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のんが明かす、3年間で芽生えた“開き直り”の精神 「今まで考えすぎていた」

リアルサウンド

19/12/25(水) 18:00

 映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が12月20日より公開中だ。2016年11月12日に公開され、日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞、アヌシー国際アニメーション映画祭審査員賞など、国内外で70以上の賞を受賞するなど大きな反響を呼び、大ヒットを記録した『この世界の片隅に』。本作は、新たなシーンが追加された長尺版にして、“新作”となる。

参考:のん、女優としてのリスタートへ 舞台『私の恋人』出演、『この世界の片隅に』放送で高まる期待

 今回リアルサウンド映画部では、『この世界の片隅に』に続いて北條(浦野)すずの声を担当した、のんにインタビュー。『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の話はもちろん、この3年の間に起こった心境の変化まで、今の思いを語ってもらった。

ーー『この世界の片隅に』の公開から3年が経ちました。異例のロングランとなる大ヒットを記録しましたが、改めて振り返っていかがですか?

のん:本当に嬉しくて、感動していました。劇場に来てくださった方々みんなが、この作品を届けたいという気持ちを持ってくれていて、その想いが、片渕(須直)監督をはじめ、映画を送り出した側と同じ気持ちのような気がして、観客の皆さんとひとつになっているような感覚がすごくありました。それが気持ちよくて、そういう経験をさせていただいていること自体がとても貴重だなと。

ーーのんさんご自身も舞台挨拶やイベントなどにたくさん参加されていましたよね。

のん:「映画ってこうやって届くんだな」というのを実感していたので、その充実感があったのも嬉しかったです。「この作品をもっと分かりたい」「この作品をもっと追求したい」と思ってくださる方もたくさんいて、それに片渕監督がずっと応えている。そういう関係性が築かれていくのもすごくあったかくて。3年も上映が続いてきた中で、新作という違ったかたちでまた作品を送り出せるというのも、映画のひとつの在り方として、本当に今までにないことを体験していると感じています。

ーー今回の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の製作が発表されたのは、2018年の7月下旬でした。のんさんはもちろんそれより前に話を聞いていたと思いますが、当時、率直にどう思いましたか?

のん:すごく嬉しかったです。片渕監督はずっと「やる!」とおっしゃっていたので、最初は信じてたんですけど、月日が流れていくにつれ、「あの話はなくなったのかな」と思うようになっていきました(笑)。そんな時に正式に決まったので、「おお! やるんだ! すごいっ!」って。いちファンのような気持ちで喜んでいました。でも、付け足された部分の声は今年の9月ごろに録音したんですけど、スタジオに入って撮り終わるまでは、まだ半信半疑の部分もあり……(笑)。しかも、監督たちがまだ作業をしている段階だという進行状況を聞いて、また半信半疑になり……(笑)。

ーー今日(11月25日)の時点でまだ完成していないという(笑)。

のん:そうなんです。公開日の12月20日に向けてまだ作ってるというすごいスケジュール感です。

ーーマスコミ試写で拝見したのはいくつかの未完成シーンを除いた“特別先行版”でしたが、新たにシーンが追加されたことによって、従来のシーンの見え方が変わってくるのが驚きでした。

のん:本当にすごいですよね! 私も「こういう見せ方ありなんだ!」って驚きました。作品自体の印象もガラッと変わるというか……同じシーンでも、セリフの響き方とかで、「あ、すずさんってこういうふうに思ってたんだ」と腑に落ちるところがたくさんあって。本当に“新作”として観る映画だなと思いました。

ーー録音は新たに追加されたシーンだけだったんですか?

のん:基本的にはそうですね。繋がりでどうしてもおかしくなってしまうところは新たに録り直しました。録音しながら、監督が「こうするとここのシーンの意味合いが変わってきちゃうけど、こういう解釈もありだよね」とおっしゃりながら取り組んだシーンもあったりして。そういうふうに、新たに追加された部分と元からあった部分が影響し合っていくのを、監督もすごく面白がってやられていた印象で、私もそれに乗っかっていきました。

ーー片渕監督のビジョンに寄り添いながらというか。

のん:そうですね。前回のレコーディングの時は、初めてお会いする片渕監督の考え方ややり方を全く知らずに臨まなければいけなかったので、すごい質問攻めにしたりして、いかに監督の意図を絞り出すかという感じでやっていたんですけど、この3年の間に、取材や舞台挨拶の場で、片渕監督の考えを聞く機会もたくさんありました。今回は、前回の時に受けた演出と、出来上がった作品の印象をすり合わせて考えることができたので、すごく安心感がありました。監督への信頼感も高まっていたので、一緒に集中すれば大丈夫だと。

ーーなるほど。一方で、3年のブランクがあるわけじゃないですか。3年経って年齢も生きる時代もまったく同じ役を演じるのは大変ではなかったですか?

