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「ファスト映画問題から考える映画の未来」映画感想TikToker・しんのすけインタビュー

ナタリー

しんのすけ

6月下旬、“ファスト映画”と呼ばれる違法な動画をYouTubeに公開したとして著作権法違反の疑いで男女3名が逮捕された。映画の映像や静止画を無断で使用し、字幕やナレーションを付けた10分ほどの動画でストーリーを最初から最後まで明かすファスト映画。その数は巣ごもり需要が広がったコロナ禍の昨春から急増した。映画本編を観ないことにつながる可能性もあり、業界団体コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の調査では被害総額は約956億円と推計されている。

今回の事例は著作権法で定められた“引用”の範囲を大幅に越える違法性、多額の広告収入を得ていた悪質性から摘発に至った。一方で引用に留まる場合は、権利元の了解なしに利用が許されるのも事実。しかし、引用の定義も「公正な慣行」「正当な範囲内」とあいまいだ。ネット上で映画を紹介することに注目が集まっている今、映画ナタリーでは映画感想TikTokerとして約48万人のフォロワーを誇るしんのすけにインタビュー。日頃より映画の著作物を使って紹介する立場からファスト映画騒動の背景と影響、そして自分なりの“引用の線引き”を語ってもらった。

取材・文 / 奥富敏晴

ファスト映画が生んだ何か

──まず今回の報道を受けて、しんのすけさんが最初に感じたことをお聞きできればと思います。

展開が早すぎてちょっとびっくりしました(笑)。

──わかります。最初にファスト映画に関するNHKの報道が出たのが6月20日。その3日後に逮捕というスピードでした(関連記事:昨春から投稿急増「ファスト映画」全国初の逮捕者、業界の取り組みから摘発)。

やっとファスト映画が問題視されたっていうことに喜んだんですよ。だいぶ前から言っていて、これからどう改善されていくのか、映画会社が本気で取り組むんだなと思って。

──しんのすけさんは2020年1月の時点でファスト映画を批判する動画をTikTokに投稿されていて、その後もnoteやトークイベントなどでたびたび問題提起されていました。

最初の報道が出た20日に「これからの動向を見守りたいと思います」ってスタンスで動画を撮って次の瞬間に逮捕。動向も何もない(笑)。

──最初の報道と逮捕でCODAの調査によると55あったチャンネルのほとんどが閉鎖されたようです。しんのすけさん自身はファスト映画が急増した2020年春の前から問題視されていたと。

そうですね。歴史に詳しいわけではないですが、ファスト映画のチャンネルって、急増する前に一度BANされてるんですよね。で、もう1回復活した歴史があって再生回数も伸び続けていた。

──最初に知ったきっかけは?

友達から動画のリンクが送られてきたんです。最初は法律どうこうではなく、最悪のものがこの世にはびこっていて、とんでもないものを見せられているなっていう感覚でした。

──映画好きの感情として非常によくわかります。著作権法違反であることは前提としつつ、映画文化的なまずさはどこに感じていましたか?

ファスト映画のダメな部分は腐るほどあって、挙げだしたらきりがない。観ていた人は10分の動画しか観る時間がないからファスト映画を楽しんでいるのではなくて、大部分はただ面白そうな映画の中身を知りたいだけだったと思います。映画の情報を知りたいという欲求を解消する、最後まで観られるあらすじ。

──観てみると、話の筋だけは最初から最後までわかります。

例えば友達から映画の話を聞いて「観る、観ない」の判断をするのに近いのかなって思いました。聞いた人が「じゃあ観ないかな」と思ってしまう流れを作るもの。もちろん口コミはいいんですが、本編の映像や静止画があることで視覚的な情報量が乗っかって、余計に観たような、知ったような気持ちになってしまうのが大きな罠で。でも「あなたが観ているものは映画ではない」ということに気付けない人は気付けないのかもしれないですね。

──友人の話は鑑賞の判断材料にはなりますけど、それだけで観た気にはならないですよね。ファスト映画の中には合計で8000万回再生されたチャンネルもあったとか。評論や考察、感想などを積極的に発信している映画系YouTuberの動画より観られていたということですよね。

平均で考えると、もう比にならないぐらいの再生回数になっていたと思います。この需要はいったいなんなのか? ファスト映画に何が求められていたのか?をインフルエンサーだけではなくて、映画業界全体が考えていかなくはいけない、といった話が最近多いんですよね。ネガティブイメージはもう出ているので、 “ファスト映画が生んだ何か”をいかにポジティブに消化していくかをずっと考えています。

