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神はサイコロを振らない ボーカル柳田周作が大切にする、“歌が命”の信念 「夜永唄」ヒット、新曲「泡沫花火」制作背景を聞く

リアルサウンド

20/7/17(金) 19:00

 YouTubeのリリックビデオ、TikTokを中心にヒット中の「夜永唄」で話題を集めている4人組バンド、“神はサイコロを振らない”がついにメジャーデビュー。7月17日に第1弾デジタルシングル「泡沫花火」をリリースした。

 リアルサウンドでは、ボーカリストの柳田周作にインタビュー。全楽曲の作詞・作曲を手がける柳田に、バンドのコンセプト、ボーカリストとしてのこだわり、「夜永唄」のヒットによる状況の変化、「泡沫花火」の制作などについて語ってもらった。(森朋之)

(関連:神はサイコロを振らない「泡沫花火」リリックビデオ

■“真ん中に歌がある”J-POPが原点

ーー柳田さんは“神はサイコロを振らない”を結成する以前はシンガーソングライターとして活動。バンドというスタイルを選んだのは、どうしてなんですか?

柳田:もともとシンガーソングライターになりたかったのかは自分でもわからないんですけど、曲は子供の頃から作っていて。大学2年になったときに歌うことの楽しさに気づいて、一人で大阪や東京で弾き語りのライブをやっていたんです。その頃にドラムの黒川亮介に「一緒にバンドをやらないか」と誘われました。中学から高校のときもコピーバンドをやってたんですよ、じつは。そのときはボーカルじゃなくてギターだったんですけど、メンバーと息を合わせて、目を合わせて音を出すのがすごく楽しくて。神はサイコロを振らないを結成したときも、「やっぱり仲間と一緒にやるのはいいな」と思って、今に至るという感じですね。

ーー一人で活動するよりも、メンバーと一緒に音楽を作るほうが性に合っていた?

柳田:そうですね。バンドを組んでからもたまに弾き語りのライブをやってたんですが、本番前とライブが終わった後が寂しいんですよ(笑)。いまは4人でやるスタイルが身に沁みついているし、しっくり来てますね。30年後くらいに、1曲ソロで出したりするかもしれないけど(笑)。

ーーちなみに高校生の頃にやっていたバンドは、テクニック志向だったそうですね。

柳田:とにかく複雑で速いフレーズを弾けるのがカッコいいと思っていたというか。当時のリードギターがSIAM SHADEが好きだったんですよ。DAITAさんがどえらいギターを弾いていて、「こんなバンドがいたんだ!」って衝撃を受けて。SIAM SHADEはリードギターだけじゃなくて、バッキングもめちゃくちゃ難しくて。それを覚えて弾くのがおもしろかったんですよね。

ーーSIAM SHADEをきっかけにテクニカルなギターにハマった、と。

柳田:そうですね。人生で最初に買ったCDはEXILEの「EXIT」だったんですよ。『女王の教室』というドラマの主題歌で。その後も名だたる邦楽アーティストのCDを地元のCDショップで買って。だから僕の原点はJ-POPなんですよね。それからギターを弾き始めて、ロックに惹かれて、テクニカルな方に行って……神サイも最初の頃は、ポストロックやマスロックのような複雑な曲が多かったんです。でも、しばらくすると「歌を届けたい」という気持ちが強くなってきて。真ん中に歌があって、よく聴いたら、ギターやベースがやばいフレーズを弾いているというのがカッコいいなと。メンバーとぶつかることもありましたね。特にベースの桐木岳貢とは「そんなにベースラインが動いたら、歌の邪魔になるやろ」ってケンカすることもけっこうありました。そこから少しずつ、「歌が命」ということを伝え続けて、シフトチェンジしていった感じですね。

ーーボーカルのスタイルについてはどうですか? 

