Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『警視庁・捜査一課長』『キラメイジャー』『M 愛すべき人がいて』にみる、テレビ朝日の狙いと戦略

リアルサウンド

20/5/14(木) 6:00

 新型コロナウイルスの影響でテレビドラマの制作が中断となり、旧作の特別総集編が多数放送されている今。

 現時点で放送できている新作がわずかだとはいえ、ネット上で何かと話題になるのは、テレビ朝日の作品たちだ。

 一つは、ネットの話題独占状態になっている『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日×ABEMA)。

【写真】“あゆ”の雰囲気を漂わせる主人公アユ

 「運命に翻弄される主人公」「大げさでくさいセリフ回しと演技」「荒唐無稽な展開」など、ツッコミどころだらけの展開と真剣そのものの登場人物たちは、まさに往年の大映ドラマのテイストである。同じく大映ドラマテイストだった『奪い合い、夏』(AbemaTV)と同じく鈴木おさむ脚本であることから、完全に戦略であることは誰の目にも明らかだった。「面白い話があるんだけど」と前置きされると全く笑えなくなるように、狙いが見え見えのモノに対しては視聴者側も「簡単には笑わないぞ」と構えてしまう人が多いのではないだろうか。

 にもかかわらず、そんな視聴者の堅固な心構えや冷ややかな見方すらも軽く超越してしまう、暴力的なまでのパワフルなチープさと滑稽さと、衝撃のダサさ、おかしさが、ここにはあった。残念ながら、制作側の意図にまんまとのせられてしまった。完敗である。

 そして、いわゆるドラマとは一線を画する特撮枠、スーパー戦隊シリーズ第44作目の『魔進戦隊キラメイジャー』も攻めている。

 テレビに先駆けて映画を公開したことも史上初の試みだが、斬新なのは「宝石+乗り物」という意欲的な(強欲な?)Wモチーフ。

 戦隊のモチーフといえば、これまで動物や自動車、恐竜、忍者、救急、警察、魔法、海賊、スパイなど様々なものがあり、さらに合わせ技としては動物+忍者、拳法、輸送用機械、星座など、「動物+α」も定番となる中、近年では「恐竜×騎士」「怪盗×警察」のような王道の合わせ技も登場していた。

 しかし、今作の主人公たちは、不思議なパワーを秘めた赤、黄、緑、青、桃色の宝石「キラメイストーン」にタッグを組むのにふさわしいとして選ばれた戦士たちで、巨大な乗り物「魔進(マシン)」に変形する。要素が多く、設定が複雑だ。よく知らずに観ていると、キラキラ光る箱を持った怪人(?)のようなものが登場し、「ドライブ」と称して箱の中に戦士が入ってしまったり、乗り物に変身したりという謎の展開に混乱しそうだが、この要素の多さには並々ならぬ貪欲さ・気合を感じずにはいられない。

 おまけに、主役であるレッドは「文科系」。近年はいわゆる熱血系じゃないレッドも増えていたが、それにしても今回のレッドは見事なまでの開き直りぶりを見せる。

 4月26日放送回ではなんと「文科系の体力のなさ、甘く見ないでほしい」「誰だって自分の時間が必要なんだ」などといった文科系の香り漂うセリフが登場。体育会系の4人を文科系が得意分野の絵でやり込める展開が描かれ、文科系視聴者たちの共感を呼んだ。

 リーダーシップある熱血正義感がみんなを引っ張っていくのではなく、周りを和ませる力を持つレッド像は新しく、今の時代の空気とよく馴染むのだ。

 さらに、得意分野の「刑事ドラマ」において、独創的な路線をひた走ることで異彩を放っているのが、内藤剛志主演の『警視庁・捜査一課長2020』である。

 2012年から断続的に放送されているシリーズで、これまでもおかしなタイトルや内容の回は多々あったが、今シリーズにおいて一気にギャグ濃度が高まっている。

 第3話は「3割引シール殺人!? 絶対怒らないクレーム処理女の謎」で、そのタイトルの強烈さに加え、杉田かおるの約4年ぶりの地上派ドラマ出演となったことなどで話題になっていた。かと思えば、第4話は「殺人犯は餃子好き 東京~九州1000キロ食べ歩く女の謎」。餃子の皮を握りしめた遺体が見つかったところから事件が始まり、その遺体の名前は「堤太蔵(つつみたいぞう)」だったり、その妻は「堤ますよ」だったり、三倉佳奈が演じる“餃子の匂いを漂わせる謎の女”は「韮崎(にらさき)」だったりと、完全にダジャレ。

 しかも、斉藤由貴と三倉佳奈という朝ドラ女優を集めて、上島竜平演じる犯人の「富士山が見えなくなる悲しみと、餃子好きのこだわりと、おっちょこちょいな性格」によってのみ、殺人事件が起こったという展開には、誰もが脱力してしまったことだろう。

 一部芸人を除くと、出演者はベテランばかりだし、セットも映像も含めて、パッと見の画は普通の刑事ドラマに見える。それだけに、こんな珍味的刑事ドラマとは思わず、内藤剛志が出演していることで『科捜研の女』と勘違いして観て、がっかりしたという声があるほか、従来の刑事ドラマ好きの視聴者の中には「バカバカしい」「ただのパロディ」「脚本が雑すぎる」という批判や落胆の声もある。

 しかし、これはおそらく狙い通りの流れだろう。なぜなら、件の『M 愛すべき人がいて』の番組の合間に、本作の予告が流れているから。「割引シール」「餃子の皮」といった意味不明のワードが登場することによって、コテコテギャグ満載の『M 愛すべき人がいて』の関連物件のように見えてしまい、そこから食虫植物に引きつけられる虫のように、奇妙な味わいに惹かれて観てみる視聴者もいるのだ。

 2000年前後、他局がまだ若い世代に向けてドラマを作っていた時代に、独自路線で『相棒』『科捜研の女』などのシリーズ化を図り、着々と中高年の囲い込みのための種まきをしていたテレビ朝日。それが2010年代に大きく実を結び、2020年代に入った今、今度はさらに30~40代などSNSやネットを駆使する世代に向けて新たな種まきをしているのではないだろうか。

 『M 愛すべき人がいて』も『キラメイジャー』も『警視庁・捜査一課長2020』も、様々なツッコミどころがあるために、Twitterでは毎週キーワードがトレンド入りし、ネットの実況掲示板は大いに盛り上がる。全く別の味わいを持つ3作品だが、根底には共通する狙い・戦略があるような気がしてならない。

(田幸和歌子)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む