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リュックと添い寝ごはんが作り出す、自然体でアットホームな空気感 メジャーデビュー発表した、初の配信ライブレポート

リアルサウンド

20/9/2(水) 12:00

 リュックと添い寝ごはんが8月26日、配信ライブ『ワンマンショー in お茶の間』を開催した……という書き出しさえ仰々しく感じられるほど、温かな配信ライブだった。

 配信が始まると、最初に映ったのはステージに向かう松本ユウ(Vo/Gt)、堂免英敬(Ba)、宮澤あかり(Dr)、サポートギター・ぬんの姿。4人は「わっくわくだね!」と言い合いながら階段を下り、誰もいないフロアを縦断すると、そのままステージに上がっていく。演奏を始める前にドラム台付近にメンバーが集合。他のバンドならば気合いを入れるために小さく声を合わせたりグータッチをしたりするものだが、このバンドの場合、なぜかここでじゃんけんが始まる。

 松本が一言挨拶したあと、8月19日配信リリースされたばかりの最新曲「生活」から演奏が始まった。スケールを下降するようなギターのメロディの上でベースが弾み、ドラムが疾走感を後押しする。発音や声質からか、松本のボーカルはゆったりとしたスピードで、歌だけが別の時間軸を生きている感じがする。バンドと歌が離ればなれになっているわけではないが、歌だけが自然と浮かび上がってくる。不思議なバランスだ。

 当初の想定とは異なり、観客を会場で入れた状態での開催は叶わなかったものの、この日がバンドにとって初めてのワンマンライブ。かつ、(先に書いてしまうが)メジャーデビュー発表のタイミング。ここから先も続くバンドの歴史にとって明らかに重要な日だったが、プレッシャーも何のその、メンバーは笑顔で楽しそうに演奏している。ある一人から発せられるメロディやリズムを(ときには身を揺らしながら)他のメンバーが汲み取り、「じゃあこういう感じはどう?」と提案するかのように次の音を鳴らす。直接言葉は交わしていなくてもそこでコミュニケーションが行われているのだということがーーそうやって発生するバンドのアンサンブルを4人が心のままに楽しんでいることが、画面越しでも十分に伝わってきた。曲間にメンバー同士で交わされている「行きますか」「行っちゃいましょう」といった声までこちらに聞こえてくる。

 この日演奏された11曲のうち4曲は未発表曲。5曲目にタイトル未定の曲を演奏したところで、松本が「前半の部はこちらで終了ですので」と告げると(その背後で他のメンバーが「早っ!」と反応)、フロアを換気するため、別室で特別企画を行う旨がアナウンスされた。

 7~8分後に始まったのが、なんとクイズ大会。配信ライブを行う際、例えば、演奏と演奏の間にドキュメンタリー映像やMVを挟んだり、普段のライブではやらない構成に挑んでいるバンドも少なくないが、それでもクイズ大会をやっているのを見るのは個人的に初めてだ。そして、紙をめくって答えを覗こうとしたり、”終盤に一気に得点を獲得できる問題が出てきて一発逆転のチャンス”が生まれるというお約束の展開をわいわいと楽しんだりしているメンバーの姿を見ていたら、その空気が演奏中とほとんど変わりないことに気がつく。この空気感こそがバンドにとって大事なのだろう。

 堂免が優勝し、賞品として米(ごはん)5kgを受け取ったところでクイズ大会は終了。再びステージに戻ると、「500円玉と少年」から後半の部がスタートした。『青春日記』収録の音源は松本がアコースティックギターで弾き語りするアレンジだが、今回は彼の演奏に寄り添うように他3人の音も入っている。ギターやベースのボディを叩く音もアクセントとなり、心地よいリズムを生んでいた。9曲目の「グッバイトレイン」では、イントロの前にベースのフレーズが入るなど、ライブならではのアレンジを楽しむことができた。

 MCで松本が話していた「サウナに行ったら初対面のおじさんから“あんちゃん”と話しかけられた」というエピソードは、本人としては些細な話題のつもりだったろうし、「この時代に“あんちゃん”って呼ばれることなんて珍しいよね」というところが本筋なのだが、その話の直後に演奏された「青春日記」がやたら刺さった。偶然出会った知らない人と些細なやりとりをすることすら減ってしまったこの状況下だと、〈いつでも笑いあって/バカなことをしてたな〉〈あの頃に描いてた/夢は希望はもうないさ〉といったフレーズに何も感じずにはいられない。しかし、失ったものを数えるのではなく、そこから〈僕らの青春は/ここからだ〉と前を向くのがこのバンドの音楽だ。

 ここで突如映像が切り替わり、「3」「2」「1」とカウントダウンが始まる(「生活」MV冒頭を彷彿とさせる演出だ)。そして、バンドがビクターエンタテインメント内のレーベル<SPEEDSTAR RECORDS>からメジャーデビューすること、12月9日に1stアルバム『neo neo』をリリースすることが発表された。松本は、配信で観ているファンに向けて、自分の口から改めてそれを伝えたあと、「今までと変わらず、僕たちらしく、楽しんで音楽活動をしていきたいと思います」「聴きたい曲、やりたい曲を日々追求していきたいと思います」と、バンドのスタンスを明言した。

 そのあと、ラストに演奏された初披露の新曲のタイトルは「あたらしい朝」。たとえ今日雨が降ったとしても、雨に濡れたアスファルトがなかなか乾かなかったとしても、明日は晴れると信じていたい。たとえお客さんを目の前にしてライブをすることができないとしても、自分たちのライブを届けて、せっかくだからクイズ大会も開いたりして、あなたのことを笑わせたい。お手製の秘密基地に招待されたみたいな1時間半の配信ライブからは、そんなバンドの想いが伝わってきた。

 「リュックと添い寝ごはん、メジャーデビュー頑張るぞー!」という飾り気のない言葉を残して、ステージを去った彼ら。どこまでも自然体な佇まいで以って、このバンドは「僕たちも自由に楽しむから、あなたも自由に楽しんでほしい」というメッセージを伝えてくれている気がする。楽しいときに楽しいと感じるその気持ちを、枯らしてしまう必要はないのだと。

■リュックと添い寝ごはん『ワンマンショー in お茶の間』
8月26日(水)@Shibuya O-nest
M1.生活
M2.ノーマル
M3.タイトル未定(未発表曲)
M4.サニー
M5.タイトル未定(未発表曲)
M6. 500円玉と少年
M7.手と手
M8.タイトル未定(未発表曲)
M9.グッバイトレイン
M10.青春日記
M11.あたらしい朝(未発表曲)

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