柳田:周りの人に言われて気付くことが多いです。最近も、ボーカルの先輩の方に「ブレスの入れ方が独特。それがおまえの強みなんだろうな」と言われて、「そうなんや?」って(笑)。自分としては何かを狙ったり、意識しているわけではなくて、感覚的にやっているので。

ーーただ、ファルセットの活かし方もそうですが、柳田さんの歌の表現はかなり独特ですよね。

柳田:いわゆるウィスパーボイスが主成分になっている曲が多いですからね。きちんと歌を習っている人からすれば、「その発想法、どうなの?」って言われるかもしれないですが。ライブハウスのスタッフの方に、「もっと腹から声を出したほうがいいよ」と言われることもありました。それは愛ゆえの言葉なんですけどね。僕の歌い方だと、マイク乗りがよくなくて、ライブで聴こえづらいこともあったので。ただ、お腹から声を出すと自分らしさがなくなる気がして。

ーー試行錯誤を繰り返してきたと。

柳田:そうですね。ビリー・アイリッシュの歌声を聴いて、「これでいいのか」と思ったことも大きかったです。あのボーカルのレベル感でもいいんだなと思えたし、固定観念を取り払ってくれたというか。

ーービリーの場合、自宅で曲を作り始めたことも影響しているかもしれませんね。

柳田:大きい声が出せないから、ですか? 僕も似たようなところがあるかも。デモは六畳一間の自分の部屋で作っているので(笑)。

■予想していなかった「夜永唄」の大ヒット

ーー現在ヒット中の「夜永唄」について聞かせてください。切ない恋愛ソングですが、YouTubeにアップされたリリックビデオが1000万回近く再生されるなど、大きな反響を集めています。

柳田:曲を作った当初から自分たちのなかでは「いい曲が出来た」と思っていましたけど、バンドの知名度もそこまでなかったし、まさかここまで聴かれるとは思っていなかったですね。ちょうどコロナ禍の影響がで始めた3月あたりにリリックビデオが60万回くらい再生されていることに気づいて、亮介と「なんでこんなに伸びてるんだ?」と話したり。調べてみたら、TikTokで伸びていたんですよね。「夜永唄」を使って失恋の経験や会えない人のことを思って作ったオリジナル動画がたくさんアップされていて、それが引き金になって広まっているんだなと。「そんな広まり方があるんだ」って驚いたし、ふだんはロックやバンドの音楽を聴かない人も聴いてくれていたと思います。失恋ソングは世の中にいっぱいあるのに、どうしてだろうな? と。

ーー自分たちでは分析できていない?

柳田:いろいろ考えてますけどね。自粛ムードのときに、会えない人のことを思い出すことが増えたんだろうなとか。あと、TikTokに上がっている動画を見ると、サビではなくて、Aメロの部分を使っている人が多いんですよ。〈どうして〉〈心ごと〉〈奪われて〉〈でもまだ〉と言葉と言葉を区切って歌っているのですが、ちょっと抽象的なところが響いてくれたのかなとも思います。

ーーリスナーにとっては想像の余地がある歌詞だし、そこに各々の体験や思いを重ねられて。

柳田:そうですね。しかも聴いてくれてる人の年齢層の幅が広いんです。なかには小学生もいて、「小学生でもう失恋の体験があるのか!」と驚きましたね(笑)。YouTubeのコメント欄にも、自分の境遇を重ね合わせたり、体験談やポエムのようなものを書いてくれている人がいて。僕の父も毎日チェックして、「今日いちばんグッときたコメント」ってLINEで送ってくれるんですよ(笑)。

ーー7月3日には「夜永唄」の「THE HOME TAKE」(YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』企画でアーティストの自宅やプライベートスタジオで撮影された一発撮りによるコンテンツ)も公開。こちらも150万回以上の再生数となっています。