のん:いや、めちゃめちゃ緊張しましたよ! 期間をおいて同じ役に挑むのも初めてだったので、「できるかなぁ」っていう不安はありました。でも、何度も作品を観直したり、原作を読み直したりしていくうちに、「こういう感じだったなぁ」とすずさんの感覚が蘇ってきたんです。それを掴んで捉えていって、本当にこの作品ってすごいなと感じていく中で、集中力も高まっていって。いざ監督とお会いしてスタジオに入ってみたら、すごくいい感じで集中することができました。

ーーこの3年の間に、のんさんご自身にもいろんな変化があったと思います。

のん:私、すごく話し下手なんですけど、たぶん3年前とかは監督と話す時も緊張して言葉を選ぶのに必死で、ひとつの文章にすごく時間をかけて話していたんです。だけど、この3年で開き直ることができて……。

ーーどういうことですか?

のん:“のんが喋れない”ことをみんな知ってるんだって気づいた時に、「じゃあ何も考えずに、正しいことを言おうとせずに、いい言葉を絞り出そうとせずに、思いついたことをそのまま言おう!」って決めたんです。そうやって話し始めたら、すごくスムーズに会話ができるようになって。そこから、監督ともすずさんのことや作品のことなどをすごくフランクに話せるようになったので、その“開き直り”はかなり大きかったと思います。

ーー以前は考えるところでつまずいてしまっていたわけですね。

のん:そうですね。「これどういうこと言ったらいいんだろう……」とか、いま言ったら1番いい言葉を絞り出そうとしていたところがあったんです。でも、そこまで期待されてないなって(笑)。自分が無音を作ってたからなんですけど、期待されない状況ができたので、逆に気楽に話せるようになったというか。

ーーいや、みんな期待はしてると思いますけど(笑)。

のん:えー! また話せなくなっちゃう(笑)。

ーーでも、たしかにあまり話していただけないイメージだったので、結構驚いています。

のん:大丈夫ですか? よかった! 脊髄反射で話すようにしているので(笑)。

ーー(笑)。「開き直る」という言い方をされていましたけど、それは、音楽だったり、絵だったり、映画監督だったりと、のんさん自身の幅広い活動にも反映されているんじゃないですか?

のん:たしかにそうですね。特に監督をやったのはすごく大きかったです。女優だけをやっていた時は、リテイクになったり、もっとこうしてと言われたり、監督がイライラしてたりするのを見ると、「私、そんなダメな演技してたのかな」とか、「なんでそんなにイライラしてるんだろ」と、ぐるぐる考えちゃっていたんです。だけど、実際に自分が監督をやってみたら、映像の中のことしか考えられなくて。誰がどうとかそういうことに考えが及んでいないことに気づいて、今まで考えすぎてたんだなって。考えすぎなくていいんだと思えるようになって、すごく楽になりました。

ーー監督を経験したことによって、役者としても変化が生まれたと。

のん:はい、めちゃくちゃやりやすくなりました。自分の中でそれが一番大きかったっていうくらいです。今までネガティブに考えてたんだなぁって。

ーーそれは大きな変化ですよね。来年春にはヒロイン役として出演された『星屑の町』の公開も控えていますが、実写作品に出演するのんさんを観たいという人はたくさんいると思います。

のん:求めていただけているというのはすごく嬉しいです。女優としてデビューして、女優でやってきたので、自分の中ではそこが揺らいでる気は全くないんです。これからも女優でやっていくつもりなので、それを求めていただけているのは、自分としてもすごく嬉しいし、ありがたいし、頑張りますという気持ちですね。

ーー期待しています。最後に、『この世界の片隅に』、そして『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』はのんさんにとってどのような存在になりましたか?

のん:これから役者をやっていく中で、欠かせない作品になりました。お受けする時から、これから先に出会えるか出会えないかわからないぐらいすごい作品だとビビッときたので、実際に参加できたことがすごく嬉しくて嬉しくて。自分の中で本当に特別な、忘れられない作品になりました。(取材・文=宮川翔)

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