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テレビから離れて 〜 放送作家・鈴木おさむの作品レビュー 〜

何が起きてもおかしくない今だからこそ観てほしい 『日本沈没2020』が突きつけるリアル

毎月

第13回

『日本沈没2020』

Netflixで7月より配信が始まったアニメーションシリーズ『日本沈没2020』。湯浅政明監督が、小松左京の原作小説『日本沈没』を大胆にリメイクしている。ネットを見ると賛否両論入り混じっている。原作から大きく乖離している部分もあるので、好き嫌いが別れるところだろう。だが、僕はこの作品が大好きだ。全10話のうち、8話で号泣したし、最後のエンドロールでは拍手している自分がいた。

物語は、2020年の東京オリンピック後の世界。日本を襲う大地震。その中で、将来を期待される陸上選手の武藤歩と弟の剛、父・航一郎、フィリピン人の母・マリは運よく生きて再会することが出来る。だが、そこで、東京が沈み始めていることを知り、安全な場所を求めて東京を離れることになる。いわゆるロードムービー的雰囲気の物語。

その中での描き方が、とても残酷な部分がある。あっけなく人は死ぬ。それがかなりリアルだなと思うのだが、体の一部がちぎれたり、人によっては観るのが辛すぎると感じるだろう。でも、そこはとても大切な部分なのだと思う。

出会った仲間たちが死んでいき、消えていき、観ていてしんどくなる瞬間がある。中盤、物語が急展開して、その部分は僕の個人的趣味で言うと、あまりハマらなかった部分でもあるのだが、そこを超えてからの部分に俄然心を掴まれた。

この作品、観る年代によって、意見は大きく変わると思う。僕は「親目線」として観た。親として子供にどんな背中を見せていくべきか? どう生きていくべきか? 壮大なフィクションの中で、それを突きつけられているようで、それで泣いた。

そしてもう一つ。日本に住んでいる上で、地震や大きな災害と共に生きていかなければいけないというのは、僕の中で2011年以降、胸に刻まれている。過去の『日本沈没』を映像で観た時には、その「災害」と言う意味でのリアリティーはあったが、「日本が沈没するわけないと」いうベースで観ていた。

だが、今は違う。1年前の今日、今の世界を誰が予想していただろうか? コロナが日本で流行り始めた頃、テレビのワイドショーでは「風邪のようなもの」と紹介し、安心させているところもあった。だが、その「風邪のようなもの」と紹介されていたものは、世界中の脅威である。知り合いの医者と話していたら、「色々テレビで言ってるけど、世界中の人が初めて経験していることなんだから、わからないんだよ。わからないから気を付けなきゃいけないんだ」と。誰もが外出を控える日本の街並みを誰が想像しただろうか?

緊急事態宣言を終えた後に、再びコロナ感染者が急増している。若い人が感染しても重症化することが少ないと日本で言っている人が多い。だから油断してる人も多いのだろうが、ある人がこの増えている数を見て「不気味だ」と言っていて、すごく納得した。

なんか不気味なのだ。今の日本で、世界で、何が起きてもおかしくない。だからこそ、今、この『日本沈没2020』の見え方が違うのだ。「あるかもしれない物語」。是非!

『日本沈没2020』 Netflixにて配信中

プロフィール

鈴木おさむ(すずき・おさむ)

放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。漫画「秘密のチャイハロ」(講談社コミックスなかよし)が発売中。脚本監督の映画『八王子ゾンビーズ』が公開中。

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