柳田:歌とピアノだけの“アコースティック一本勝負”という感じですね。最初は「どうなるんだろう?」と思っていたけど、リハーサルで「これはすごいな」と。もちろんバンドでやる良さもあるんですけど、歌とピアノだけでやると歌詞の一つ一つがさらに浮き上がってきて。ピアニストの方と軽く合わせたときに、自分でも鳥肌が立ちました。同じ曲でもぜんぜん違う色になったし、このバージョンでライブでもやってみたいです。歌の構成も少し変えているんですよ。原曲は最後のほうでフェイクが入って、その後〈波がまた零れて〉と〈どうして〉という歌詞が重なっているんですけど、どちらもしっかり歌ったほうがいいと思って。そのことによってさらに深みが出ましたね。最初から最後まで歌い切ることで、生っぽさも増してると思います。じつは収録の日は、声の状態が万全ではなかったんですよ。でも、撮ったものを見ると「この儚さが意外といいな」と思って。なんていうか、そもそも僕は歌が上手い系のボーカリストではないんですよね。技術力よりも表現力というか。歌うたびにフェイクが違ったりするので、エンジニアの方は大変かもしれないけど、それが味になってるんじゃないかなと。人間味のある歌を歌い続けたいですね、これからも。

■新曲「泡沫花火」は女性目線に徹した曲

ーーそして7月17日にデジタルシングル「泡沫花火」がリリース。メジャー第1弾の楽曲ですが、曲を書いたのはいつ頃なんですか?

柳田:ユニバーサル ミュージックの<Virgin Music>と一緒にやりましょうということになった後ですね。夏くらいのリリース予定だったので、夏をテーマにした曲にしようと。秋、冬に合う曲は作ってきたけど、意外と夏の曲はそんなに書いてこなかったんですよね。

ーー切ない恋愛ソングも意識していた?

柳田:そうですね。「夜永唄」をこれだけ多くの方に聴いてもらっているなかですし、そこは意識しながら、いまの自分の表現を形にしました。自分の経験談を踏まえながら、女性目線で書いてみようと。女性目線の歌詞はたまに書くんですよ。直近のミニアルバム『理-kotowari-』に入っている「揺らめいて候」は1番が女性目線、2番が男性目線なんですけど、「泡沫花火」の歌詞は女性側に徹しています。以前付き合っていた年下の女性は、自分のことをどう見ていたんだろう? と事実と想像を組み合わせながら書きました。かなり苦戦しましたけど、繊細できれいな曲になったと思います。自信作ですね。

ーー女性言葉の歌詞、繊細なメロディを含めて、柳田さんの声質に良く似合っていて。

柳田:確かにそうかもしれないです。力強い声だと今回のような歌詞は表現しづらいかも。メンバーに時々言われるんですよ、「おまえは前世が女性だったんじゃないか」って(笑)。それは大学時代、美容に熱心だった時期に言われたことだったんですけどね(笑)。自分としては単純にステージに立つ者として当たり前なこととしてやっていただけなのですが。内面のことで言えば、恋愛相談を受けたときも、男女両方の気持ちがわかるし、どっちの気持ちも歌詞にできるというのはありますね。

ーー女性目線の歌詞もそうですが、いろんな視点を持つことで、歌の幅も広がりますよね。

柳田:そうですね。いまのところ人間模様をテーマにした曲が多いんですけど、今後はもっと哲学的な内容などいろんなことを歌っていきたいという気持ちがあって。そのためには日ごろの生活が大事だし、毎日同じことの繰り返しでは言いたいことや伝えたいことのストックが尽きると思うんです。そのためにもこの先は、いい意味で破天荒でありたいんですよね。いつか1週間くらい一人で海外に行くとか。いろんなことを経験して、そこで感じたことを音楽で表現できるようになりたいです。

ーー「泡沫花火」のアレンジについても聞かせてください。バンドサウンドを軸にしながらも、ピアノ、ストリングスをしっかり打ち出していて、ポップスとしての魅力に溢れたアレンジに仕上がっています。

柳田:はい。「夜永唄」はもっとロックバラードで、エモーショナルな部分が強く出ている曲でしたが、歌詞を直す中でそういう曲ではないなと感じて。「泡沫花火」も当初は歪んだギターの音を入れる予定だったんですけど、より繊細に歌が響き続けるアレンジにしたかったし、ギリギリまで悩みながらサウンドを作っていきました。この歌詞に寄り添える音作りができたし、確かにポップス寄りかもしれません。オケが変わったことで、歌の表情も変わりましたね。最後まで繊細であり続けて、上がり切らない良さがあるというか。この曲はメロディの展開もちょっと変わっているんですよ。

ーーどういうことですか?