──詳しく聞きたいです。

いろんな要素が合わさって、ファスト映画の需要が生まれていたことを考えないといけないと思います。今も残っている動画のコメント欄を読んで気付いたのは、YouTubeしか感想を共有するプラットフォームを知らないであろう映画好きもたくさんいること。Filmarksのようなレビューサイトや、映画ナタリーのような映画メディアをまったく知らない人が世間の9割で。

──ちょっと耳が痛いですが、そうかもしれません。

9割の人が何を知っているかと言うとYouTubeは知ってるんですよ。映画の情報を知ろうと思ったら、日常生活の中に浸透しているYouTubeかGoogleで検索する。そこの導線はめちゃくちゃシンプルなんですよね。

──なるほど。

コメント欄を観ていると動画の良し悪しじゃなくて、映画自体の感想がたくさん載ってました。僕のTikTokの動画のコメントにも「ファスト映画は感想を読めるからすごくいいです」とか「お互いの感想が言い合えるSNSを作ったらいいと思います」とあって。そもそもTwitterやFilmarksといった映画の感想を知る場所すら知らない人は多い。

──ファスト映画がYouTubeで映画の感想を書く場所としての役割を一部担ってしまっていたと。

そうだと思います。感想を吐き出す、作品に群がる場所。コミュニティとしてファスト映画が実はよくできていて、ミニシアター系でもビッグバジェットでも並列になっていて、同じ目線で観られていたのかもしれない。YouTubeのアルゴリズムを利用して、どの動画を観ても、自分たちの運営する別チャンネルの動画が関連に出てくるようにしていて。それが広告収入目的になってしまっているからダメなんですけど、システムとしては実はうまくできていて、結果的に映画と人が出会う機会を作っていた。

──ファスト映画を擁護する意見として「出会いの場を作っていた」というコメントは目にします。

面白い映画が紹介されていて、すでに映画を知っている人は解説や熱いコメントを書く。それをファスト映画のコメント欄で読むと「あれ?」と疑問に感じるんですけどね……。再生回数が何十万回も行ってるとコメントも必然的に多い。みんなコメントしてるから、自分もコメントしようと思う。さらに再生回数が多いほど、これは許されているものなんだと安心感が生まれて勘違いしてしまう。公式アカウントじゃないから書きやすいという感覚もあるかもしれません。

──YouTubeの動画は再生回数が多ければ多いほど、信頼できる動画と思い込んでしまう心理はある気がします。

YouTubeに映画の総合チャンネルがあるといいですよね。配給・宣伝の垣根をなくして、いろんな映画の情報が1つのチャンネルから発信される。もちろん最初の出会いは映画であるべきですが、映画以外に最初から最後まで映画の中身を知る場はない。そこは映画業界の怠慢になっているのかもしれないですよね。あと地上波で映画の情報番組が少ないのは本当に深刻な問題だと思います。テレビCMを打てるのはビッグバジェットのみで、邦画だったら俳優の人がバラエティ番組に出られる作品。それはそれで大事ですけど偏りがある。

──しんのすけさん在住の関西地域では放送されていませんが「王様のブランチ」のLiLiCoさんの映画コーナーは長く続いていて影響力もあります。

LiLiCoさんみたいな映画を紹介するアイコンはもっといたほうがいいと思ってます。関西で言うと、浜村淳さん。そういう人が昔と比べて少ないですよね。そもそもテレビを観ないという人が増えている中で、勝手に映画の情報が入ってくる媒体がない。自分で映画館に行くか、検索するかしないと。こちらからの歩み寄りが足りないと思ってます。でもそういうことに気付いたのは、TikTokで活動を始めてから。「面白そうですね、このタイトルなんですか?」とか「知らない作品を知ることができました」とか、超有名なハリウッド大作でさえ名前を知らない人がいくらでもいます。

動画クリエイターの萎縮と視聴者の疑心暗鬼

──しんのすけさんがTikTokに投稿する動画を作るときは、映画著作物の使用の線引きはどう考えてますか?

