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OKAMOTO’S オカモトショウのマンガビレッジ

岡崎京子が描く“ファンタジー”な東京 『ジオラマボーイ・パノラマガール』とあわせて『Pink』を要チェック!

隔週連載

第49回

20/11/9(月)

昼はオフィスで働き、夜はセックスワークをしながら、ペットのワニを飼っている22才の女性を描いた『Pink』。バブル経済真っ只中の東京を舞台に、“愛と資本主義”を描いた岡崎京子の代表作をオカモトショウが紹介します!

── 『Pink』は1989年に刊行された岡崎京子の作品。岡崎さんの原作による映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』が公開され、再び岡崎作品に注目が集まっています。

オカモトショウ(以下、ショウ) そうなんですよ。映画版の『ジオラマボーイ・パノラマガール』の監督は瀬田なつきさん。瀬田さんがドラマ版の『セトウツミ』を監督したときに、劇伴を作らせてもらったんですよ。今回の映画にもコメントを寄稿させてもらったし、このタイミングで岡崎さんのマンガを紹介したいなと。

── 岡崎さんの作品は以前から読んでたんですか?

ショウ じつは全然読んでなかったんですけど、自分の嫁に勧められて、去年、一気に全部読んだんです。『TAKE IT EASY』から順不同で読んでいって、『Pink』を読んだときに「なるほど、こういうことか」と分かったというか。『Pink』には岡崎さんの核みたいなものが込められていると思いますし、『Pink』を読んだことで、他の作品に対する理解も深まりました。音楽に例えると、岡村靖幸さんの『家庭教師』みたいな感じかも。あのアルバムを聴くと、他のアルバムもわかってくる、みたいな。

── なるほど。『Pink』の主人公は、夜はホテトル嬢をやってる22才のOL、ユミ。

ショウ ワニを飼ってて、エサ代を稼ぐために風俗で働いてるんですよね。ストーリーとしては、仲の悪い継母がユミのワニを連れていって、バックや財布にしてしまう。怒って継母を襲うんだけど、義理の妹に止められて、しばらく落ち込んだ後、ボーイフレンドと海外旅行に行こうとして……こうやって話すと、特に何もないですね(笑)。

── 確かに(笑)。『Pink』のあとがきには岡崎さんがフランスの映画監督ジャン・リュック・ゴダールのことを書いているんですけど(「『すべての仕事は売春である』とJ・L・Gも言ってますが、私もそう思います」)、『Pink』自体もゴダールの映画みたいですよね。

ショウ そうですよね。東京の描き方も独特で。俺は5才から東京に住んでいますけど、自分たちが見てきた東京とはだいぶ違うし、ファンタジーみたいな感じなんですよ。「こういう東京を見てみたかった」「こういう人たちと会ってみたかった」と思わされる。主人公たちはみんな病んでるんだけど、重くないのもいいんですよね。こういう軽さが、90年代の社会に刺さったのかなって。

── 『Pink』が発表された1989年はバブル経済の真っ只中。ユミたちも消費社会を謳歌していますが、それもショウさんの世代は体感してないですよね。

ショウ まったくしてないですね。ウチの世代は、物心ついたときからお先真っ暗なんで(笑)。消費する快楽が描かれてるのも、『Pink』をファンタジーだと感じる理由なのかも。「欲しいものがある」というエネルギーは素敵だなと思いますね。いまは無料じゃないと誰も手に取ろうとしないけど、それは景気が悪いとか、お金がないというだけじゃないと思うんですよ。俺も強烈に欲しいものがあったし、楽器を買ったり、リハーサル代のために必死こいてバイトしてたので。

── ユミは、“欲しいものがあれば体を売る”という強烈なモチベーションを抱えています。ボーイフレンドが、他人の文章を切り貼りした小説でデビューするというエピソードも印象的でした。

ショウ サンプリング文化ですね。89年はそういうことが始まったばっかりの時期だったし、新鮮だったんでしょうね。オリジナリティと元ネタの関係も、いまとは違うと思うんですよ。当時はたぶん、元ネタを知ってること自体に価値があって、「センスがいい」という感じだったんじゃないかなと。いまは情報を得るのが簡単だし、オリジナリティを重視する人も多いので。個人的には何かに憧れることや、「自分もそうなりたい」という気持ちは大事だと思うんですよ。たとえば「どうしてもラモーンズになりたい」と思って、どんなに近付こうとしても、どうしても違う部分が出てくる。それが個性だと思うんですよね。そういうことを考えさせられるのも、『Pink』の面白さかも。

── 岡崎京子さん自身も80年代後半から90年代にかけて、東京のカルチャーを象徴する存在でした。その影響は今も強いと思います。

ショウ 「多くの人に愛されてる」「カルチャー全体に影響を与えた」という情報だけを持って、まずは読んでみてほしいですね。「かわいいー!」でもいいし、エグい部分、病んでる部分に注目してもらってもいいし。映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』もぜひ観てほしいです。主人公の男の子(鈴木仁が演じる神奈川ケンイチ)に岡崎京子さんのマジックがかかってて、みんな好きになっちゃうと思います(笑)。

── 映画といえば、OKAMOTO'Sの楽曲「History」が映画『十二単衣を着た悪魔』の主題歌に起用されたことも話題です。

ショウ コロナで延期になっていたので、無事公開になって良かったです。主題歌は、監督の黒木瞳さんから直々にラブコールをいただいたんですよ。「こういう曲がいいです」というやり取りもしたし、スタジオにも来ていただいて。緊張したけど、喜んでもらえて良かったです。あと、12月にはソロ第3弾のリリースも予定しているので、楽しみにしていてください!

(取材・構成=森朋之)

プロフィール

オカモトショウ(OKAMOTO’S)

1990年生まれ、ニューヨーク出身。 OKAMOTO'Sのボーカル担当。
2010年3月、「S×SW2010」に日本人男性としては最年少での出演を果たす。そのまま全米6都市を廻るツアーをおこない、5月に1st.アルバム『10'S』でデビュー。
その後もオーストラリアツアーや夏フェスなどに出演。11月には2nd.アルバム『オカモトズに夢中』、翌年9月には3rd.アルバム『欲望』と、ライブを続けながらもアルバムを立て続けにリリースする。
2017年、7thアルバム『NO MORE MUSIC』を発売し、中野サンプラザにてキャリア初のホールワンマンを成功。2019年、8thアルバム『BOY』を発表し、7月には日本武道館でのワンマンライブを成功させる。その他、2018年よりNHK教育テレビ「ムジカ・ピッコリーノ」のベルカント号・船長、ジュリオとして出演中。

Label : Sony Music Labels
HP : http://www.okamotos.net/


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