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掟ポルシェが語るハロプロの真価 つんく♂サウンドの「特殊性」とは?

リアルサウンド

13/8/28(水) 11:22

20130827-okite.JPG アイドル界の論客としても知られる掟ポルシェ氏が、シーンの最前線を語る集中連載第3回。今回は、氏がかねてより絶賛しているハロー! プロジェクトの魅力について、音楽性、キャラクターという二つの観点から分析してもらった。

第1回:ハロプロはソフトレズ容認へ!? 掟ポルシェが語る『アイドルと恋愛』
第2回:BABYMETAL、BiS階段…「規格外のアイドル」が次々登場する背景を掟ポルシェが分析

――最近、モーニング娘。や℃-uteなど、ハロプロ勢の評価が高まっています。

掟ポルシェ(以下、掟):00年代の初頭頃、モーニング娘。は国民的人気を獲得していました。本隊だけでなく、ミニモニ。やタンポポなど、多くのハロプロユニットを成功させたことによって、アイドル冬の時代と言われる、歌うアイドルの人気が低かった十数年間を払拭して、このジャンルに新規参入ファンを大勢取り込んでアイドル歌謡界を復興させた功績は何より大きかった。ハロプロをテレビで見ない日がなかった時代は一度落ち着きましたが、それでもつんく♂さんはかなりの打率でアイドル歌謡曲の佳曲を作り続けていました。その後、AKB48、Perfume、ももいろクローバーZなど、アイドルに興味のなかった人たちをも熱狂させるアイドルが登場し、種種雑多なアイドル歌謡曲をフラットに見られる今日のような状態になったとき、つんく♂さんにしか出せない独自の味、時代を担うクリエイターとしてあるべき特殊性と異常性に、ようやくみんな気付いてきた、ということかと思います。

――というと?

掟:他のアイドル歌謡曲にはない、特徴的なオリジナルの手法がいくつもあって、一聴してつんく♂サウンドとわかるんですよ。よく言われる歌割りの細かさなどはその一例として顕著です。歌の基本は短いソロパートの連続になっていて、小節ごとに歌い分けるどころか、曲によっては吐息だけのパートのメンバーがいたり。グループアイドルにあって、各メンバーの声の魅力を知るには、ソロパートの連続で曲を構成されているのが重要なんだと、俺はつんく♂歌謡で思いましたね。しかしながらAKB48があえて基本ユニゾン(=同じメロディを全員で歌うこと)で歌っているのは、俺は秋元さんがつんく♂さんのやらないことをやっていった結果だと思っています。曲の作り方自体は、つんく♂さんはわりと古典的だと思うんですよ。歌謡曲の場合、三曲くらい元ネタがあって、それを合わせてひとつのものにするっていうやり方が常套手段ですが、同じことをやってもつんく♂さんという人間のフィルターがすごく特殊な故に、引用元とまったく違った曲になることが多い。この曲とこの曲とこの曲を合わせて、なんでこういう風に仕上がるの?と。例えば℃-uteの「大きな愛でもてなして」は、ジューシー・フルーツの「ジェニーはご機嫌ななめ」を元ネタにしているとご本人が以前おっしゃってましたが、まったく別な曲として聴こえる。元ネタ曲とは別なポップなものにしてしまう力が凄い。つんく♂さんという人間のフィルターが天才であり独特で、なかなか他のアイドル曲のクリエイターでは替えが効かない存在だということに、世間が気づき始めたんだと思います。

℃-ute「大きな愛でもてなして」(アップフロントワークス)

――00年代半ば以降のつんく♂さんは、正当な評価を受けているとはいえない状況がありました。

掟:つんく♂さん自身は、アイドル歌謡曲というスタンスで面白いことをやりたいという、同じ基本を続けているだけなんだと思うんですよ。アイドル歌謡曲は最新モードの流行音楽を採り入れて、引用したジャンルの洗練を借りるということもよくやります。2000年頃のつんく♂さんは、当時お洒落なポピュラーミュージックの代表だったR&Bをよく採り入れていた。しかしR&Bはうまく歌うことを求められる音楽であるが故に、アイドルとR&Bとの組み合わせだと、R&B側にアイドルの外連味の魅力が飲みこまれてしまいがちになる。アイドルとは何かといえば、一言で乱暴に言い表せば「可愛い」という言葉に置き換えられる。そして可愛いということは、拙いということと似ているところもあり、成熟した歌唱力を求められるR&B歌謡は、その真逆に向かう表現方法であるために、アイドルファンのニーズとすれ違いがあったのかもしれません。

――だけど今は、また時代と合ってきた?