PRの案件は除いて、基本的に僕はポスタービジュアルは無断で使ってます。その「勝手に使う」線引きは、権利者が宣伝としてリリースしているものだからお借りしますという精神。法律上の“引用”になるんですけど、この「お借りします精神」が大事だと思ってます。映画が面白い、面白くないの感想にかかわらず、結局は作品に対する愛があるかどうか。

──“引用”については「報道、批評、研究などの引用の目的上『正当な範囲内』」であれば問題ないと著作権法で定められています。ほかにも「引用する資料等はすでに公表されているものであること」「出所の明示が必要なこと」など。

具体的な線引きとしては、僕が無断で使うのはリリースされたポスターかスチールだけ。劇中のスクショ画像は使いません。一方で動画を使うときは、PRかどうかに限らず配給・宣伝に許可を取って素材をもらうようにしてます。「動画を作りたいんで編集しても大丈夫なデータをください」と。予告編は1つの作品だと思っているので、素材として使うとなると、それを切り刻むことになる。それは許可を得ないと嫌だと思っています。その代わり、許可を得たらバシバシ編集します(笑)。オリジナルの予告を作るぐらいの勢いです。

──しんのすけさんが最近上げられた「ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている」の動画を観たときに、動画素材を使われていて予告に近いなと思いました。しんのすけさんなりの映画の見方、切り口が1つ入った予告。

予告編って配給・宣伝が映画の売りを前面に押し出すもの。でもいち視聴者として観たときに「これはセールスポイントとして合っているのか?」と思う予告もいっぱいある。僕が観てほしいターゲットに刺すには、この動画の素材をどうやって作り変えたらいいんだろう?と考えて作ってますね。自分の解釈、メッセージを伝えるために予告を作るというスタンスは間違いなくあります。

──ただ、個人がしんのすけさんのように許可を取って素材を使うのは非常にハードルが高いです。引用の「正当な範囲内」で映画の素材をおそらく無断で使って紹介しているYouTuberやインフルエンサーの方々はたくさんいますよね。

今回の逮捕でみんなビビってると思います。動画の更新をいったん止めている人もいるし、「今後はいらすとやの画像で映画紹介します」と言ってる人もいる。これからは権利者の不利益にならない形で、YouTuberやインフルエンサーが愛を持って自分なりのルールを作ってやっていくか、配給・宣伝サイドがゲーム実況にならって許可や申請、使用に関するガイドラインを作ってくれるのを待つかのどちらか。スタジオジブリも公式サイトで静止画を公開したじゃないですか。鈴木敏夫さんが「常識の範囲でご自由にお使い下さい」と書かれていて。まさに言葉通りに受け取るしかない。そのラインを各々考えることが大事だなと思います。

──やはりネット界隈の映画系インフルエンサーには相当影響があるんですね。

今回のファスト映画の余波が長引くと、映画を語る場──評論ほど硬くないけど、感想ほどさっぱりしたものでもない、その中間あたりのコミュニティが弱くなってしまう気もします。YouTuberでコアな映画ファンに向けて熱い深めの考察をやってる人もいる。そこが萎縮していくのはよくないですよね。

──実際に映画系YouTuberの動画を観てみると「この動画は予告の素材を使用したものです」と明記している方も多いです。

まず「人に映画を観てもらおう」と思ってやってる僕みたいな立場だと、素材はポスターや予告で十分なことがほとんど。でも観た人に向けて深めに考察しようとすると、やっぱり情報量が必要で本編の静止画や動画を使いたくなる。そこで“引用”の部分をちゃんと理解していないとビビってしまうと思う。そこを業界として認識して救うかどうか。早めに対処しないとまずいなと思いますね。映画業界から遠い人のほうが圧倒的に多いし、そこから面白いものは生まれてくる。あとクリエイター側への周知も大事ですけど、実は観る側にも疑心暗鬼が生まれていて、それが映画文化にとって一番よくないんじゃないかと思ってます。

──なるほど。確かにファスト映画は違法だったけど、この動画はどうなの?と思う人もいます。

僕の動画にも「ファスト映画は捕まったのに、どうしてお前は捕まらないんだ?」みたいなコメントがあって。そりゃ来るよなと思いました。画像も使うし、動画によってネタバレも話す。人によっては僕の動画とファスト映画は変わらないと思う人もいる。悪質とかじゃなくて「こいつも悪いことしてるんじゃないか?」と思ってしまうのは自然なことな気がしていて。

──そこへの周知は難しいですね。

「この動画は大丈夫です!」とアナウンスする人はいないわけですから、“無断転載警察”的なものが絶対生まれてくる。「このチャンネルも画像使ってるしダメじゃね?」とか「これも捕まるんじゃね?」とか。1つでもそういうコメントがあると、観てる側の空気感がちょっと変わる。動画クリエイターもより慎重になる。権利者やメディア側がきちんと周知していく必要があるなと思ってます。

年0回の人を1回に、映画好きを1人でも増やす

──ありがとうございます。ここからは映画ナタリーのインタビュー初登場ということで、しんのすけさん自身の活動についてもいろいろお聞きできればと思います。そもそも肩書きを「映画感想」にした理由は?

