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中川右介のきのうのエンタメ、あしたの古典

『小松左京音楽祭』で知った五木ひろしのすごさ

毎月連載

第18回

19/12/12(木)

『小松左京音楽祭』(C)小松左京音楽祭実行委員会

「シネマ・コンサート」が、よく開かれている。

オーケストラの演奏付きで映画を上映する、あるいは、映画付きのコンサートだ。1万円前後と、映画としてはチケット代が高いが、コンサートと考えれば、リーズナブルであろう。無声映画時代は、映画館に楽隊がいて、生で演奏していたというから、それがグレードアップされたとも言えなくもない。

日本映画では『砂の器』、ハリウッド映画では『スター・ウォーズ』などが人気がある。

ちょっと前までは、「映画音楽・名曲コンサート」があった。

オーケストラもベートーヴェンやモーツァルトだけではお客さんが来ないので、映画音楽のコンサートで集客をはかっていたのだ。

『太陽がいっぱい』『道』『ロミオとジュリエット』『ゴッドファーザー』のニーノ・ロータ、『スター・ウォーズ』やスピルバーグ映画のジョン・ウィリアムズが人気があった。かの世界有数のオーケストラであるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団も、『スター・ウォーズ』の曲を演奏するコンサートをしていた。

そういうコンサートでは、その映画の最も有名なテーマ曲が演奏されるのが大半だ。映画の冒頭、タイトルと主要キャストの名が出る部分での音楽である。

名曲コンサートでは、映像は流れないのが原則だ。舞台の後方にスクリーンがあり、名場面が映される程度だ。

そんな「映画音楽・名曲コンサート」とも、「シネマ・コンサート」とも違うコンサートが、11月30日土曜日、催された。題して、『小松左京音楽祭』(成城学園内の澤柳記念講堂ホールにて)である。

『小松左京音楽祭』パンフレット

音楽祭というと、地名か作曲家・演奏家などの名前を冠したものが大半で、小説家の名の音楽祭というのは珍しい。これは、小松左京の小説を原作とした映像作品の音楽のコンサートだった。

映画監督の樋口真嗣氏が中心となった実行委員会が作られ、クラウドファンディングで資金を集めて、開催されたものだ。

制作したのはスリーシェルズという会社で、ここは伊福部昭をはじめとした日本人作曲家の作品を演奏し、録音してCDにしている。その一連の企画のなかでの、小松左京原作の映像作品の音楽のコンサートだった。このコンサートも録音されていたので、近く、CDとしてリリースされるだろう。

演奏されたのは、『宇宙人ピピ』『エスパイ』『さよならジュピター』『日本沈没』で、『日本沈没』は、ラジオドラマ、映画(1973)、テレビドラマ。最初に小松が若い頃に書いた演劇の劇中歌として、自ら作詞作曲した曲も披露された。

映画音楽(テレビやラジオの音楽も含める)が、他の音楽と異なるのは、録音されること、1回しか演奏されない、の2点である。

映画の編集が終わり、セリフや効果音も入った最後の段階で、音楽は録音される。ミュージカルのように最初に音楽を録音するものもあるが、いずれにしろ、その映画のために1回演奏されれば、それで終わりだ。

そのあと、コンサートで演奏されることは「予定」されていないので、保存癖のある作曲家でもなければ、楽譜はそのまま散逸してしまう。

ハリウッド映画などは、権利がうるさいがゆえに管理もされているから、映画音家のスコアも残っているのかもしれないが、日本映画の場合、残っていることは少ない。

作曲家が存命であれば、コンサート用に編曲してくれと頼めるかもしれないが、そうでない場合も多いので、映画そのものから、専門家が音を楽譜に書き写していく作業が必要となる。ピアノ曲なら比較的簡単だろうが、オーケストラとなると、何種類もの楽器が同時に演奏しているので、ヴァイオリンはこの音、フルートはこれ、と聞き分ける能力も必要だ。

そういう、素人にとっては、気の遠くなる「復元作業」を経て、スコアができて、リハーサルを重ねて、本物の(という言い方も変だが)音楽に近づけていく。

今回の『小松左京音楽祭』でも、そうやって復元された音楽が披露された。

もともとコンサートで演奏するという前提で作曲されていないのだから、当然のことなのだが、どこか、音楽としての物足りなさを感じてしまう。映像あっての音楽であり、音楽としての独立性が、いまひとつなのだ。改めて、映画音楽と演奏会のための音楽とは違うものだと感じたのだ。

チャイコフスキーも、バレエをコンサートで演奏するために、『くるみ割り人形』では自分でコンサート用組曲に編曲し、『白鳥の湖』『眠れる森の美女』では、他の作曲家が組曲にしているので、映画音楽も、コンサート用の音楽としての完成度を求めるには、何らかの加工が必要だとは思う。

もちろん、今回の『小松左京音楽祭』は、映像作品からの忠実な復元がコンセプトなので、これでいいわけで、何の不満もない。

『日本沈没』のコーナーでは、テレビ版の主題歌『明日の愛』と、挿入歌『小鳥』を、五木ひろしが歌った。大御所といっていい大歌手の登場で、いちばん盛り上がったのは、このコーナーだった。

2曲歌い、トークもして、さながら「五木ひろしミニコンサート」だった。しかも、アンコールで再び登場して、観客と、その2曲を合唱してくれたのだ。

五木の登場は、映画音楽の復元というコンセプトからは外れていたが、『小松左京音楽祭』というコンサートの成功には大きく寄与していた。

私は少年だった1970年代、アイドル歌手を見るために毎日のようにテレビの歌番組を見ていたが、当然、そこには五木ひろしもよく出ていた。ファンではなかったが、多分、毎週1回は、五木を見ていたはずだが、一度も生で聴いたことはなかった。

それが、今回、初めて生で聴いたが、圧倒された。そういう人は多かったのではなかろうか。

小松左京原作作品の音楽を再発見するコンサートでもあったが、五木ひろしのすごさを改めて知ったコンサートでもあった。

作品紹介

『小松左京音楽祭』

日程:2019年11月30日
会場:成城学園 澤柳記念講堂ホール
特別ゲスト:五木ひろし/杉田二郎
指揮:松井慶太
コンサートマスター:三宅政弘
演奏:オーケストラ・トリプティーク/金属恵比須

プロフィール

中川右介(なかがわ・ゆうすけ)

1960年東京生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社アルファベータを創立。クラシック、映画、文学者の評伝を出版。現在は文筆業。映画、歌舞伎、ポップスに関する著書多数。近著に『手塚治虫とトキワ荘』(集英社)など。

『手塚治虫とトキワ荘』
発売日:2019年5月24日
著者:中川右介
集英社刊

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