新しい平面の作家たち』

会期:2019年3月14日~30日
会場:上野の森美術館

『BRYAN FERRY WORLD TOUR 2019』

日程:2019年3月13日
会場:Bunkamuraオーチャードホール

にっぽんの芸能『伝心~玉三郎かぶき女方考~ 舞踊“鷺娘”』

放送日:2019年3月15日
NHK Eテレ

『Exhibitionism-ザ・ローリング・ストーンズ展』

日程:2019年3月15日~5月6日
会場:TOC五反田メッセ

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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