掟:最近のハロプロ、特にここ1年程モーニング娘。のシングル曲は、今の時代の最新モードであるEDMを基本線にしています。EDMはボーカルの技術を聴かせる音楽ではなく、身体性を第一義にしたダンスミュージック。9期10期加入と、高橋愛、田中れいな卒業で歌唱力のあるメンバーが減り、歌の技術完成度よりもフォーメーションダンスの華麗さで魅せるグループに変わったことも、いい方向に働いているようです。かつてモーニング娘。のファンだったモーヲタで、10年ぶりに現場復帰した話もよく聞きますし、現在のEDM路線は間違っていないと思います。歌唱力が弱くなったからといって、歌声の魅力がなくなったわけではなく、先述したようなアイドルの歌声と外連味の関係から考えれば、逆に純化されわかりやすくなったのではないかと。ハロプロの魅力といえば、つんく♂さんの仮歌が反映されていると思われるヴォーカルライン。歌唱法に独特のクセがあるんですよ。


――ダンスミュージックでありながら、ヴォーカルラインに魅力があると。

掟:Juice=Juiceの宮本佳林さんが歌唱指導について語っているインタビューを読んだんですが、言葉の節々に「ン」を入れるように歌うのがその特徴だと。たとえばスペシャル・メニューという単語だったら、「スンペシャルゥン・メンニュゥン」って感じでしょうか。鼻にかける歌い方、ということですね。それがもともとつんく♂さんの持っているクセであり、セクシャルなものを歌詞ではなく歌唱法に滑り込ませてアイドルの魅力を際立たせるという、アイドル歌謡曲の古典的な手法でもあります。ストレートに歌詞にセクシャルを入れ込むと下品になる恐れがあるので、そこはあくまで隠喩にするのが、歌謡曲の常套手段。そして、かつてその見えない制約を破壊したのが秋元康さんで、「セーラー服を脱がさないで」とか、「スカート、ひらり」とか、あくまで“エッチ”に留めるレベルでハッキリ言葉にして歌わせる。その違いも興味深いです。つんく♂さんの歌唱法は古典的ですが、つんく♂さんぐらいそれを徹底しているプロデューサーが他にいないので、現代ではハロプロのお家芸にもなっています。

Juice=Juice 「ロマンスの途中」(アップフロントワークス)

――モーニング娘。は、メンバーもずいぶん入れ替わりました。

掟: 9期10期が歌唱力よりキャラクター重視で採用したところもあり、面白いメンバーがたくさんいて推しきれず、ファンとしては本当に嬉しい悲鳴ですね。佐藤優樹さんと工藤遥さんは、子供が野生をむき出しにしたままで入ってきた感じで、その芸能人らしからぬ自由奔放さが面白い。以前インタビューしたんですが、特に佐藤さんは発言のすべてが理解の範囲を軽く越えていて最高。ご両親の教育方針が独特で、生まれた時からしばらく家庭内では英語で話していたらしいんですよ。お母さんが英語翻訳のお仕事をされていたからだとかで。で、保育園に入った時、佐藤さんは自分の言葉が通じずびっくりした。そこに、ハーフの子が近づいてきて「君の話している言葉は外国語だから日本では通じないよ」と英語で言われて、初めて自分がしゃべっている言葉が母国語ではないことを知った。それ以来、保育園に通い続けて友達と日本語で会話するようになって英語をどんどん忘れていき、いまではまったく話せなくなって、保育園入園してから始めたから日本語も拙いという。インタビュー時に佐藤さんは12歳でしたけど、「トカゲ」を知りませんでしたからね。「一昨年」は「きょきょねん」と言っていて、そこも衝撃を受けました。よくこんな逸材が日本に残ってたなぁと。

――性格も変わっていると言われていますね。

掟:かなり特殊な育てられ方をしたからなのか、思ったことをそのまま口や顔に出してしまう。後輩で入ってきた小田さくらさんが、佐藤さんに一個だけやめてほしいと懇願したことが「なにか良くないところを指摘されたときに、指摘した人を睨むこと」だという。その話を聞いて、無意識過剰すぎて惚れ惚れしましたね。もうほとんど野生動物。でもアイドルは元来崇拝の対象であって、人間とは真逆の生き物であることが重要だと思っています。彼女は本当に面白いです。アイドルの中に生の人間は見たくないんですよ。瑣末なことで悩んだりしているのは、自分だけでたくさんですから。アイドルには、人間離れしているものを求めている。人として間違っている部分さえ魅力に思わせることが出来る才能を、俺はアイドルだと思っています。アントニオ猪木を眺めているときの気持ちに近いかもですね。

次回に続く

(取材・文=編集部)

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