京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)映画学科に通っていたんですが、北小路隆志さん、寺脇研さんといった評論家・批評家の先生がいて。その方たちとしゃべっていると、とてもじゃないけど評論家は名乗れない(笑)。最強を知ってるがゆえに、ですね。もう1つは映画を深く紹介する人はいるけど、広く浅く紹介する人は誰がいるんだろう?と考えたときに、あまりいない。そっちのほうが映画文化においてヤバいんじゃないかと思って。

──先ほどの一般層に認知されるという意味ですよね。

映画にそこまで興味がない人は「映画批評」「映画評論」が肩書きになっている時点で反応しない。さらに言うと、映画のことを知りたいとも思っていない人には「面倒くさそう」と思われてしまう可能性もある。TikTokはそもそも中学生や高校生といった10代が多いので「感想」って字面として入りやすい。名前を平仮名の「しんのすけ」にしたのも、TikTokのプラットフォームに最適化されたもの。「映画評論家・齊藤進之介」より「しんのすけ@映画感想」のほうが、たくさんの人に見てもらえる可能性が1%でも上がると思ったんです。

──最初からものすごく戦略的に考えて付けていたんですね。

だから「紹介」も使わないんですよ。「感想」って個人的なもの。僕がやりたいのは自分のフィルタを通して映画の感想を言うこと。自己満足ではあるんですけど、口コミのニュアンスを強める意味合いで「紹介」は使わずに「感想」のほうがいいなと思ってます。結果的に紹介にはなってるんですけど。

──ただ、しんのすけさんの投稿は「感想」とは言いつつも「批評」的な側面は含まれてますよね。

そうですね。結果論ですけど「感想」というパッケージに収めて、動画を観てさえもらえれば(笑)。面白い、面白くないの感想はどちらでもよくて、観る人にはなんで面白かったのか、なんで面白くなかったのかを伝える精度、言語化能力を上げてほしくて。

──なるほど。しんのすけさんの動画を観ていると、若者への映画教育も意識されているのを感じます。

「同じ映画を観た人間がこういうことを言うんだ」と思ってもらえるだけで、映画への気付きは生まれる。専門学校で教えているというのもあって、動画を通してうっかり教育的な面も養われてたらいいなと思ってます(笑)。

──伝え方で気を付けていることは?

一度、感想を全部原稿に書いてから、中学生に伝わりにくそうな言葉は消すか、違う言葉に言い換えてます。この「わからない」「難しい」の度合いも難しくて、簡単な言葉を羅列するだけだとバカっぽく見えてしまう。動画の情報量の操作も難しくて、予告映像を入れる配分だったり、自分の語りの配分だったり。僕が語らない予告の映像をポンと載せただけのほうがバズるんじゃないかと思うこともあります(笑)。

──しんのすけさんの動画でコメント欄が盛り上がる、盛り上がらないの基準はあるんでしょうか。

やっぱり答えがない作品は盛り上がります。最近だと「キャラクター」。グロいのが苦手な人が「どれぐらいグロいですか?」「怖いですか?」と質問したり、映画のメッセージ性をどう受け取ったか議論したり。映画初出演だったSEKAI NO OWARIのFukaseさんのこととか。いろんな観点がある作品が盛り上がりますね。コメント欄が2ちゃんねるの掲示板みたいな機能を果たしていて、いろんな人の意見が読めます。そして自分と似た意見のコメントを見つけたら、いいねしてます(笑)。

──最後に今後の目標があれば教えてください。

映画好きを1人でも増やすこと、映画館に行くのが年0回の人を1回に、年1回の人を2回にすることです。映画ファン向けコンテンツの賢人はたくさんいて、映画好きを深められるものはいっぱいある。映画の情報が届いてない人にいかに届けられるか。映画のことを知りたいけど、何を観たらいいかわからない。失敗したくないという気持ちもわかる。でも、そこに対しての具体的な歩み寄りが業界として本当になかった。そこにたまたま僕がTikTokでしている活動がハマっている気がしていて。「こんな映画がこの世にはある」「今月はこんな映画が公開されるよ」という情報が勝手に流れてくる、人と映画が出会う機会を色んなところでたくさん作りたいと思ってます。

しんのすけ(齊藤進之介)

1988年生まれ。京都芸術大学映画学科卒業後、助監督として働く。2019年より映画感想TikTokerとして動画投稿をメインに活動。TikTokでは主にエンタメや社会問題などを中高生に向けて発信している。「TikTok TOHO Film Festival 2021」の審査員や「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア2021」の映画祭オフィシャルSNSナビゲーターを務めた。

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