柳田:2番のサビ、Cメロの後、それまで出てこなかったメロディが入ってくるんです。それはもともとメインのサビにするつもりだったものなのですが、途中で変えたんですよね。でも、そのメロディ自体は気に入っていたし、曲のなかにパッと開けるパートが欲しくて、最後にDメロとして付け加えようと。このメロディが存在することでノスタルジーをさらに感じてもらえると思うし、それが「泡沫花火」のイメージをかたどってるんじゃないかなって。僕は田舎育ちなんですけど、子供の頃や青春時代の夏の思い出というと、近所の小さい神社のお祭りの印象が強くて。この曲を聴いてくれた人たちーー老若男女を問わずーーそういう光景を想像して、曲のなかに入り込んでもらえたら嬉しいです。

■新鮮な気持ちで臨めた配信ライブ

ーー7月10日に行われた配信ライブ『神はサイコロを振らない Streaming Live「理 -kotowari-」at WWW X』でも「泡沫花火」を披露。手ごたえはどうでした?

柳田:ライブ中はどんなコメントが来てたのかわからなかったんですけど、あとでエゴサーチしてみたら、かなりいい反応があって。「歌詞だけで引き込まれる」という声もあったし、ぜひリリースした音源も聴いてもらいたいです。ライブ自体も良かったですね。経験したことのないことだったので最初は不安でしたが、映像を見返してみたら「めっちゃカッコいいやん!」って(笑)。地元福岡の友達からも「すごく生き生きしてた」という感想が送られてきて。お客さんがいない場所から自分の表現をそのまま観てもらうというのがすごく新鮮だったし、自分たちも楽しくて。こういう形のライブもアリだなと思いました。コロナ禍でもポジティブな活動をしていきたいですね。

ーーバンドもメジャー進出。大きな節目のタイミングですね。

柳田:バラードでメジャーデビューって、けっこう思い切ってるというか、まあまあ勝負に出ていますよね(笑)。バンドのメジャー1発目は開けるような曲を選択することが多いと思うので。ただ自分たちの場合は「夜永唄」のおかげで歌の力を改めて感じている最中だし、「泡沫花火」でデビューするのがいいんじゃないかと。

ーー「夜永唄」と「泡沫花火」によって、バンドの認知度もさらに上がるだろうし。

柳田:そうなってくれたら嬉しいです。今後はバラード以外の曲も聴いてほしいし、届けていきたいですね。今も制作しているんですけど、アッパーな曲が2曲、バラードが2曲という感じで進めていて。アッパーな曲の1曲は先日の配信ライブでも披露しました。タイプが違う曲ばかりだし、五角形のチャートレーダーを作ると「いろんなベクトルの曲があるんだな」ってわかってもらえるかも(笑)。やっぱり「何を歌っても、神サイになる」というのが理想ですね。

ーー「神サイらしさを示すのは、自分の歌だ」という思いがあると。

柳田:そうですね。全員がアコースティックの楽器を演奏しても、ギターをすごく歪ませても、自分の歌があれば神サイになるという自信があるので。歌を大事にしつつ、ロック感もしっかり出して……その両極端な感じも、神サイらしさだと思うんですよ。最初の頃は「結局、君たちはどういうバンドになりたいの?」「どういうジャンル?」「何がしたいの?」と言われることもあって。それも愛ゆえのアドバイスだったんですけど、自分としては「絞り込まないといけないの?」という気持ちもあったし、スタイルを変えることなく貫いてきて。これからも自分たちがやりたいことを素直に表現したいし、もっともっとふり幅を広げたくて。ぜひ今後に期待してほしいです。

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