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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

大変だった『物語なき、この世界。』

毎週連載

第151回

気づけばアッという間に今年の夏が終わっていました。今年の夏は、舞台『物語なき、この世界。』に出演していて、とにかく舞台に集中していたので、終わったらグッタリ。これを喋っている9月時点では、まだ鈍い疲れが抜けていない状態です。

『物語なき、この世界。』は、これまでの三浦大輔さんの作品の中でも構成がメタというか、かなりハイレベルで大変だった一方、その分やりがいもあった舞台でした。

何が大変だったかと言うとさ、役者さん同士の対話が極めて少ない舞台だったんですよ。普通、舞台と言うと、役者さんと役者さんのセリフの掛け合いがあって、その中でストーリーを作り上げていく表現が多いんだけど、『物語なき、この世界。』は役者ひとりひとりが自分の世界に入って、一人語りを延々演じるというシーンが多かったんです。それ自体が三浦さんの脚本──「人それぞれが持つ『物語』」みたいな部分と合致するかもしれないけど、当初、脚本とセリフを見ても全然わからなかったの。「どうしてこんなにセリフが長いのか」「なんでここでもう一回説明するんだろう」「説明しすぎじゃないか」とかね。

実際に稽古に入り、本番が始まっても、これがまた難しかった。一人語りが多いのもそうなんだけど、あとは新型コロナ対策も大変で。

本番ではもちろんマスクを外していたけど、稽古中は全員ずっとマスクをしていて表情をうかがうことができないわけ。定期的にPCR検査をしながらだけど、これも大変だったな。一度もマスクを外した顔を見たことがないスタッフもいっぱいいました。

だから、公演が始まるまで正直不安な気持ちのほうが強かった。「ちゃんと伝わる舞台なのだろうか」「『物語なき、この世界。』っていうタイトルではあるけど本当に『物語』にならなかったらヤバいぞ」とか思って。だから本番を迎えるのは怖かったのが正直なところ。

ただ、実際にやってみたらコロナ禍にもかかわらず連日満員で、「面白かった」という声ももらったりして。お客さんが喜んでくれたことは、本当にうれしかったし、「良かった」と思った。ただ、正直言うと、演じる側の手応えみたいなものは、舞台が終わった今もはっきり感じられないままなんだ。もう少し時間が経てばジワジワ手応えを感じられるのかもしれないけど、今はまだ疲れのほうが勝っちゃってるのもあって僕自身はまだきちんとした感想を持てていない。

でもさ、こういう体験全てが初めてだったし、その大変さ、難しさも含めてかなりやりがいのある舞台だったことだけは確か。やったことなかったからね、こういう舞台は。

三浦さんはこれまでにいろんな舞台をやってるし、脚本も書いてきてるでしょ。これは想像だけど、一度、『物語なき、この世界。』のような、ちょっと特別な舞台を創って世の中に提示しないと、次に進めないという思いがあったのかなとも思う。だとすると、以降の作品はまた違うものになるだろうし、それも楽しみだね。もし、また呼んでもらえる機会があればこれもすごくうれしいな。

『物語なき、この世界。』の役者さんは本当に皆さんすごかったけど、個人的に「本当にすごいな」と思ったのは、ほっしゃんさん。お笑いの世界で培った悲哀みたいなものを、背中で見せるような演技で本当にすごいなと思った。

そんなわけで、僕はこの夏すごい痩せたのですが、これは仕方がない。やっぱり人前に立つとピシッとするね。「人に見られている」という感覚があると気が抜けないし、あと舞台でも音楽でも集中すると、メシどころじゃなくなるので。なので、これから美味しいものをいっぱい食べたいとも思っています(笑)。

舞台をやっている間は、ずっとホテルで過ごしていました

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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